初級翻訳・罪と罰 第218話

ドストエフスキー

そしたら案の定、こうして予感が的中したわ! ロージャ、ロージャ、どこへ行くの? どこか遠くへ旅でもするの?」

「旅に出るんです」

「やっぱりそうだったのね! もしそうした方がいいのなら、お母さんも一緒について行くわ。ドゥーニャだってきっとそうするはずよ。あの子はあなたを愛しているもの、本当に深く愛しているわ。それからソフィヤ・セミョーノヴナだって、一緒に連れて行けばいい。わたしは喜んであの人を娘として迎えるわ。ドミートリイ・プロコーフィッチだって、きっと出発の手伝いをしてくださるわ……でも、ロージャ……一体どこへ行くの?」

「では、さようなら、お母さん」

「えっ! 今日すぐに行くの!?」

彼女はまるで、二度とわが子に会えなくなるかのように叫びました。

「ゆっくりしていられないんです。どうしても行かなくちゃならない。とても大事な用があるんですから……」

「お母さんが一緒に行くのはダメなの?」

「いいえ。それよりお母さん、僕のために膝をついて祈ってください。あなたのお祈りなら、きっと神様に届くはずですから」

「分かったわ。じゃあ、十字を切って、お前を祝福してあげる! これでいい、これでいいわ。ああ、神様、わたしたちは一体どうなってしまうの!」

そう、彼はうれしかったのです。誰にも邪魔されず、母と二人きりでいられたことが、心からうれしかった。この恐ろしい一週間、張り詰めていた彼の心は、初めてその瞬間、ふっと解きほぐされたような気がしました。

彼は母の前にひざまずき、その足に接吻しました。二人は抱き合って泣きました。母はもう、驚きもせず、あれこれと問い詰めたりもしませんでした。彼女はもう分かっていたのです。息子に恐ろしいことが降りかかっていて、今こそ彼にとっての「決断の時」が訪れたのだということを。

「ロージャ、かわいい、かわいいロージャ」と、彼女はしゃくり上げながら言いました。

「今こうしているお前、小さい頃にそっくりね。お前はいつもこうしてわたしのそばに来て、抱きついて接吻してくれたわ。お父さんがまだ生きていて、貧しくて苦しかった時も、お前がそばにいてくれるということだけで、わたしたちはどれほど救われたか分からない……」それからお父様を見送ってからというものは――何度いまのように、二人で抱き合って、お墓のそばで泣いたかしれません。
わたしが前からこんなに泣いてばかりいたのは、親としての直感で、これから災難が降りかかるのが分かっていたからですよ。
あの晩、覚えておいででしょう。わたしたちがこちらに着いて、初めてあなたを見たとき、わたしはあなたの目つき一つで何もかも察したんです。
あのとき、わたしの心臓は思わずどきりとしたわ。
それなのに、今日あなたにドアを開けてもらって、一目顔を見た瞬間に、ああ、いよいよ悲しい時が来たんだな、とそう思ったのよ。
ロージャ、ロージャ、でもあなた、今すぐ出かけるというわけではないのでしょう?」

「いいえ」

「またすぐに戻ってきてくれるわよね?」

「ええ……戻ってきます」

「ロージャ、怒らないでおくれ。わたしは別に、くどくどと問い詰めたいわけじゃないの。
そんなことができないのは、よく分かっているから。
でも、お願い、たった一言だけ教えてちょうだい。
あなたはどこか遠くへ行くの?」

「とても遠くへ行くんです」

「それじゃあ、そこには何か仕事や、出世の道、そんなものがあるのかしら?」

「何ごとも神様の思し召ししだいです……ただ、僕のために祈ってください……」

ラスコーリニコフは戸口へ向かって歩き出しました。
けれど、母は彼にしがみつき、絶望したまなざしで彼の目を見つめました。
彼女の顔は恐怖でゆがんでいました。

「もう十分ですよ、お母さん」
ここへ来る気になったことを深く後悔しながら、ラスコーリニコフは言いました。

「一生の別れじゃないでしょうね? まさか、もう二度と会えないなんてことはないわよね? ねえ、また来てくれるわよね、明日にも来てくれるわよね?」

「来ますよ、来ますよ。さようなら」

彼はとうとう母を振り切って出て行きました。
外はさわやかで、はればれとした、暖かい夕暮れでした。
天気は朝からすっかり持ち直していました。
ラスコーリニコフは自分の住まいをめざして歩き出しました。
彼は急いでいました。
すべてを日没までに片づけてしまいたかったのです。
それまでは、誰にも会いたくありませんでした。
自分の部屋へ上っていく途中、ナスターシャがサモワールのそばを離れて、じっと目を据えながら、一生懸命に自分を見送っているのにふと気がつきました。
『こりゃ、誰かおれのところへ来ているんじゃないかな?』と彼は考えました。
嫌悪の念と共に、ポルフィーリイの顔がちらと頭をよぎりました。
しかし、自分の部屋へたどり着いてドアを開けると、そこにはドゥーネチカの姿がありました。
彼女はたった一人で、深い物思いに沈みながら腰かけていました。
もうずっと前から待っていたようです。
彼はしきいの上に立ち止まりました。
彼女はぎくっとして長椅子から腰を浮かせ、彼の前に棒立ちになりました。
じっと兄の顔に注がれた彼女の視線には、恐怖の情と、かぎりない悲しみが宿っていました。
そのまなざしだけで、彼は妹が何もかも知っていることを悟りました。

「どうだろう、お前のところへ入っていってもいいかい? それとも出て行ったほうがいいかな?」と彼は疑り深い調子で尋ねました。

「わたしね、今日一日ソフィヤ・セミョーノヴナのところにいましたの。
わたしたちは二人で兄さんを待っていたんですのよ。
兄さんがきっとあそこへいらっしゃると思ったものですから」

ラスコーリニコフは部屋へ入ると、ぐったりと椅子に腰をおろしました。

「僕はなんだか精がないんだよ、ドゥーニャ。
もうすっかりへとへとさ。
実は今だけでも、十分冷静に、落ち着いていたいと思うんだけれど」

彼は疑わしげな視線をちらと妹に投げました。

「いったい兄さんは一晩じゅうどこにいらしたの?」

「よく覚えていない。
ねえ、ドゥーニャ、僕は今日こそ決心しようと思って、何度も何度もネヴァ河のあたりを歩き回ったんだ。
それだけは覚えている。
僕はそれでいっさいの決着をつけようと思ったんだが……しかし、思い切れなかった……」
またもや疑わしげにドゥーニャを見ながら、彼はささやくように言いました。

「まあ、よかった! わたしたちもつまりそれを心配していたのよ。わたしもソフィヤ・セミョーノヴナも! してみると、兄さんはまだ生きることを信じていらっしゃるのね。
まあ、よかった、ほんとうによかった!」

ラスコーリニコフは苦い笑いを漏らしました。

「僕は信じちゃいないよ。
だが、今お母さんと抱き合って、一緒に泣いたんだ。
僕は信じてはいないけれど、お母さんに僕のために祈ってくださいと頼んできた。
これはいったいどうなっているのか、自分でもわけが分からないよ、ドゥーネチカ。

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