初級翻訳・罪と罰 第129話

ドストエフスキー

「あなたのおっしゃること、私とっても気に入りましたわ、ドミートリイ・プロコーフィッチ」と、彼女は言いました。

「私のような者には、こういう商売の話はちっとも分かりませんけれど」とプリヘーリヤが応じます。
「それはそれで結構なことかもしれませんが、先のことは誰にも分かりませんからね。何だか新しいことばかりで、なんだか不安なような気もいたします。もっとも、私たちはどうしたって、当分の間だけでもここに残らなければなりませんから……」
彼女はロージャを見やりました。

「兄さん、あなたはどう思いますか?」とドゥーニャが尋ねました。
「僕もすごくいい考えだと思うよ」と彼は答えました。
「会社を作るなんてことは、もちろん、前もって夢見すぎてはいけないけれど、五、六冊の本を出版するくらいなら、実際に成功させることができるはずだ。僕だって、間違いなく売れる本を一つ知っている。それに、この男が経営をうまくやっていくことは少しも疑いようがないね。仕事の勘が働いているから……まあ、詳しく相談する暇はいくらでもあるさ……」

「万歳!」とラズーミヒンが叫びました。
「ところで、ちょっと待ってください。この建物の中に、同じ大家さんの持ち物で、空いている部屋があるんです。この部屋とは通路でつながっていない独立した離れで、家具も揃っています。家賃も格安で、小さいながら三間もあるんです。まあ、とりあえずここをお借りなさい。時計は僕があした質屋へ持って行って、お金にしてきてあげます。そうすれば、あとは何もかも上手くいきますよ。何より肝心なのは、三人ご一緒におられるってことです。ロージャも一緒にね……おや、ロージャ、君はどこへ行くんだい?」

「まあ、ロージャ、あなたもう帰るの?」プリヘーリヤは、まるで何かに怯えるような様子で尋ねました。
「しかも、こんな大事な時に!」とラズーミヒンが叫びました。
ドゥーニャは不安げな驚きの色を浮かべながら、兄を見つめました。
彼の手には帽子が握られていました。彼は、今にも出て行こうとしていたのです。

「なんだかみんな、まるで僕の葬式をするか、永遠の別れでも告げているみたいだね」と、彼はどこか奇妙な調子で言いました。
にやりと笑ったようにも見えましたが、それは微笑みとは少し違うようでした。
「僕たちが顔を合わせるのも、これが最後かもしれないからね」と、彼はさりげない様子で付け加えました。
ふと心に浮かんだことが、どういうはずみか、そのまま口に出てしまったのです。

「まあ、あなたどうしたの!」と母が叫びました。
「兄さん、どこへ行くつもりなの?」ドゥーニャも、何か妙な調子で尋ねました。
「ちょっと、どうしても行かなきゃならないんだ」自分の言ったことに動揺を感じているのか、彼はぼんやりと答えました。しかし、その青ざめた顔には、一種の固い決意の色が浮かんでいました。

「お母さん、あなたにも……それからドゥーニャ、お前にも、言っておこうと思ったんです。……僕たちはしばらく別れていた方がいい。僕は気分がすぐれないし、心が落ち着かないんだ……。そのうちに来ます。自分で来ますから。もし……そうしていい時が来たらね。僕はあなた方を忘れはしません。愛しています……だからどうか僕にかまわないでください! 僕を一人きりにしておいてください! そう決心したんです。もう前から……固く決心したことなんです。たとえ僕の身にどんなことがあろうと、破滅してしまうようなことがあろうと、僕は一人でいたい。僕のことはすっかり忘れてください。その方がいいんだ……。僕のことを探し回ったりしないでください。必要があれば、自分で来るか……あなた方を呼びます。事によったら、何もかも元通りになるかもしれません!……けれど、いま僕を愛してくれている間は、どうか僕から離れていてください……でないと、僕はあなた方を憎んでしまいそうなんだ。……感じているんです……さようなら!」

「まあ、どうしましょう!」とプリヘーリヤが叫びました。
母と妹は激しいショックに打たれていました。ラズーミヒンも同様でした。
「ロージャ、ロージャ! 仲直りしておくれ、昔通りに戻ろうよ!」と、哀れな母親が絶叫しました。

彼はのろのろと戸口の方へ身体を向けると、そのまま部屋を出て行きました。
ドゥーニャがその後を追いました。
「兄さん! いったいお母さんをどうするつもりなの!」憤りに燃える目で兄を見つめながら、彼女はささやきました。
彼は重苦しい視線で妹を見ました。
「なんでもないよ。また来る、ちょいちょいやって来るから!」
自分が何を言っているのかよく意識していない様子で小声でつぶやくと、彼はぷいと出て行ってしまいました。

「情なしの、いじわるなエゴイスト!」とドゥーニャは叫びました。「あれは――き、ち、が、いです、情なしじゃありません! あれは発狂してるんです! いったいあなたはそれがわかりませんか? それじゃ、あなたの方が情なしです!……」ラズーミヒンは彼女の手を力いっぱい握りしめながら、その耳もとへ顔を寄せ、熱のこもった声でささやきました。

「僕すぐ戻りますから!」死人のように青ざめているプリヘーリヤにそう言い捨てて、彼は部屋の外へ駆け出しました。
ラスコーリニコフは、廊下のはずれで彼を待ち受けていました。
「君が追いかけてくることは、分かっていたよ」と彼は言いました。
「二人のところへ戻って、彼女たちと一緒にいてくれ……明日も来てやってくれ……いつもね。
僕は……また来るかもしれない……もしできたら。
じゃあ、失礼!」
そう言うなり、手も差し伸べず、彼はどんどん離れていきました。

「いったい君はどこへ行くんだ? 君、どうしたんだ? 一体これはどういうことなんだ! そんなのってあるかよ!……」ラズーミヒンはすっかり途方に暮れてつぶやきました。
ラスコーリニコフはもう一度立ち止まりました。
「最後に言っておくが、もう二度と僕に何も聞かないでくれ。
僕は君に答えることなんて何もないんだから……僕のところへは来るな。
もしかすると、僕がやって来るかもしれない……僕のことは放っておいてくれ……だが、彼女たちは見捨てないでくれ、分かったかい?」
廊下は暗闇でした。
二人はランプのそばに立っていました。
一分ほど、二人は黙って互いの顔を見つめ合っていました。
ラズーミヒンは一生この瞬間を忘れませんでした。
ラスコーリニコフのらんらんと燃える刺し貫くような視線は、まるで一刻ごとに強さを増して、ラズーミヒンの魂を、その意識の奥底まで貫こうとしているかのようでした。

ふいにラズーミヒンはびくっとしました。
何か奇怪なものが二人の間をかすめたような気がしたのです……ある思いが、まるで暗示のように頭をよぎりました。
何かしら恐ろしくて醜悪なものが、突然、二人同時に理解されてしまったのです……ラズーミヒンは死人のようにさっと青ざめました。

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