もう一人は恐ろしく太った婦人で、紫色に見えるほど赤い顔にシミがあったが、なかなか立派な押し出しで、いかにも派手な服装をしており、胸には茶碗の受け皿ほどもある大きなブローチを留めていた。彼女は少し脇に立って、順番を待っていた。
ラスコーリニコフは事務官に呼び出し状を突きつけた。
事務官はちらと目を通すと、「少し待っていなさい」と言い捨て、喪服の女の仕事を続けた。
彼はほっとした気持ちで息をついた。
『こりゃ、確かに(逮捕とは)違うな!』
彼は少しずつ元気を取り戻し始めた。
元気を出せ、正気に戻るんだ、と必死に自分に言い聞かせる。
『何か一つでも馬鹿なことをしたり、些細な不注意を見せたりしたら、俺は自分で自分の尻尾を掴ませてしまうぞ! ふむ……それにしても、ここは空気が悪くてたまらない』
彼は心の中で毒づいた。
『息苦しい……頭がぐらぐらする……思考力まで鈍ってくるようだ』
全身に恐ろしい混乱が広がっていた。
自分の精神をコントロールしきれないことが、何よりも恐ろしかった。
彼は何かにすがろうと、あるいは全く無関係なことを考えようと努めたが、どうしても上手くいかない。
それにもかかわらず、事務官の様子がひどく気になった。彼の顔つきから何かを読み取り、自分にとっての吉凶を判断したくてたまらなかったのだ。
相手はまだ二十二歳くらいの若い男だったが、よく動く浅黒い顔つきは、実年齢よりもずっと老けて見えた。流行のハイカラな服装に身を包み、ポマードをたっぷり塗って、櫛目をきっちりと立てた髪は、うしろ頭まで分け目が見えるほど。刷毛で磨き上げた白い指には、いくつもの指輪をこれでもかとばかりにはめ、チョッキには金色の鎖をキラキラと光らせていた。
彼は居合わせた外国人の一人とフランス語で二言三言かわしたが、それもなかなかの腕前だった。
「ルイザ・イヴァーノヴナさん、どうぞお掛けになって」
彼は軽い調子で、派手な身なりをした、顔を真っ赤にした婦人に声をかけた。その婦人は、すぐそばに椅子があるのに、勝手に座るのを遠慮しているのか、ずっと立ったままだったのだ。
「ありがとう」
女はそう言って、衣ずれの音をさせながら、静かに椅子に腰をおろした。
白いレースの飾りがついた薄い空色の服が、まるで気球のように椅子のまわりにふわっと広がり、部屋の半分を占領してしまった。
あたりに香水の匂いがぷんぷんと漂い出す。
けれど婦人は、自分が部屋を半分も占領し、香水を撒き散らしていることが申し訳ないのか、臆病そうな、それでいて少しずうずうしさも混じったような微笑を浮かべていた。とにかく、明らかに落ち着かない様子だった。
喪服の女がようやく用事を済ませて立ち上がろうとした、その時だった。
かなり騒々しい音を立て、一歩歩くごとに肩を独特な揺らし方で振りながら、一人の警部が威勢よく入ってきた。彼は徽章のついた制帽をテーブルの上に放り投げると、安楽椅子にどっかと腰をおろした。
派手な身なりの婦人はその姿を見るやいなや、椅子から飛び上がると、何やら特別な歓喜の色を浮かべて、お辞儀をしようと腰をかがめた。
だが、警部が全く見向きもしなかったので、婦人はそれ以上彼に近づくのを遠慮してしまった。
この男は区の副署長で、左右にピンと跳ね上がった赤みがかった口ひげを生やし、いかにも浅はかそうな顔つきをしていた。傲慢さ以外には、これといった表情も見当たらない。
警部はいささか腹を立てた様子で、横目でラスコーリニコフを睨みつけた。彼の服装があまりにもボロボロなうえに、そんな落ちぶれた姿にもかかわらず、身分不相応に尊大な態度をとっていたからだ。
ラスコーリニコフはうっかり、あまりにも長く警部をじっと見つめてしまった。そのせいで警部はついに逆上してしまった。
「なんだ、お前は!」
警部は叫んだ。
このボロボロの男が、自分の稲妻のような視線を受けてもこそこそ隠れようとしないことに、驚いたようだった。
「出頭を命じられたんです……呼び出し状で……」
ラスコーリニコフは、なんとか返事をした。
「それはあの件ですよ。大学生から金を取り立てる件です」
事務官は書類から目を離して、せかせかと口を挟んだ。
「ほら、これだ!」
彼は帳簿をラスコーリニコフの方へ放り投げ、場所を指し示した。
「読んでみなさい!」
『金? なんの金だろう?』とラスコーリニコフは考えた。
『しかし……ということは、もう絶対に(殺人事件の)ことじゃないんだ!』
彼はうれしさでぶるっと身震いした。
心からどっと、言葉では言い表せないほど重荷が下りた気がした。肩の荷が完全に降りたような気分だった。
「いったい君は、何時に出頭を命じられていたんだ!」
警部は、どういうわけかさらに侮辱されたと感じたのか、怒鳴りつけた。
「九時と書いてあるのに、もう十一時過ぎじゃないか」
「私はつい十五分ほど前に、これを受け取ったばかりなんです」
ラスコーリニコフは突然、自分でも驚くほどの勢いで、むしろ一種の満足感さえ覚えながら、肩越しに大きな声で言い返した。
「それに私は病気で、熱を押して出てきたんです。それだけでも十分でしょう」
「大声を出すのはやめてもらおう!」
「私は怒鳴ってなんかいない。極めて冷静に言っているんです。むしろ怒鳴っているのはあなたの方じゃないですか。私は大学生です。怒鳴られて黙っているわけにはいきません」
副署長はすっかり逆上してしまい、しばらくは言葉も出ず、口からツバを飛ばすことしかできなかった。
彼は席から飛び上がった。
「だ、黙りなさい! ここは役所だぞ。ぼ……暴言を吐くな!」
「あなただって役所にいるんじゃないですか」
ラスコーリニコフは大喝一声した。
「それなのに、あなたは怒鳴るばかりか、タバコまで吸っている。それは私たちに対する侮辱です」
言い切った瞬間、ラスコーリニコフはなんとも言えない快感を覚えた。
事務官は微笑を含んだ表情で、二人を眺めていた。
短気な警部は、すっかり気勢を削がれたらしい。
「それは君の知ったことではない!」
彼はついに、なんとなく不自然に大きな声で叫んだ。
「さあ、そこで。君は要求されている答弁をしてくれたまえ」「アレクサンドル・グリゴーリッチ、この男にしっかり見せてやってくれ。君は告訴されているんだぞ。借金を踏み倒そうなんて! ふん、たいそう立派な身なりをしておきながら、みっともないことだ!」
けれど、ラスコーリニコフはもうそんな言葉など聞いていなかった。彼は一刻も早く謎を解こうと、むさぼるように紙切れをつかみ取った。一度読み、二度めに読み返してみたが、一体どういうことなのか全くわからなかった。
「……一体これは、なんのことですか?」と彼は事務官に尋ねた。
「借用証書に基づいた、返金の請求ですよ。支払いの督促です。あなたは科料(罰金)やその他の諸費用を含めて借金を支払うか、さもなければいつ支払えるのかということを、書面で答えなければならない。それと同時に、支払いを済ませるまでは首都から外へ出ないこと、財産を売却したり隠したりしないという約束もね。
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