初級翻訳・罪と罰 第72話

ドストエフスキー

すべては、彼が踏みしめている石畳のように、がらんとして死んでいました。彼にとって、ただ彼一人にとって、すべてが死んでいたのです……。

ふと、はるかかなた、二百歩ほど先にある通りの突き当たり、闇が深まるその先で、彼は人だかりを見つけ、がやがやという話し声や叫び声を聞き分けました。群衆の真ん中には一台の馬車が停まっています。通りの中ほどで、小さな明かりが一つ、ちらちらと揺れ始めました。

『何があったんだ?』
ラスコーリニコフは右へ折れ、群衆の方へと歩いて行きました。何にでも首を突っ込んでやろうというような気分でした。彼は自分で自分を冷ややかに笑いました。警察に行くことを固く決心したのだから、すぐにすべてが片付くはずだと確信していたからです。

通りの真ん中には、二頭の葦毛(あしげ)の馬をつけた、紳士用のぜいたくな四輪馬車が停まっていましたが、乗客はいませんでした。御者は御者台から降りて横に立っており、馬たちは手綱を引かれておとなしくしています。周りには大勢の人がぎっしりと詰めかけ、一番前には何人かの巡査が立っていました。その中の一人は角灯を手に持ち、かがみ込んで、車輪のすぐそばの舗道の上に落ちている何かを照らしていました。人々はがやがやと騒ぎ、わめき、ため息をついています。御者は納得がいかないという顔をして、何度もこう繰り返していました。

「なんという災難だろう! ああ、本当にひどい災難だ!」

ラスコーリニコフはできるだけ人ごみをかき分けて前へ進み、ようやく騒ぎと人だかりの原因を見定めました。地面には、今しがた馬に踏まれたばかりの男が、全身血まみれになって倒れていました。見たところ、いかにもみすぼらしいものの、『旦那らしい』服装をしています。顔からも血が流れ、額は一面に傷だらけで皮がはげ、目も当てられないひどい状態でした。並大抵の踏まれ方ではないことが、一目瞭然でした。

「皆さん!」と御者はしきりに訴えました。
「どうしてこれを避けられましょう! 私が馬を追い立てたとか、声をかけなかったとかいうなら話は別ですが、決して急いでいたわけじゃなく、ゆっくりと歩かせていたんですからな。皆さんも見ていたでしょうが、人間というのは失敗するもの。私もその一人ですよ。酔っ払いはご承知の通り、周りが見えていないもんで!……見るとこの人が、ひょろひょろと倒れそうな足取りで通りを突っ切ろうとしている……私は一度、二度、三度まで声をかけて、おまけに手綱を引いたんですが、この人は真っ直ぐに馬の足元へ倒れ込んできたんです! わざとやったのか、それともひどく酔っ払っていたのか知りませんがね……馬が若くて驚きやすいときているから、一つ跳ねたところに、この人がきゃっと大きな声を上げたので、馬のやつはなおのこと驚いて……それでとうとうこんなことになっちまって」

「まったくだ、その通りだ!」と誰か群衆の中の証言する声が響きました。
「声をかけた、それは本当だ、三度も声をかけたんだ」ともう一人の声が応じました。
「きっかり三度だ、みんな聞いていた!」と第三の声が叫びました。

もっとも、御者はそれほどしょげたり、びくびくしたりはしていませんでした。見るところ、馬車の持ち主は裕福な名士で、今はどこかで馬車が来るのを待っているようです。巡査たちも、この件がうまく収まるようにと気をもんでいる様子でした。ともかく、怪我人を分署なり病院なりへ運ばなければなりません。しかし、誰一人として彼の名前を知っている者はいません。

その間にラスコーリニコフは人ごみを押し分けて、さらに近くへ身をかがめました。ふと角灯の光が、この不幸な男の顔をはっきりと照らし出しました。彼はその男を見分けました。

「これは僕が知っている、知っているぞ!」と彼は人ごみを抜けて前に出ながら叫びました。
「これは官吏だ。退職した九等官で、マルメラードフという人だ! すぐ近所のコーゼルの家に住んでいる……医者を早く呼んでくれ! 費用は僕が払う、この通りだ!」

彼はポケットから金を取り出し、巡査たちに見せました。彼はひどく興奮していました。巡査たちは怪我人の身元が分かったことに満足しました。ラスコーリニコフは自分の名前と住所を告げると、まるで自分の実の父親のことのように必死になって、意識を失ったマルメラードフを一刻も早く家へ運ぶようにと強く求めました。
「ほら、あそこです。この三軒先」と彼は一人でヤキモキしながら言いました。
「コーゼルの持家ですよ。金持ちのドイツ人の……この人はきっと酔っ払って、家へとぼとぼ帰るところだったんです。僕はこの人を知っていますが……大酒飲みなんでね……家には家族がいるんです。細君に、子供に、それから娘が一人。病院へ連れて行くまでに応急手当てを! あの家にもきっと医者が住んでいるはずだ! 払いは僕がします、僕がしますから!……なんといっても家族の看護が一番早く手当てができる。でなかったら、病院へ着くまでに死んでしまう……」

彼は巡査の手にこっそりといくらかの金を握らせさえしました。それに、これは当然の成り行きでした。いずれにしても、その方が手当ては早いに決まっていたからです。怪我人は担ぎ上げられ、運ばれていきました。手伝い人も何人か出てきました。コーゼルの家までは三十歩ほどしかありませんでした。ラスコーリニコフはそっと大事に頭を支えながら、あとからついて行き、道案内をしました。
「こっちだ、こっちだ! 階段をのぼるときは、頭を上にしなくちゃいけない。ぐるっと回った……そうだ、そうだ。僕が駄賃を払うから、礼をするから」と彼は言いました。

カチェリーナ・イヴァーノヴナはいつもの癖で、少しでも暇があればすぐに両手を胸の前でしっかりと組み、何かひとりごとを呟いては、ごほんごほんと咳をしながら、小さな部屋の中を窓から暖炉へ、暖炉から窓へと歩き回っていました。
近ごろ彼女は、十歳になる長女のポーレンカを相手に、よくいつまでも話し込むようになっていました。娘はまだ幼くて分からないこともたくさんありましたが、自分が母親にとって必要な存在だということだけは十分によく飲み込んでいたので、いつもその大きなりこうそうな目で母親のあとを追いながら、何でも分かっているような顔をしようと一生懸命に頑張っていました。

が、ちょうどこの時ポーレンカは、一日中気分のすぐれなかった弟を寝かせつけようと、着物を脱がせているところでした。今夜のうちに洗っておかねばならないシャツへの取り替えを待つ間、男の子はしかつめらしい顔をして、踵をつけて爪先だけ開き、ぴったりそろえた両足を前へ突き出しながら、黙って身動きもせずに、しゃんと椅子の上に座っていました。彼は唇をとがらせ目を丸くしたまま、利口な子供が寝る前に着物を脱がせてもらうときにするお決まりの型通り、寸分たがわず身動きもせずに母と姉の話を聞いていました。その下の女の子は、それこそボロボロの服を着て、衝立の傍に立ちながら自分の番を待っていました。

階段へ続く戸は開け放しになっていました。それは奥の部屋から煙草の煙が絶えず流れ込んできて、肺病を患う不幸な母親をいつまでも咳き込ませるので、それを少しでも防ぐためでした。

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