初級翻訳・坊つちやん 第25話

坊つちやん

最近は学校へ来てその一銭五厘を見るのが苦になるくらい嫌だったんだ」と言うと、山嵐は「君はよっぽど負け惜しみの強い男だな」と言うので、「君こそよっぽど強情っぱりだ」と答えてやった。

それから二人の間でこんな会話が始まった。

「君は一体どこの出身だ」
「俺は江戸っ子だ」
「うん、江戸っ子か。道理で負け惜しみが強いと思った」
「君はどこだ」
「僕は会津だ」
「会津っ子か。強情なわけだ。今日の送別会へ行くのかい?」
「行くとも。君は?」
「俺は無論行くんだ。古賀さんが立つ時は、浜まで見送りに行こうと思っているくらいだからな」
「送別会は面白いぜ、出てみるといい。今日は大いに飲むつもりだ」
「勝手に飲むがいい。俺は料理を食べたらすぐ帰る。酒なんか飲む奴は馬鹿だ」
「君はすぐ喧嘩をふっかける男だな。なるほど、江戸っ子の軽はずみな風をよく表しているよ」
「何でもいい。送別会へ行く前にちょっと俺の家へ寄ってくれ、話があるから」

山嵐は約束通り俺の下宿へ寄った。俺はこの間から、うらなり君の顔を見るたびに気の毒でたまらなかったが、いよいよ送別の日となったら、何だか憐れで、できることなら俺が代わりに行ってやりたいような気分になってきた。そこで、送別会の席でうらなり君のために盛大なスピーチをして、会を盛り上げてやろうと考えた。だが、俺のべらんめえ調子じゃ話にならないから、声の大きい山嵐を味方につけて、赤シャツの野郎の度肝を抜いてやろうと思い、わざわざ山嵐を呼んだというわけだ。

俺はまず、マドンナ事件について話し始めたが、山嵐は俺以上に詳しく知っていた。
俺が野芹川の土手での出来事を話して、「あれは馬鹿野郎だ」と言うと、山嵐は「お前は誰を捕まえても馬鹿呼ばわりするな」と言い返した。
「今日学校で、俺のことを馬鹿と言ったじゃないか」
「俺が馬鹿なら、赤シャツは馬鹿じゃないのか?」と俺が問うと、自分は赤シャツの同類じゃないと山嵐は主張した。
「それじゃあ赤シャツは、腑抜けの呆助(あほすけ)ってことか」と言うと、「そうかもしれないな」と山嵐は大いに賛成した。
山嵐は腕っぷしは強いが、こういう言葉のやり取りになると、俺よりずっと頭の回転が鈍い。
会津っ子というのは、みんなこういうものなのだろうか。

それから、赤シャツが俺に言った「給料を上げてやる」「将来は重く登用する」という話について伝えると、山嵐は「ふふん」と鼻で笑って、「それじゃあ、俺をクビにするつもりだな」と言った。
「クビにするつもりだとして、お前は本当にクビになる気か?」と聞くと、「誰がなるもんか! 俺がクビになるなら、赤シャツも一緒にクビにさせてやる!」とひどく威張った。
「どうやって一緒にクビにさせるんだ?」と突っ込んで聞いてみたが、「そこまではまだ考えていない」という答えだった。
山嵐は強そうだが、知恵はあまり回らないらしい。

俺が増給を断ったと話すと、山嵐は「さすが江戸っ子だ、えらい!」と大いに喜んで褒めてくれた。
「うらなり君がそんなに嫌がっているなら、なぜ留任させてやるように運動しなかったんだ?」と聞くと、うらなりから話を聞いた時にはもう決定事項になっていて、校長に二度、赤シャツに一度談判してみたが、どうにもならなかったと話した。
その件については、古賀(うらなり)君が良すぎるのも困りものだ。
赤シャツから話があった時、断固として断るか、せめて「一応考えさせてください」と逃げればよかったのに、あの口八丁な言葉に丸め込まれて、その場ですぐに承諾してしまったものだから、後からお母さんが泣きついても、山嵐が談判に行ってもどうにもならなかったと、山嵐は非常に残念がっていた。

