初級翻訳・罪と罰 第131話

ドストエフスキー

「この部屋は、カペルナウモフさんから借りているんですか?」
「さようでございます……」
「あちらの、ドアの向こう側にあるんですか?」
「ええ……あちらにも、これと同じ部屋がございますの」
「みんな、一つの部屋で?」
「ええ、一つの部屋で」
「僕はこんな部屋にいたら、夜はさぞかし怖いだろうと思いますね」と、彼は気難しげな口調で言いました。
「うちの人は、本当にいい人たちですから。それはもう、優しい方たちなんです」
まだなんとなく現実感がわかず、前後がうまく考えられない様子で、ソーニャは答えました。
「それに道具もみんな、何もかも……何もかも仕立屋さんのものですから。みんなとてもいい人たちで、子供たちもしょっちゅうわたしのところへ遊びにくるんです……」
「それは、言葉が不自由な子供たちでしょう?」
「ええ……亭主はどもりで、足も不自由なんです。おかみさんも、やはり……どもるというほどではありませんけれど、なんだか最後まで言い切らないような話し方をするんです。おかみさんは、それはそれはいい人ですよ」ご主人はもともと地主のお屋敷で働いていた農民出身の方で、子供が七人もいるんです……一番上の子だけがどもるのですが、あとの子たちはただ体が弱いだけで……別にどもったりはしません……でも、どうしてそんなことをご存知なんですか?」と、彼女は少し驚いた様子で問い返しました。

「この前、あなたのお父さんが、すっかり僕に話してくれたんですよ……お父さんはあなたのことも、みんな話してくれました。あなたが六時に出かけて行って八時過ぎに帰ってきたことも、カチェリーナ・イヴァーノヴナがあなたのベッドのそばでひざまずいていたこともね」

ソーニャはどぎまぎしてしまいました。
「わたし、今日あの人を見たような気がしたんです」と、彼女は思い切るようにささやきました。
「誰を?」
「父です。
わたし、通りを歩いていたんです。
すぐ近所の角のところで、九時を過ぎたころでした。
すると、父が前の方を歩いているような気がして……。
それがもう、父にそっくりなんです。
わたし、カチェリーナ・イヴァーノヴナのところへ行こうかと思ったくらいで……」
「あなたは散歩をしていたんですか?」
「ええ」ソーニャはまた恥ずかしそうに目を伏せ、まるで言葉を切り取るように答えました。
「だって、お父さんのところにいたころ、カチェリーナ・イヴァーノヴナはあなたを叩きそうになることさえあったそうじゃないですか?」
「まあ、とんでもない! あなた、何をおっしゃるんですか、そんなことありませんわ!」とソーニャは何かにおびえるようにして、彼の顔を見つめました。
「じゃあ、あなたはあの人を愛しているんですか?」
「あの人を? ええ、それはもう……!」突然、切なそうに両手を組み合わせながら、ソーニャは悲しげに言葉をこぼしました。
「ああ! あなたはあの人を……もし、あなたが本当のあの人をご存知だったら。
あの人はまるで子供なんです……苦労しすぎたせいで、まるで頭がおかしくなってしまっているんです……。
昔はどんなに賢い人だったか……どんなに心が広くて、優しい人だったか! あなたは何も、本当に何もご存じないんです……ああ!」
ソーニャはまるで絶望したかのように、胸をわくわくと躍らせて身をもだえさせ、手を力いっぱいもみしだきながらそう言いました。
彼女の青白い頬はまたパッと赤く燃え上がり、目には苦しそうな色が浮かびました。
察するに、彼女の心の奥底にある琴線にいろいろと激しく触れるものがあり、何かを表現し、物語り、そして彼をかばいたくてたまらないようでした。
尽きることのない同情心が、突然彼女の顔の輪郭の隅々にまで、くっきりと浮かび上がっていました。

「叩いたなんて! いったいあなたは何をおっしゃるんですか! まあ、叩いたなんて! 仮に叩いたとしても、それが何だというんですの? ねえ、それが何だというんですか? あなたは何も、本当に何もご存じないんです……あの人は本当に不幸な人なんです。
ああ、なんて不幸な人でしょう! しかも病気なんです……あの人は公平というものを求めているんです……あの人は清らかな人なんです。
あの人は、何事にも公平さがなくてはならないと信じ切っていて、それを求めているんです……たとえどんなに苦しい目に遭っても、曲がったことは決してしない人なんです。
あの人はね、世の中のことがすべて正しくなるなんて無理なんだということに、自分ではちっとも気づかなくて、それでいらいらしているんです……まるで子供ですわ、本当に子供ですわ! でも、あの人は正しい人、本当に正しい人なんです!」
「ですが、あなたはこれからどうなるんです?」
ソーニャは、問い返すような目つきで相手を見つめました。
「あの人たちはみんな、あなたの肩にかかってきたわけでしょう?
もっとも、それは前だってそうだったに違いない。
それに、亡くなったお父さんもお酒代をねだりに、あなたのところへしょっちゅう来ていたという話ですからね。
ねえ、これから一体どうなるつもりなんです?」
「わかりませんわ」とソーニャは沈んだ調子で答えました。
「みんな、あそこにずっと住み続けるんですか?」
「さあ、わかりません。あの家には家賃の借りもありますしね。
現に今日も大家さんが部屋を空けてほしいと言ったところ、カチェリーナ・イヴァーノヴナも、もう一刻だっていたくないと言ったそうですから」
「どうしてあの人はそんなに威張っているんです? あなたを頼りにしているからですか?」
「ああ、いけません、そんな風におっしゃらないでください!……わたしたちは一つの家族のように、一緒に暮らしているんですもの」ソーニャは急にまた興奮し、いらだちさえ見せました。
それはまるで、カナリアか何かの小鳥が、腹を立てたらこうもあろうかと思われるような様子でした。「それに、あの人はこれからどうなってしまうんでしょう! どうしたら、いったいどうしたらいいのでしょう?」と、彼女は熱っぽく興奮しながら、たたみかけるように尋ねました。

「それに今日だって、あの人はどんなに泣いたことでしょう! あの人はもう、頭がめちゃめちゃになってしまっているんです。あなた、お気づきになりませんでした? もう、現実と夢の区別がつかないほどなんです。明日は何もかも式どおりに準備しなきゃ、前菜やいろんなものをそろえなくちゃ、なんて子供みたいに気をもんでいたかと思えば……急に両手を折れるほどもんだり、血を吐いたり、泣き出したりして、かと思えば急にやけっぱちになって、壁に頭をぶつけようとしたりするんです。ところが、そのうちに少し落ち着いてくると、今度はまたあなたを頼りにするんです。今、あの人は『ソーニャはわたしの助け船だ』なんて言って……。それから急に、どこかで少しお金を工面して、わたしと一緒に自分の生まれた町へ帰って、いいところのお嬢さん方を入れる寄宿学校を建てるんだ、そしてわたしをその舎監にするんだ、そうして全く別人のような美しい生活を始めるんだ、なんて言いながら、わたしを抱きしめてキスをして、慰めてくれるんです。

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