初級翻訳・罪と罰 第24話

ドストエフスキー

そのとき、ふいにあたりがひどく騒がしくなり、赤や青のシャツの上に百姓外套をひっかけた、ベロベロに酔っ払った大きな男たちが、酒場の中からわめいたり、歌ったり、バラライカを鳴らしたりしながらどやどやと出てきました。
「さあ、乗れ、みんな乗れ!」首が太くたくましく、ニンジンみたいに赤くて肉付きのいい顔をした、まだ若い男がそう叫びました。
「みんな連れてってやるから、乗れ!」しかし、すぐさま高笑いと叫び声が響き渡りました。
「そんな痩せ馬で、引いて行けると思ってんのか!」
「おい、ミコールカ、お前正気か? そんな痩せ馬に、こんなでっかい車をつけて!」
「おい、みんな、この葦毛のやつ、もう二十歳は過ぎてるぞ?」
「さあ乗れ、みんな連れてってやる!」ミコールカは真っ先に荷馬車へ飛び乗ると、また叫びながら手綱をとり、背伸びをして御者台の上にすっくと立ちました。
「栗毛のやつは、さっきマトヴェイと出かけちまった」彼は馬車の上から言いました。
「ところがこの牝馬ときたら、人をイライラさせることばかりしやがる。
本当に叩き殺してやりたいくらいだ、この穀潰しめ。
さあ乗れっていうんだよ! うんと飛ばしてやるからな! 飛ばして見せてやる!」
彼は葦毛馬を叩くのを楽しむように鞭を手に取りました。
「乗ればいいじゃねえか、どうしたんだ!」群衆の中で、大勢の高笑いが起こりました。「聞いたか、飛ばして見せるだとよ!」
「あの馬はもう十年も、走ったことなんてねえぞ」
「飛ばして見せるだあ!」
「構うこたあねえ、皆の衆、みんな鞭を持って、準備しな!」
「そこだそこだ! 引っぱたいてやれ!」
みんな大声で笑ったり、冗談を言い合ったりしながら、ミコールカの荷馬車へ乗り込みました。
六人ほどが乗り込みましたが、まだ座る余地はありました。
一行は太った赤ら顔の女を一人、車に引き入れました。
女は紅木綿の服を着て、ガラス玉で飾り立てた冠のような高い帽子をかぶり、足には長靴をはいて、くるみをカリカリとかじりながら笑っています。
まわりの群衆も同じように笑っていました。
実際、このみじめな牝馬が、これだけの重荷を引いて走ろうというのですから、笑わずにはいられません! 荷馬車の中では二人の若者が、ミコールカに手を貸そうと、それぞれ鞭を手に取りました。
「それっ」という声が響くと、やせ馬は力のかぎりぐんぐんと引き出しましたが、走るどころか歩くことさえままならず、ただ足を細かく交互に動かすだけで、背中に豆粒のように降り注ぐ三本の鞭に、うめき声を上げながら膝をつきそうになりました。
荷馬車の中と群衆の笑い声は、前よりもいっそう高くなりました。
ミコールカは腹を立てて、まるで本当に馬が駆け出すものと信じているかのように、いよいよしげく、鋭い勢いで牝馬を打ちすえました。
「皆の衆、おれも乗せてくれよ」一人の若者が、興味をそそられた様子で群衆の中から叫びました。
「乗ればいい! みんな乗れ!」とミコールカはわめきます。
「みんな連れてってやらあ。うんと引っぱたいてやるからな!」
そう言いながら、ぴしぴしと打ち続けるうちに、しまいには夢中になって前後を忘れ、これ以上どう打ってやったらいいのか分からないほどの様子でした。
「お父さん、お父さん!」とラスコーリニコフは父を呼びました。
「お父さん、あの人たちは何をしてるの! お父さん、可哀想な馬を叩いてるよ!」
「行こう、行こう!」と父は言いました。
「酔っ払い共が悪ふざけしてるんだ。馬鹿なやつらさ。さあ行こう、見るんじゃない!」と父は言い、彼を連れて行こうとしました。
