初級翻訳・罪と罰 第221話

ドストエフスキー

だからこそ、二人で一緒にいる間だけは、少しだけ心が落ち着いていたのでした。けれど、こうして二人が別れてみると、どちらもそのことばかりを考えるようになりました。
ソーニャは昨日、スヴィドリガイロフが言った言葉を思い出していました。「ラスコーリニコフには二つしか道がない。ウラジーミルカ(流刑地へ続く街道)を行くか、さもなくば……」という言葉です。
その上ソーニャは、彼がひどく見栄っ張りで、高慢で、自尊心が強く、神様を信じていないことをよく知っていました。
「ただ臆病で、死ぬのが怖いというだけの理由で、あの人は無理やり生きているんだろうか!」彼女はついに、絶望的な気持ちでそう考えました。
そうこうするうちに、太陽はいつしか西に沈み始めました。
彼女は悲しげに窓の前に立ち、じっと外を見つめていました。けれど、その窓から見えるのは隣の家の大きな荒れ果てた壁だけでした。
いよいよ彼女が、あの不幸な男はもう死んでしまったのだと深く信じ込んだ、その時でした。当人が部屋に入ってきたのです。
ソーニャの胸からは、思わず喜びの叫びがこぼれました。
しかし、じっと彼の顔を見つめた瞬間、彼女はたちまち青ざめました。
「ああ、そうさ」とラスコーリニコフは苦笑いしながら言いました。
「僕は、お前の十字架をもらいに来たんだよ。ソーニャ。
お前は自分で僕に『四つ辻へ行って、罪を告白しろ』と言ったじゃないか。
それなのに、いざ実行するとなると、急におじけづいたのかい?」
ソーニャはびっくりして彼を見つめました。
彼女の耳には、彼の言葉の調子がどこか変に聞こえたからです。
冷たい震えが彼女の背筋を駆け抜けました。
しかし、すぐ次の瞬間には、この調子も言葉もすべて強がりなのだと気づきました。
彼は彼女と話していても、なんだか部屋の隅ばかりを見ていて、まともに彼女の顔を見るのを避けていたのです。
「僕はね、ソーニャ。そうした方が得らしいと判断したんだ。
それにはある事情があって……いや、話すと長くなるし、話したところでどうしようもない。
ただね、何が僕のイライラを誘うかといえば、ほかのことじゃない! あの愚かで獣のような顔をした連中が、すぐに僕を取り囲んで、目を皿のようにしてまともに人の顔をじろじろ見ながら、くだらない質問をぶつけてきて、答えを強要したり、後ろ指を指したりする……それがたまらなく嫌なんだ。
いや、僕はポルフィーリイのところへは行かないよ。
あいつの相手はもう飽き飽きだ。
僕はむしろ、親しい火薬中尉のところへ行くことにする。
きっと驚くだろうな。それもまた一つの効果というものだ。
だが、もっと落ち着かなくちゃならない。
近ごろ僕はあまりに神経質になりすぎた。
お前は信じないだろうが、さっきも僕は危うく拳を振り上げて、妹を脅かしそうになったんだ。
それも、ただ妹が最後に僕を見ようとして振り返っただけのことなのにさ。
本当に下劣きわまる……なんという見下げ果てた気持ちだ! ああ、僕もこんな人間になってしまったのか! さあ、こんなことを言っても仕方がない。十字架はどこにある?」
彼はまるで魂が抜けたような様子でした。
一箇所に一分ともじっとしていられず、一つのことに集中することもできませんでした。
彼の考えは互いに追いかけ合い、あちこちに飛び交っていました。
彼は夢中でしゃべり続け、その手はかすかに震えていました。
ソーニャは無言のまま箱の中から、糸杉の十字架と真鍮の十字架の二つを取り出しました。
そして自分も十字を切り、彼にも十字を切ってやったあと、その胸へ糸杉の十字架をかけてやりました。
「これはつまり、僕が十字架の苦しみを背負うという象徴だね、へへっ! まるで僕が今まで、苦しみ足りなかったとでもいうようだ。
糸杉のほうは、庶民が身につけるものなんだね。
そして真鍮のほうはリザヴェータのものだ。それを自分で選ぶなんて……どれ、見せてくれ。なるほど、これがあの女の胸にあったんだな……あの時? 僕はこれと同じような十字架を二つ知っている。銀のと、聖像のものだ。
僕はあの時、老婆の胸にそれらを投げつけてきたんだ。
いっそ今、あれをかけていればよかったのにな。本当に、あれをかけていれば……だが、僕はでたらめばかり言って、一番大切な用事を忘れてしまう。
僕はなんだかぼんやりしている……。実はね、ソーニャ。僕はただお前に予告しようと思って、お前に知っておいてほしくて、つまりそのために来たんだよ……まあ、それだけさ……ただそれだけのために来たのさ(ふむ、だが、もう少し話すことがあったような気がするんだがな)。
だって、お前自身も僕に行かせたかったんだろう?
だからさ、僕はこれから監獄住まいをするんだ。
これでお前の望みも叶うわけだよ。
それなのに、一体お前は何を泣いているんだい? お前までも? よしてくれ、もうたくさんだ。」「ああ、そんなふうに思われるのが、僕にとってはどんなにつらいことか!」
とはいえ、ある感情が彼の心の中にわき上がってきました。
ソーニャを見ていると、彼の心臓はきゅっと締め付けられるようでした。
『この女はいったい何者なんだ?』と彼は心の中で考えました。
『この女にとって、おれは何なんだ? どうしてこの女は泣いているんだ。どうして母さんやドゥーニャみたいに、おれをかばおうとするんだ? ……おれのために、いい乳母にでもなってくれるつもりかな!』
「せめて一度だけ、十字を切ってお祈りしてください」
ソーニャは震える声で、願いを込めるように言いました。
「ああ、いいとも。そんなことならいくらでも、お前の好きなだけやってやるよ! 心からだよ、ソーニャ。本当に心からなんだ……」
とはいえ、彼は本当は別のことを話したかったのです。
彼は何度か十字を切りました。
ソーニャはショールを手に取ると、それを頭からかぶりました。
それは緑色のウール製のショールで、以前マルメラードフが話していた、いわゆる「家族用」のもののようでした。
ラスコーリニコフの頭には、ふとそのことがよぎりましたが、何も尋ねはしませんでした。
実際、彼自身も自分がひどくぼんやりしていて、見ていて恥ずかしくなるほどそわそわしていることに、気づき始めていました。
彼はその自分自身の姿にぎょっとしました。
それと同時に、ソーニャが一緒に出かけようとしていることに、思いがけず心を動かされました。
「お前、どうするつもりだ! どこへ行くんだ? やめてくれ、やめてくれよ! 僕は一人で行く」
彼は狭量ないら立ちを覚え、ほとんど怒鳴るようにそう叫ぶと、出口の方へ向かいました。
「それに、なんだってそんなお供が必要なんだ!」
彼はそうつぶやきながら部屋を出て行きました。
ソーニャは部屋の真ん中に取り残されました。
彼は別れの言葉さえ言いませんでした。
もう彼女のことなど忘れていました。
ただ、毒々しい反抗心と疑念が、心の中で煮えたぎっていたのです。
『いったいこれでいいのか? 本当にこれでいいのか?』
彼は階段を下りながら、またそう考えました。

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