「今度の事件は、赤シャツがうらなりを遠ざけて、マドンナを手に入れるための策略なんだろう?」と言うと、「無論、そうに違いない」と答えた。
あいつは大人しい顔をして悪事を働いて、誰かに何か言われると、すぐに言い逃れができるように準備している。本当に油断のならない食えない奴だ。
「あんな奴には、鉄拳制裁を加えるしかない」と言って、山嵐は瘤(こぶ)だらけの腕をまくってみせた。

ついでだから、「君の腕は強そうだな。柔術でもやるのか?」と聞いてみた。
すると山嵐は二の腕に力瘤を作り、「ちょっと掴んでみろ」と言うので、指先で揉んでみると、何のことはない、銭湯にある軽石みたいな硬さだ。
あまりに感心したから、「君、その腕なら赤シャツの五人や六人は一度に張り飛ばせるだろう?」と聞くと、「無論さ」と言いながら、曲げた腕を伸ばしたり縮めたりする。力瘤が皮の中でぐるぐると回っていて、見ていてすこぶる愉快だ。
山嵐が言うには、丈夫な紐を二本より合わせて、この力瘤のできる場所に巻きつけて、グッと腕を曲げると、紐がプツリと切れるらしい。
「そんな紐なら、俺にもできそうだな」と言うと、「できるものか! できるならやってみろ!」と来た。
切れないと格好がつかないから、俺は試すのをやめておいた。

「どうだ、今夜の送別会で大いに飲んだあと、赤シャツと野だをぶん殴ってやらないか?」と面白半分に勧めてみたら、山嵐は考え込んでいたが、「今夜はやめておこう」と言った。
なぜか聞くと、「今夜は古賀に気の毒だからな。それに、どうせ殴るなら、あいつらの悪いところをしっかり見届けて、その現場で殴らなきゃ俺たちの負けになるからな」と、意外にも分別のあることを付け加えた。
山嵐のほうが、俺より少しは考えがあるらしい。

「じゃあ、演説をして古賀君を大いに褒めてやってくれ。俺がやると江戸っ子のぺらぺらした喋りになって、重みがないからダメだ。それに、いざ大勢の前へ出ると、急に胸がムカムカして喉のあたりに大きな塊が上がってきて言葉が出なくなるんだ。だから君に譲るよ」と言うと、「妙な病気だな。じゃあ君は人前じゃまともに喋れないのか? それは困るだろう」と聞かれたので、「まあ、そんなに困っちゃいないさ」と答えておいた。

そうこうしているうちに時間になったので、山嵐と一緒に会場へ向かった。
会場は「花晨亭(かしんてい)」という、この町で一番の料理屋だそうだが、俺は一度も足を踏み入れたことがない。
元は家老の屋敷だったものを買い取って営業しているという話だが、なるほど外観からして厳めしい構えだ。
家老の屋敷が料理屋になるなんて、陣羽織を縫い直してチョッキにするようなものだな。

二人が着いた頃には、もうほとんどの人が揃っていて、五十畳の広間に二つ三つの人の塊ができていた。
五十畳だけに、床の間はとにかく大きい。
俺が山城屋で借りている十五畳の部屋の床の間とは比べ物にならない広さだった。床の間を測ってみたら二間あった。
右の方には、赤い模様のついた瀬戸物の瓶が置いてあって、その中に大きな松の枝が挿してある。
松の枝なんか挿して何をするつもりか知らないが、何ヶ月経っても枯れて散る心配がないから、お金がかからなくていいだろう。
あの瀬戸物はどこで作られるのかと博物学の先生に聞いたら、「あれは瀬戸物じゃありません、伊万里です」と言った。
「伊万里だって瀬戸物じゃないか」と言い返すと、博物学の先生は「えへへへへ」と笑っていた。

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