けれども、彼は父の手を振り払い、われを忘れて馬の方へ走り寄りました。
しかし、哀れな馬はもうすっかり弱り果てていました。
馬はあえぎながら立ち止まり、また一しゃくりしたと思うと、あやうく倒れそうになりました。
「死ぬまで打ちのめせ!」とミコールカはいきり立ちました。
「もうこうなったら仕方がない。思いきり叩きのめしてやる!」
「あんた、十字架も持ってないのか、この悪党め!」と群衆の中から一人の老人が叫びました。
「こんな馬に、こんな重い荷物を引かせるなんて、見たことも聞いたこともねえ」ともう一人が言い足しました。
「いじめ殺す気か!」とさらに一人が怒鳴ります。
「ぐずぐず言うな! おらのもんだから、おらの好きなようにするんだ! もっと乗らねえか! みんな乗ってくれ! おらはどうしても飛ばさなきゃ気が済まねえんだ!」
ふいにどっと崩れるような笑い声が起こり、あたりを包み込みました――牝馬は激しい連打に耐えきれず、力なく後ろ足で蹴り始めたのです。
老人でさえも堪えきれず、にたりと笑いました。
実際、このみじめな牝馬が、まだ生意気に蹴ろうとしているのですから!
群衆の中からまた二人の若者が、両脇から馬を叩こうと、それぞれ鞭を手にして駆け寄りました。
二人はそれぞれ左右から走っていきました。
「鼻っ面をひっぱたけ、目の上を、目んところをくらわすんだ!」とミコールカは叫びました。
「歌を歌え、皆の衆!」と誰かが荷馬車の上から叫びました。
すると車の中の連中が、声をそろえて歌い出しました。
猥雑な歌が響き渡り、タンバリンがじゃらじゃらと鳴り、囃し拍子には口笛が混じりました。
例の女はくるみをかみ割りながら笑っています。
……ラスコーリニコフは、馬のそばへ走っていきました。
彼は前の方へ駆け抜けて、馬が目を、目の真上を打たれるのを見ました! 彼は泣きました。
心臓の鼓動は高まり、涙がこぼれました。
一人が振った鞭が彼の顔をかすめましたが、それでも彼は感じません。
彼は手をもみしだいて叫びながら、頭を振り振り、この出来事に対する非難の意を表している白髪の老人にすがりつきました。
一人の女房が彼の手をつかんで連れて行こうとしました。
けれども彼はそれを振り放して、再び馬の方へ走り寄りました。
馬はもう息も絶え絶えでしたが、それでももう一度足で蹴り始めました。
「ええ、この畜生、こうしてくれる!」とミコールカは猛然と怒鳴りました。
彼は鞭を投げ捨てて腰をかがめると、荷馬車の底から大きな太い轅(ながえ)を取り出し、両手にその端を握って、力いっぱい葦毛の馬に振り上げました。
「あいつ、打ち殺す気だ!」という叫び声がまわりに起こりました。「殺してしまう気か!」
「おらのもんだあ!」とミコールカは叫ぶと、力まかせに轅(ながえ)を打ちおろしました。
どすん、と重々しい打撃の音が響き渡ります。
「ひっぱたけ、ひっぱたけ! 何ぼんやりしてるんだ!」と群衆の中から声が上がりました。
ミコールカは二度目に轅を振り上げました。
すると、二度目の打撃が、かわいそうなやせ馬の背中を直撃しました。
馬はぺったりと尻を落としましたが、またはね上がり、車を引こうと最後の力をふりしぼって、あちこちへ体を揺らしました。
しかし、どの方向を向いても、六本もの鞭が待ち構えています。
そこへまた轅が振り上げられ、三度目の打撃が容赦なく降り注ぎました。
やがて四度目、五度目と、規則正しいリズムで力まかせの打撃が繰り返されます。
「中々粘り強えぞ!」とまわりでわめき立てる声が聞こえます。

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