初級翻訳・罪と罰 第192話

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「僕はまた以前の質問を繰り返しますが、もし僕を有罪と認めておられるなら、どうして収監しないんです?」

「はあ、その質問ですか! よろしい、個条を追ってお答えしましょう。第一、あなたをそういきなり逮捕するのは、わたしにとって不利だからです」

「なぜ不利なんです! もしあなたが確信しておられるなら、そうしなくちゃならないはず……」

「ええっ、わたしの確信がなんですって? こんな事はすべて今のところ、わたしの空想にすぎないんですからね。それに、あなたを監獄へ入れて落ち着かせる必要が、どこにあるんです? あなたは自分から要求していらっしゃるくらいだから、自分でもおわかりになるでしょう。たとえば、あなたをあの町人に突き合わせたって、あなたはただこう言われるだけです。『きさまは酔っ払ってるのかどうだ? おれがきさまと一緒にいたところを誰が見た? おれはただきさまを酔っ払いと思ったんだ。それに実際、きさまは酔っ払っていたじゃないか』――さあ、その場合わたしはこれに対して、なんと言えばいいんです。まして、やつの言うことより、あなたの申し立ての方が本当らしいんですからな。だって、やつの供述は、ただ心理だけですが――そんなことはああいう面をしてちゃ、第一柄に合いませんよ――ところが、あなたの方は急所を突いてるわけですからね。何分あの野郎、大酒呑みで通っておるんですよ。それに、わたし自身がもう幾度となく、この心理主義というやつは両方に尻尾を持っていることを、ちゃんと白状しましたからね。それどころか、うしろの尻尾の方が大きくて、ずっと本当らしいほどですが、今のところわたしはそれ以外、あなたに対抗すべく何一つ持っていないことまで白状しました。それに、結局はあなたを収監することになるでしょうし、第一、こうして何もかもあらかじめあなたに声明するために、自分からわざわざやって来たのですが(世間並みのやり方じゃありませんやね)、それでも結局あなたに向かって(これも世間並みじゃありませんが)、こんな事をするのはわたしにとって不利だと、真っ直ぐに言ってるんですからね。さて第二に、わたしがやって来たわけは……」

「さあ、それで第二の理由は?」(ラスコーリニコフはやはりまだ息を切らしていた)

「そのわけはもうさっき言ったとおり、わたしはあなたと話合いをつけるのが、自分の義務だと考えるからです。わたしはあなたに悪人と思われたくない、まして、本当になさろうとなさるまいとご勝手ですが、わたしは心からあなたに好意を持っているんですから、なおのことです。したがって第三に、わたしはいさぎよく自首なさいと、真正面から歯に衣きせずおすすめしようと思って、ここまでやって来たのです。これはあなたにとってどれだけ有利かしれないし、またわたしにとってもやはり有利なんです――肩の荷がおりますからね。さあ、どうです、わたしとしてざっくばらんな態度じゃありませんかね?」

 ラスコーリニコフはちょっと考えていた。

「ねえ。ポルフィーリイ・ペトローヴィッチ、あなたは自分で心理だけだと言いながら、やっぱり数学に入りこんでおしまいになりましたね。それで、もしあなたの考え違いだったらどうします?」

「いや、ロジオン・ロマーヌイチ、考え違いじゃありません。例のほんの毛筋ほどの証拠を握ってるんですからね。その毛筋ほどのやつを、わたしはあの時見つけたのです。神さまが授けてくだすったんです!」

「毛筋ほどのやつって?」

「それは言いますまい、ロジオン・ロマーヌイチ。それにどっちみち、わたしも今はもうこの上猶予する権利がないから、いよいよ収監します。だから、あなたもよく分別なさい――今となったら、わたしにとってはどちらでも同じことです。したがって、ただあなたのために言ってるだけなんです。全くその方がいいですよ。ロジオン・ロマーヌイチ!」

 ラスコーリニコフは毒々しい薄笑いを漏らした。

「こうなると、もうおかしいのを通りこしますよ。それは無恥というものです」「だとしても、仮に僕が有罪だとして――そんなことは断じて言いませんが――仮にそうだとしても、あなた自身が僕を収監して、僕を落ち着かせてやると言っているのに、なぜわざわざ自分から自首なんてしなきゃならないんです?」

「いやいや、ロジオン・ロマーヌイチ、そう言葉通りに受け取ってはいけませんよ。事によったら、そう簡単には落ち着かないかもしれませんからね! だって、これはあくまで理論、それもわたしの個人的な理論に過ぎないんですから。ええ、わたしごときがあなたに対して、どれほどの権威になれるというのでしょう? もしかすると、わたしは今この瞬間も、あなたに何か隠し事をしているかもしれませんぜ。わたしだって、すべてをあなたにぶちまけるわけにはいきませんからね、へへっ! そこで第二段階として、自首をすればあなたにとってどんな利益があるかという問題です。ねえ、自首することでどれほどの減刑が得られるか、それはおわかりでしょう? だって、この自首がどういうタイミング、どういう瞬間に当たるのか、よく考えてごらんなさい! すでにほかの男が罪を引き受けて、事件をすっかりこんがらがせてしまった、そんな時ではありませんか? 神に誓って言いますが、あなたの自首がまるで突発的に起こったことのように、『あちら側』(法廷のことです)でうまく取り繕って差し上げますよ。あんな心理学的な証拠なんて無力化して、あなたに対する疑いもすべて闇から闇へと葬り去ってしまいましょう。そうすればあなたの犯罪も、一種の頭脳の混乱、つまり『魔が差した』という扱いにできる。もっとも、正直なところ、混迷に違いありませんからね。わたしは潔白な人間です、ロジオン・ロマーヌイチ。自分の言葉には責任を持ちますよ」

 ラスコーリニコフは悲しげに黙り込み、うつむいてしまった。彼は長いあいだ考え込んでいたが、やがてふたたびニヤリと笑った。しかし、それは先ほどのような皮肉ではなく、つつましく、どこか沈んだ笑いだった。

「いいや、いりません!」ラスコーリニコフは、ポルフィーリイに隠し事をする気などないといった調子で言った。「そんなことには価値がない! 僕は何も、あなた方に減刑してもらう必要なんてないんだ!」

「ああ、それを恐れていたのですよ!」ポルフィーリイは熱っぽい口調で、まるで自分を抑えきれないかのように叫んだ。「つまり、それを恐れていたのです――減刑なんていらない、と言い出すことをね」

 ラスコーリニコフは悲しげな、心に染み入るような目で彼を見つめていた。

「いや、命を粗末にしてはいけませんよ!」ポルフィーリイは言葉を続けた。「あなたには、この先まだまだ人生がある。どうして減刑が不必要なのですか、どうして! あなたは本当に、こらえ性のない人だ」

「何がそんなにあるっていうんだ?」

「生活ですよ! いったいあなたは予言者か何かですか? 自分の未来について、いったいどれだけのことを知っているんです? 『求めよ、さらば与えられん』です。おそらく、神様も今ここで、あなたを待っておられるのかもしれませんよ。

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