初級翻訳・罪と罰 第71話

ドストエフスキー

「雑誌っていうのはな、色を塗ったきれいな絵のことさ。ここの仕立て屋のところに土曜ごとに外国から郵便で届くんだ。男も女も、どんな服を着ればかっこよく見えるか、っていう見本だよ。男はたいていコートを着ているが、女のほうときたら、ありったけの布を巻き付けたような、とんでもなく豪華な衣裳なんだぜ!」
「このペテルブルクには、ないものなんてないんだねえ!」若い方が目を輝かせて言いました。
「親父とお袋以外なら、なんでもあるさ!」
「その二人をのぞけば、そうだな、兄弟、どんなもんでも揃ってるよ!」と年上の男は先生のような口調で言いました。
ラスコーリニコフは立ち上がり、以前は長持や寝台、箪笥が置かれていた隣の部屋へ入って行きました。
家具を取り払った部屋は、信じられないほど狭く見えました。
壁紙は当時のまま残っており、隅っこには神像を祀る棚があった場所が、くっきりと跡として残っています。
彼はぐるりと部屋を見回してから、元の窓辺へと引き返しました。
年上の職人が、横目でちらりと彼を盗み見ました。
「何かご用ですか?」ラスコーリニコフの方を向いて、男はいきなり尋ねました。
彼は返事をする代わりに立ち上がると、玄関ホールへ出て行き、呼び鈴の紐を思い切り引きました。
あの時と同じ、ブリキのような乾いた音が響きました! 彼はもう一度、さらにもう一度、何度も鈴を鳴らしました。
彼は耳を澄ませて、心の中に眠るあの時の記憶を、必死にたぐり寄せていたのです。あの時の悩ましく、恐ろしく、醜い記憶が、だんだんと鮮明に、ありありと心によみがえってきました。
彼は呼び鈴の紐を引くたびに、ピクリ、ピクリと体じゅうを震わせました。
それなのに、不思議なことに、だんだんといい気分になってくるのです。
「いったい何の用なんだい? お前は何者なんだ?」職人がそばへやってきて、厳しく問い詰めました。
ラスコーリニコフは再びドアの中へ入りました。
「部屋を借りようと思ってね」と彼は言いました。
「そんなの、見れば分かるだろう」
「夜中に部屋を借りに来る人なんていませんよ。
それに、それなら庭番と一緒に来なくちゃダメだ」
「床も洗っちまったな。ペンキを塗り直すのかい?」とラスコーリニコフは続けました。
「血はもう残っていないのか?」
「血って、何の話ですか?」
「ほら、ここで婆さんが妹と一緒に殺されたじゃないか。
ここはまるで血の海だったはずだ」
「お前は一体、何者なんだ!」職人は不安そうに大声を上げました。
「僕かい?」
「そうさ!」
「お前、それが知りたいのか?……じゃあ、一緒に警察へ行こう。そこで教えてやるから」職人たちは怪訝そうな顔をして、しばらく彼をじっと見つめていました。
「もう帰らなくちゃならない。すっかり手間取っちまった。
行くぞ、アリョーシカ。戸締まりをしなくちゃ」と年上の職人が言いました。
「うん、行こう!」とラスコーリニコフは投げやりな調子で答えると、先に立って部屋を出て、ゆっくりと階段を降り始めました。
「おい、庭番!」門のところまで来ると、彼は声を張り上げました。
五、六人の人だかりが入り口のすぐそばで、ぼんやりと通りを行き交う人々を眺めていました。
それは二人の庭番と、一人の女と、部屋着を着た町人と、その他数名でした。
ラスコーリニコフはいきなりその中へ割り込みました。
「何の用だ?」庭番の一人が応じました。
「警察へ行って来たのか?」
「今、行って来たところですよ。あんた、何の用で?」
「向こうにはみんな揃っているか?」
「いますよ」
「副署長もいたか?」
「少しの間だけいましたよ。あんた、何の用なんです?」
ラスコーリニコフはそれには答えず、何かを考え込みながら、彼らの隣にたたずみました。
「部屋を見に来たんだとよ」年上の職人がそばへやってきて言いました。
「どの部屋を?」
「おれたちが仕事をしている所さ。『なんだって血を洗ってしまったんだ? ここで人殺しがあったじゃないか。ところで、おれは部屋を借りに来たんだ』なんて言いやがって。それから、呼鈴を鳴らして、まるで綱を引きちぎらんばかりだったよ。挙句の果てに、警察へ行こう、そこで何もかも話してやる、だなんて言って、しつこくからんできたのさ」
庭番は納得がいかないという顔で眉をひそめ、ラスコーリニコフをじろじろと見回しました。
「あんたは一体、どなたですか?」と庭番は少し声を荒らげて問いかけました。
「僕は元大学生の、ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフという者で、ここからあまり遠くない横町にある、シールという人の持ち家の十四号室に住んでいるんだ。庭番に聞いてくれれば……知っているはずだ」ラスコーリニコフは相手の方を見向きもせず、薄暗くなった通りをじっと見つめながら、面倒くさそうに、物思いにふけるような調子でそう答えました。
「が、なんだってあんたは部屋の中へ入ったんです?」
「見るためにさ」
「見るものなんて何かありましたか?」
「いっそ捕まえて、警察へ突き出しちまえ!」と突然、町人が口を挟みましたが、すぐに黙り込みました。
ラスコーリニコフは肩越しに町人を横目で見やり、注意深くじっと観察していましたが、気だるそうな低い声で言いました。
「じゃあ、行こうか!」
「そうだ、突き出しちまえ!」と町人は元気づいて、彼の言葉を拾いました。「なんでこの男はあの事件のことを持ち出したんだ? 一体、何を企んでいるんだ、うん?」
「酔っているのか、酔っていないのか、さっぱりわからん」と職人がつぶやきました。
「本当のところ、何の用なんですか?」庭番は少し本気で腹を立て、またもや怒鳴りつけました。
「いつまでへばりついているつもりだ?」
「警察へ行くのが怖くなったのかい?」とラスコーリニコフは冷笑を浮かべて言いました。
「何が怖いんだ! あんたこそ、何を人に絡んでいるんだ?」
「詐欺師め!」と女が怒鳴りました。
「何もこんな野郎を相手にぐずぐず言うことはない」と、もう一人の庭番が口を挟みました。
粗いラシャの外套の前をはだけて、帯に鍵をぶら下げた大男です。
「出ていけ!……本当に、たちの悪い詐欺師め……消えろ!」
そう言うなり、彼はラスコーリニコフの肩をつかんで、通りへ突き飛ばしました。
彼はあやうく転びそうになりましたが、なんとか踏みとどまりました。
服を整え、無言のまま見物人たちを一瞥すると、やがてまた先の方へと歩き出しました。
「変なやつだな」と職人が言いました。
「近ごろは変なやつが増えたのさ」と女が言いました。「やっぱり警察に突き出せばよかったんだ」と町人が付け加えました。
「関わり合いになるようなことはないさ」と大男の庭番が言いました。
「まったくのイカサマだよ! あいつ、自分から警察に行きたがってるんだから、放っておけばいいんだ。うっかり関わってみろ、それこそ泥沼にはまって抜け出せなくなるぞ……そういう手口はよく知ってるんだからな!」

『さて、行くべきか、やめるべきか?』
ラスコーリニコフは交差点のど真ん中に立ち止まり、誰かから最後の助言でももらえるかのように、辺りを見回しながら考えました。
しかし、どこからも何も応えてくれるものはありません。

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