それに、わたしなんか父親の資格などありませんよ! わたし自身は、一年前にマルファがくれたお金だけを持ってきました。
わたしにはこれで十分なんです。
ごめんなさい、今すぐ用件に移りますから。
ついては、おそらく実現するであろう航海に出かける前に、わたしはルージン氏との話も決着させておきたいのです。
あの男が嫌いでたまらないというわけではありませんが、あいつのせいでマルファとも喧嘩をしましたからね。
つまり、この縁談もマルファの差し金だということが、わたしの耳に入ったわけなんです。
そこで、今度はあなたを仲介役にして、妹さんとお会いしたいと思っているのです。
なんなら、あなたも同席してくださっても構いません。
まず第一に妹さんに向かって、ルージン氏との結婚は、ちっとも利益にならないばかりか、かえって損になるということを、納得してもらえるようにお話ししたい。
それから、以前のいろいろな気まずい出来事について謝罪した上で、わたしから一万ルーブリを贈呈することを許していただきたいのです。
つまりそれによって、ルージン氏との決裂から生じる損害を少しでも軽くして差し上げたいと思いましてね。
もっとも、この決裂については妹さんもさほど反対ではないだろう、ただきっかけさえあれば、とそう思っていらっしゃるのは、わたしの信じて疑わないところです」
「あなたは本当に、本当に気が狂っています!」ラスコーリニコフは怒るというよりも、呆れ果ててこう叫んだ。
「よくもまあ、そんなことが言えたものですね!」
「あなたに怒鳴られることは、わたしも覚悟していましたよ。
ですが第一に、わたしは金持ちというわけではありませんが、この一万ルーブリはあってもなくてもいいお金なのです。
というより、わたしには全く不要なものなのです。
もしアヴドーチャ・ロマーノヴナが受け取ってくださらなければ、わたしはおそらく、もっと馬鹿げたことに使ってしまうでしょう。
これが理由の一つ。そして二つ目に、わたしには良心にやましいところは毛頭ありません」つまり、一切の打算などなしに、このお金を差し上げたいと思っているからです。
まあ、実際に受け取るかどうかは別として、いずれあなたにしろ、アヴドーチャ・ロマーノヴナにしろ、わかってくださる時が来るでしょう。
問題はすべて、わたしが尊敬すべきあなたの妹さんに苦労をかけたり、不快な思いをさせたりした点なのです。
だから、いま心から反省し、誠心誠意こう考えているのです――といっても、何もお金で罪を帳消しにしようとか、自分が与えた不快感に対して賠償しようとか、そういった意味ではありません。
ただひたすらに、あの方のために何か力になりたい、そう思っているだけなのです。
つまり、わたしだって本当に、悪いことばかりする専売特許を持っているわけではない、ということを証明したくて申し出た次第です。
もしわたしのこの申し出に、百万分の一でも打算が含まれていたとしたら、わたしはこうしてまともに切り出したりはしませんし、また、わずか一万ルーブリ程度の金を提供などしませんよ。
現に五週間前だって、それ以上の金額を妹さんに提供したのですからね。
それだけではありません。ことによると、わたしはごく近いうちに、ある娘と結婚するかもしれません。
そうなれば、アヴドーチャ・ロマーノヴナに対して野心を持っているのではないか、という疑いも、自然に消滅するはずでしょう。
結論として申し上げますが、アヴドーチャ・ロマーノヴナはルージン氏と結婚されたとしても、この程度の金額は結局手に入れることになるのです。
ただ、その出どころが違うというだけでね――まあ、ロジオン・ロマーヌイチ、あなたも腹を立てずに、落ち着いて冷静によく考えてみてください」
スヴィドリガイロフ自身は、この時、しごく冷静に落ち着き払っていた。
「お願いですから、その話はもう切り上げてください」とラスコーリニコフは言った。
「なんにしても、許すことのできない暴言です」
「けっして、けっしてそんなことはありません。
そんなふうにおっしゃったら、人間はこの世でお互いに、くだらない世間体という形式のために悪いことばかりし合って、良いことは何一つできないことになってしまいます。
それはばかばかしいことではありませんか。
では、もし仮にわたしが死んで、その金額を妹さんに遺言で残したとしたら、それでも妹さんは受け取りを拒否なさるでしょうか?」
「それは十分にあり得ることですね」
「いや、それはどうも違いますよ。
もっとも、だめならだめで仕方ない、そういうことにしておきましょう。
しかし、一万ルーブリというお金は、いざという時にはなかなか心強いものですからね。
いずれにしても、今お話ししたことを、アヴドーチャ・ロマーノヴナにお伝え願えますか」
「いいえ、伝えません」
「そういうことでしたら、ロジオン・ロマーヌイチ、わたしはやむを得ず、自分で無理にでも会う機会を作ります。
つまり、あなたに迷惑をかけることになりますよ」
「では、僕がその伝言をすれば、あなたは妹さんと会うことを強要しませんか?」
「さあ、なんと申し上げたらいいか、困りましたね。
一度だけは、どうしてもお目にかかりたいと思っているのですが」
「あてになさらない方がいいでしょう」
「残念ですね。
もっとも、あなたはわたしのことをまだよくご存じない。
やがて、もう少し意気投合する日が来るかもしれませんよ」
「あなたは、僕たち二人が意気投合するなんて本気で考えているんですか?」
「なぜそうならないと言い切れるのです?」スヴィドリガイロフはにやりと笑ってそう言うと、立ち上がって帽子を手に取った。
「わたしも実は、どうしてもあなたを煩わせようという気はなかったのです。
こちらへ来る道中も、それほど期待していたわけではありませんでしたしね。
もっとも、今朝あなたの顔をふと見かけたとき、はっと思うところはあったのですが……」
「今朝、どこで僕を見かけたんです?」とラスコーリニコフは不安げに尋ねた。
「偶然のことですよ……わたしはどうもあなたを見ていると、どこか自分に似通ったところがあるような、そんな気がしてならないんです……しかし、どうかご心配なく。
わたしはしつこい人間じゃありませんから」いかさまカルタの連中と仲良くやれるし、遠い親戚にあたるスヴィルベイ公爵という偉い人にも嫌われず、ラファエルの名画『マドンナ』についての感想をプリルーコヴァ夫人のアルバムに書き込める教養もある。マルファ・ペトローヴナみたいな女性と七年間、一度も村から出ずに一緒に暮らしたかと思えば、昔は乾草広場のヴィャーゼムスキイ公爵の家に泊まったこともある。おまけに、ベルグと一緒に気球に乗って空を飛ぶことだってやりかねない、そんな人間なんですよ」
「まあ、それはいいとして。
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