初級翻訳・罪と罰 第64話

ドストエフスキー

そうしなければ、もう家へは戻らない。こんな風に生き続けるのはもうたくさんだ」ということでした。しかし、どんな風に片づけるというのでしょう? 何をして決着をつけるのでしょう? 彼はそれについては何の考えも持っていませんし、考えようともしませんでした。
彼は一つの考えを追い払っていました。
その考えが、彼を責めさいなんでいたからです。
彼はただ、すべてのことが、どんな形であれとにかく一変してしまわなければならないということだけを、感じ、悟っていました。
「たとえどんな結果になろうと、かまうものか」と、彼は自暴自棄な、凝り固まった自信と決心をもって、そう繰り返しました。
昔からの習慣でいつもの散歩道をたどり、彼はまっすぐに乾草広場へ向かいました。
広場の少し手前にある一軒の小店の前で、髪の黒い若い手回しオルガン弾きが、何やらひどく悲しい小唄を演奏していました。
それは、前の歩道に立っている十五歳くらいの少女の歌の伴奏でした。
少女はお嬢さまらしく大きく広がるペチコートをはき、婦人用の外套を着て、手袋をはめ、火のような色の羽飾りつきの麦わら帽子をかぶっていましたが、それらはみな古びて、くたびれ切っていました。
彼女は大道芸人特有のかん高い、とはいえかなり感じのいい力のある声で、小店の中から二カペイカでも投げてくれるのを待ちながら、小唄を歌っていました。
ラスコーリニコフは、二、三人の聞き手と並んで立ち止まり、しばらく耳を傾けた後、五カペイカ玉を取り出して少女の手に握らせました。
少女は急に一番調子の高い、盛り上がるところで断ち切るように歌をやめ、オルガン弾きに大きな声で「もう十分!」と言い放ちました。そして、二人はのろのろと次の店へ移っていきました。
「君は大道芸人の歌が好きですか?」とラスコーリニコフは、一緒に並んでオルガンのそばに立っている浮浪人風の、あまり若くもない男をつかまえて、だしぬけに話しかけました。
男はきょとんとした目つきで彼を見つめ、びっくりしたような顔をしました。
「僕は好きですよ」とラスコーリニコフは続けましたが、それはまるで大道芸人の歌の話をしているのではないような調子でした。
「僕はね、寒くて暗い湿っぽい秋の晩――それはどうしても湿っぽい晩でなくちゃいけないんですが――通行人の顔がみんな青白く病的に見えるような時、手回しオルガンに合わせて歌っているのが大好きなんですよ。でなければ、いっそぼた雪が風もなくまっすぐに降っている時でもいい。わかるでしょう? 雪を通してガス灯がぼんやり光っている……」
「さあ……わかりませんな……ごめんよ……」質問も質問ですが、ラスコーリニコフの奇妙な様子にぎょっとした男は、口の中でもぐもぐ言うと、往来の向こう側へ行ってしまいました。ラスコーリニコフはまっすぐ歩いていき、あの時リザヴェータと話していた町人夫婦がいつも店を出している、乾草広場の例の一角にたどり着きました。
しかし、今回はその夫婦の姿は見当たりません。
その場所を確認すると、彼は立ち止まってあたりを見回しました。
そして、粉倉の入り口でぼんやりと突っ立っている、赤いシャツを着た若者に声をかけました。
「この隅で、町人風の夫婦が店を出してるだろう? 知ってるか?」
「みんな商売してまさあ」若者は高飛車な態度でラスコーリニコフをじろじろと見回しながら、そう答えました。
「その男の名前は何というんだ?」
「洗礼を受けた通りの名前でさあ」
「君はザライスクの人間じゃないのか? いったい何県から来たんだ?」
若者はもう一度ラスコーリニコフをじっと見つめました。
「わっしらの方は、お前さま、県なんて言わずに区と言います。兄貴は方々旅をしましたけれど、わっしゃ家にばかりいたもんで、何も存じませんよ……まあ、お前さま、もうこれくらいで勘弁していただきたいもんで」
「あれはめし屋かね、二階の方にあるのは?」
「ありゃ飲み屋ですよ。玉突きもあります。それに姫ごぜ(女たち)もいますぜ……にぎやかなもんでさあ!」
ラスコーリニコフは広場を横切っていきました。
向こうの端の方に、黒山のような人だかりができています。百姓ばかりです。
彼は人々の顔をのぞき込みながら、一番混み合っている真ん中へと割り込みました。
彼はなぜか、誰とでもいいから話をしたくてたまらなくなっていたのです。
しかし、百姓たちは彼などには目もくれず、小さなグループに分かれて、それぞれ何やらがやがやと言い合っていました。
彼はしばらくそこに立っていましたが、少し考えてから右の方へ向きを変え、歩道伝いにV通りへと足を向けました。
広場を通り抜けると、ある横町へ入り込みました。
彼が以前、広場からサドーヴァヤ通りへ通じる曲がりくねったこの短い横町をよく通っていたことは確かです。
特に最近は、気分が沈んでどうしようもなくなった時など、「もっと嫌な気分になってやる」というような反抗心から、わざわざこの付近をぶらついたくらいでした。
しかし今は、何も考えずに足を踏み入れました。
そこには、建物全体が酒場やその他の飲食店で埋め尽くされている、一軒の大きな家がありました。
それらの店からは、帽子もかぶらず着物を一枚羽織っただけの、「ちょっとそこまで」といった風情の女たちが、ひっきりなしに駆け出していました。
女たちは歩道のあちこち、特に地下室へ降りる入り口のあたりに、群れをなして集まっていました。
そこから二段ほど階段を降りると、いろいろと面白い場所へ行けるようになっていたのです。
そうした場所の一つから、この時がたがたという音と騒がしい人声が通りいっぱいに流れ出し、ギターが鳴り響き、歌声が聞こえてきて、恐ろしいほどのにぎわいでした。
入り口には女たちが黒山のようにたかっています。
ある者は階段に腰を下ろし、ある者は歩道に座り込み、またある者は立ったまましゃべっています。
その脇の車道では、酔っ払った一人の兵隊が、何やら大声で罵りながら、巻き煙草をくわえてふらふらしていました。
見たところ、どこかへ入ろうと思いながら、それがどこだったか忘れてしまったような様子です。
一人のぼろをまとった男が、もう一人のぼろ男と何やら罵り合っているかと思えば、そのそばでは死人のように酔いつぶれた男が、道の真ん中にごろりと転がっていました。
ラスコーリニコフは、女たちが大勢集まっている傍らに立ち止まりました。
みんなしゃがれ声でしゃべっています。
誰も彼もサラサの服を着て、山羊革の靴を履き、帽子をかぶっていない素頭でした。
中には四十を越したような者もいれば、十七くらいのものもいて、みんなほとんど目の縁に打ち身をこしらえていました。
彼はなぜか、下の方から聞こえてくる歌声や、がたがたいう物音、騒がしい人声に心を惹かれました……そこからは、崩れるような笑い声と叫び声の合間に、細い裏声の恐ろしくいなせな歌と、ギターに合わせて誰かが踵(かかと)で拍子を取りながら、やけに踊っている様子が聞こえてきました。
彼は入り口でかがみ込み、もの珍しげに歩道から玄関をのぞき込みながら、陰鬱で物思いに沈んだ表情で、じっとそれに聞き入りました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました