初級翻訳・罪と罰 第123話

ドストエフスキー

「わたしはただ、亡くなったマルファ・ペトローヴナから、直接秘密裏に聞いたことを言っているだけです。
ただしお断りしておきますが、法律の面から見れば、この事件は非常に曖昧なものです。
あの土地にレスリッヒという、小金を貸したり、その他の商売にも手を出している外国人の女がいましてね。いや、今でもいるはずです。
このレスリッヒという女とスヴィドリガイロフ氏は、昔から非常に親密で、しかもどこか怪しい関係にあったのです。
この女のところに、遠縁の娘が一人おりましてね。確か耳が聞こえず口もきけない子だったと思いますが、年は十五か、ひょっとすると十四くらいだったかもしれません。
ところがこのレスリッヒが、その姪をひどく憎んでいて、何をするにもガミガミと怒鳴り散らす。いや、それどころか、むごたらしい仕打ちをしていたのです。
ある時、その娘が屋根裏で首を吊っているのが見つかりました。
娘は自殺と判定され、いつもの決まり通りの手続きで事件は終わったのです。
ところが後になって、その小娘は……スヴィドリガイロフのために、ひどい乱暴を受けたのだと密告する者が現れたのです。
もっとも、そのあたりは非常に曖昧なのですがね。
というのも、その密告したやつもまたドイツ人の女で、信用のおけないようなあばずれ女だったからです。
それに、正式な密告というほどのことでもなかったので、結局はマルファ・ペトローヴナの尽力とお金のおかげで、事件はただの噂として消えてしまったのです。
とはいうものの、この噂には深い意味がありました。
もちろんあなたはね、アヴドーチャ・ロマーノヴナ、あの家で拷問のような目にあって死んだ、下男のフィリップの話をご存じでしょう。
六年前、まだ農奴制だった頃の話です」

「私の聞いた話は、全く違いますわ。フィリップは自分で首を吊ったと聞いています」

「それは確かにそうです。しかし、スヴィドリガイロフ氏の絶え間ないいじめや虐待が、あの男をそんな不自然な死に方へと追い込んだ。いや、もっと正確に言うなら、死ぬように仕向けたということなのですよ」

「私にはそんなことは分かりませんわ」とドゥーニャはそっけなく答えました。
「私はただ、なんだか妙な噂を聞いただけですの。つまり、そのフィリップという男は、少し憂鬱症の気味がある、いわゆる独学の哲学者で、みんなの言葉を借りれば『本に読みふけっていた』のだそうです。
首を吊ったのも、スヴィドリガイロフさんに叩かれたからではなく、人にからかわれたからだということですわ。
私がいた頃、あの人は召使いの扱いが上手で、みんなもあの人を慕っていたくらいですわ。もちろん、フィリップが死んだことについては、みんなあの人を責めてはいましたけれど」

「アヴドーチャ・ロマーノヴナ、お見受けしたところ、なんだかあなたは急にあの男をかばいたくなったようですね」と、ルージンは薄ら笑いを浮かべながら言いました。
「実際、あの男は女に関しては、煮ても焼いても食えない食わせ物ですよ。
あの奇怪な最期を遂げたマルファ・ペトローヴナこそが、その悲しむべき実例ではありませんか。
私はただ、疑いようもなくあなた方のすぐ近くに迫っている、やつの新しい計画について、あなたとお母様にご忠告申し上げて、お役に立ちたいと思ったまでです。
私個人としては、あの男はいずれまた債権者によって監獄へ放り込まれるに違いないと固く信じております。
マルファ・ペトローヴナは、子供たちの将来を考えて、あの男に何か財産を譲ろうなどとは、毛頭考えておりませんでした。
ですから、たとえあの男に何か残していったにしても、それは最低限必要な程度の、大した価値もない一時的なものに違いありません。ああいう浪費癖のある男なら、一年も持たないことは目に見えていますよ」

「ピョートル・ペトローヴィッチ、どうかお願いですから」とドゥーニャは言いました。
「スヴィドリガイロフさんのお話は、もうこれきりにしましょう」そんな話を伺っていると、なんだか嫌な気分になってまいりますから」

「あの男は、つい今しがた僕のところへ来ていたんだよ」

不意にラスコーリニコフが口を開き、それまで続いていた沈黙を破りました。
部屋の四方から驚きの声が上がりました。全員の視線が彼に集まります。あのルージンでさえ、興味津々といった様子で身を乗り出しました。

「一時間半ほど前、僕が寝ているところへいきなり入ってきて、僕を起こして名乗りを上げたんだ」とラスコーリニコフは言葉を続けました。「ずいぶんとくだけた態度で、なんだか愉快そうな様子だったよ。そして、そのうちに僕と意気投合するものだと、すっかり思い込んでいるみたいだった。いろいろ話した中で、あの男はしきりにお前と会いたがっていてね、ドゥーニャ。僕にその仲介をしてくれと頼むんだ。あの男はお前にあることを申し入れたいといって、その内容を僕に打ち明けたよ。それだけじゃない。ドゥーニャ、あの男は確かな情報として、マルファ・ペトローヴナが亡くなる一週間前に遺言を残し、お前に三千ルーブリを譲ってくれたと報告してきたんだ。そして、そのお金はごく近いうちに、お前の手元に届くはずだという話だった」

「まあ、なんてありがたいこと!」

プリヘーリヤは叫んで、胸の前で十字を切りました。
「ドゥーニャ、あの人のためにお祈りしてあげなさいよ。ちゃんとお祈りするのよ!」

「それは、全く本当のことです」とルージンはつい口を滑らせました。

「で、で、それからどうなったの?」とドゥーネチカがせきたてます。

「そうだな、それからあの男が言うには、自分も大した金持ちではなく、財産はすべて、いま伯母のところにいる子供たちに渡ってしまうそうだ。それから、どこか僕の近くに泊まっていると言っていたが、具体的な場所は分からない。聞かなかったからね……」

「でも、あの人は一体何を、何をドゥーニャに申し入れようとしているのかしら?」とプリヘーリヤはおびえながら尋ねました。「お前に話したの?」

「ええ、話しました」

「なんなの?」

「あとで言いましょう」

ラスコーリニコフはそこで口を閉ざすと、紅茶の方へ手を伸ばしました。
ルージンは懐中時計を取り出して時間を確認しました。

「わたしは仕事の都合で、おいとましなければなりません。そうすれば、お邪魔にもならないでしょうから」

彼は少しムッとしたような表情でそう言いながら、椅子から腰を浮かせました。

「いらっしゃらないでくださいまし、ピョートル・ペトローヴィッチ」とドゥーニャが言いました。「あなたは一晩中いるつもりで来てくださったのではありませんか。それに、あなたご自身が、お母様と何やらお話ししたいことがあると、そうお手紙に書いていらっしゃったではありませんか」

「それは、その通りでございます。アヴドーチャ・ロマーノヴナ」

ルージンは再び椅子に腰を下ろしましたが、帽子は手に持ったままでした。
「おっしゃる通り、あなたとも、ご母堂ともよくお話ししたいと考えておりました。しかも、ごく重要な件に関するお話です。

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