初級翻訳・罪と罰 第190話

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覚えておいでですか、盗んだ品を隠してあるあの石のこと? ねえ、わたしはその石がどこかの菜園にあるのが、まるで目の前にあるかのようにありありと見える気がするんです。
あなたはザミョートフに菜園とおっしゃったでしょう。それからわたしの所でも、二度目にね。
ところで、あの時例のあなたの論文を解剖しかけたとき、あなたが説明を始められたときのことですが――あなたの一語一語が、まるでその裏側に別な言葉を隠しているかのように、二重の意味を持って響いたものです! いやね、ロジオン・ロマーヌイチ、そうしたわけで、わたしは最後の壁まで追い詰められて、そこで額をぶつけるような衝撃を受けて、ようやく我に返ったんですよ。
いや、おれとしたことが、これは一体何をしているんだ! もしその気になれば、こんなものは最後の一点一画に至るまで、まったく反対の意味にだって説明できるじゃないか、と。
それどころか、その方がかえって自然に見えるくらいだと、自認せざるを得なかったんです。
わたしも苦しみましたよ! 「いや、せめて何かほんの毛筋ほどでも証拠が握れたら!」と思っている矢先に、例の呼鈴の一件を聞き込んだんです。
わたしは思わずぞくぞくっとして、身震いするほどでしたよ。
さあ、これこそが毛筋ほどの証拠だ! まさにそうだ! もうその時、わたしはあれこれ判断などしなかった。
ただもう、そんな事をしたくなかったのです。
実際その時は、あなたを自分の目で見るためなら、千ルーブルくらい自腹を切って投げ出したっていい、そう思えるほどでしたよ。
ほら、あの町人があなたに面と向かって「人殺し」と言った後で、あなたはその男と百歩も並んで歩きながら、その百歩の間、一言もその男をなじることができなかった。その時のあなたの顔が見たかった!……ねえ、その背筋を走る寒気はどうです? 病の最中、熱に浮かされながら引いた呼鈴はどうです? こういうわけですから、ロジオン・ロマーヌイチ、あの時わたしがあなたにあんな悪ふざけをしたのも、あながち驚くには当たらないでしょう? それに、あなたはなぜちょうどあの時、わたしのところへ現れたのです? あなたもやはり、何者かに背中を押されるような気分だったのでしょう、まったく。
もしあの時ミコールカがわたしたちの邪魔をしてくれなかったら、それこそ……あの時のミコールカを、あなたも覚えておいででしょうな! よく覚えておいでですか? 実際、あれは青天の霹靂でしたよ! あれは雷が黒雲の間からとどろいて、稲妻の矢がさっと一閃したのです! さあ、そこでわたしがあれをどう迎えたと思います? わたしはあんな稲妻の矢なんか、これから先も信じやしませんよ。
それはあなたも自分でご覧になった通りです! どうしてどうして! あの後、あなたがお帰りになってから、ある点に対してなかなか辻褄の合った答弁を始めたので、さすがのわたしも驚いたくらいですが、しかしこれっぽっちも本当だとは思いませんでした! ねえ、わたしも金剛石のように、うんとがっちり頑張り通したわけなんですよ。
で、わたしは思いましたよ――どっこい、甘いぞ! ミコールカなんかにそんな事ができてたまるもんか!」
「ラズーミヒンが今さっき、僕にそう言いましたよ――あなたは今でもニコライを有罪と認めて、それを自分でラズーミヒンに力説なすったって……」
彼は息がつまり、最後まで言い切ることができなかった。
彼は相手の腹の底の底まで見破って、自分で自分を否定した人のように、名状しがたい興奮の面持ちで、耳をすましていた。
彼は信じることを恐れた。そして、信じていなかった。ポルフィーリイは、二通りの解釈ができる言葉の海を貪るようにかき回しながら、何かをもっと正確で、もっとはっきりとした手応えを掴もうと焦っていた。

「ラズーミヒン君ですか!」
今までずっと黙り続けていたラスコーリニコフが発したその質問に、ポルフィーリイは、まるでそれが嬉しくてたまらないといった様子で叫んだ。

「へ、へ、へ! いや、ラズーミヒン君なんかは、あんな風にわきへどけておかなきゃいけなかったんですよ。二人だけで話すのが好ましい、他人は出しゃばらないでくれ、というやつですな。ラズーミヒン君のは見当ちがいだし、それに彼は門外漢(もんがいかん)ですからね。わたしのところへ、それはもう真っ青な顔をして駆け込んできましてね……まあ、あの男のことは放っておけばいい、ここへ一緒に混ぜる必要はありません!

ところで、ミコールカのことですがね。あれがどんなに面白い創作の題材か、あなたはご存じないでしょう。もちろん、わたしの解釈しているような意味でですよ。まず第一に、あれは未成年の子供みたいなものです。臆病者というのでもないが、まあ、一種の芸術家みたいなものですな。いや、全く。わたしが彼をこんな風に説明したからといって、お笑いになってはいけませんよ。

彼は無邪気で、何事に対しても感受性が強く、真情がある。つまり夢想家なんですな。あの男は歌も歌えば踊りもやるし、話をさせれば、よそからわざわざ聞きに来る人がいるほど上手だそうです。学校へも通っているし、箸が転んだことにも腹を抱えて笑いこけるかと思えば、また正体もなく酔いつぶれたりもする。しかしそれも、道楽で飲んでいるわけじゃなく、時々飲まされるとやってしまうという、まだ子供っぽいところがあるんです。

あの時彼は盗みを働きましたが、自分ではそれを盗みだと思っていないんですよ。『床の上に落ちていたのを拾ったのが、どうして盗みになるんだ?』という理屈でね。ときに、あなたはあの男が分離派教徒(しゅうきょうの分派)なのをご存じですか? いや、厳密な分離派教徒というのでもないが、何か特殊な一派の教徒なんですよ。あの男の一族には、ベグーン派(世俗を捨てて放浪する宗教集団)の者がいたんですからね。彼自身もつい最近までまる二年間も、村のある長老の下で聴法者(ちょうほうしゃ)として生活しておった。こういう話はすべてミコールカ自身と、同郷のザライスクの人間から聞いたんですよ。

それどころか! いきなり荒野へ苦行に出かけようとしたこともあるんですからな! なかなか熱心でね、毎晩神さまにお祈りもすれば、古い『本当の』教典を読みふけったものなんですよ。ところが、ペテルブルグという街――ことに女と酒が、彼に強烈な作用を及ぼしたんです。もともと感受性の強い男だから、すぐ長老のことも、何もかも忘れてしまったのですよ。

こういう話も聞いて知っております。ここのある画家があの男を可愛がって、ちょいちょい訪ねて行くようになった。そこへ今度の騒ぎがやって来たんですな! すると、すっかりおじけづいてしまって、首をくくろうとする、ね! 逃げようとする、ね! いや、わが法律に対する民衆の観念ときたら、どうも始末におえません。中にはただ『裁判される』という言葉を恐れるだけで、パニックになるのがいるんですからな。これは誰の罪でしょう! 新制度による裁判が、いつか答えを出してくれるでしょう。どうかそうあってほしいものです!

さてそこで、監獄へ入ってみると、また有難い長老さまのことが思い出されたとみえるんです。それでまた聖書が出てきたわけですよ。

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