初級翻訳・罪と罰 第147話

ドストエフスキー

「アリョーナ・イヴァーノヴナと、妹さんのリザヴェータ・イヴァーノヴナを、わっしが……殺しました……斧で。魔がさしたんでございます……」彼はふいにそう言い足すと、また黙り込んでしまいました。
彼はその間ずっと、膝をついたままでした。
ポルフィーリイはしばらくの間、考え込むようにその場に立っていましたが、急にまた飛び起きると、呼ばれもしないのに集まっていた野次馬の証人たちに向かって、あっちへ行けと手を振りました。
証人たちはすぐに姿を消し、ドアはぴったりと閉まりました。
それからポルフィーリイは、部屋の片隅に立ったまま、怪しげな目つきでニコライをじっと見つめているラスコーリニコフをちらりと見て、そちらへ歩み寄ろうとしましたが、急にまた立ち止まり、彼を見やったかと思うと、すぐさま視線をニコライの方へ移しました。
それからまた、ラスコーリニコフとニコライを見比べましたが、まるで何かに取りつかれたような様子で、またしてもニコライの方へ駆け寄りました。
「なんだってきさまは、魔がさしただなんて勝手なことを言い出すんだ?」と彼はほとんど憎々しげに怒鳴りつけました。
「お前に魔がさしたかどうかなんて、おれはまだ尋ねてもおらんぞ。さあ言え……お前が殺したのか?」
「わっしが下手人なので……申し立てをいたします……」とニコライは言いました。
「いいから! なんで殺したんだ?」
「斧でございます。前から用意しておいたんで」
「ちょっ! 先ばかり急いでやがる! 一人でやったのか?」
ニコライは質問の意味がわからなかったようです。
「一人で殺したのか?」
「一人なんで。ミーチカにゃ罪はありません。あの男はまるっきりこれにかかわり合いがないんで」
「ミーチカのことなんかあわてて言わなくていい! ったく!……じゃあ、お前はどうして、どうしてお前はあの時階段を走っておりたんだ? だって、庭番がお前たち二人に出会ったじゃないか?」
「あれはみんなの目をくらますためなんで……そのためにその時……ミーチカと一緒に走っておりたんで」ニコライはせき込みながら、前もって用意していたかのような口ぶりで答えました。
「ふん、やっぱりそうだ!」とポルフィーリイは憎々しげに叫びました。
「腹にもないことを言っているんだ!」と彼は独り言のようにつぶやきましたが、ふいにまたラスコーリニコフが目に入りました。
察するに、彼はニコライのことにすっかり気を取られて、一瞬ラスコーリニコフのことをほとんど忘れていたようです。
いま急にわれに返ると、どこかきまり悪そうな様子さえ見せました。
「ロジオン・ロマーヌイチ! 失敬しました」と彼はラスコーリニコフの方へ駆け寄りました。
「それじゃいけません……どうぞ、失礼ですが……あなたはここにおられても仕様がありませんから……わたし自身も……ごらんのとおり、どうもこういう思いがけない贈り物が届いてしまいまして!……さあどうぞ!……」
彼はラスコーリニコフの手をとって、戸口を指さしました。
「あなたもどうやら、こんなこととは予期していなかったようですね?」とラスコーリニコフは、まだ何一つはっきりとはわからないものの、この短い時間のあいだにかなり元気づいて問い返しました。
「あなただって思いがけなかったでしょう。ほうら、手が、こんなに震えている! へへっ!」
「それにあなたも震えていらっしゃいますね、ポルフィーリイ・ペトローヴィッチ」
「わたしも震えていますよ。あまりに意外だったものですからね!……」
二人はもう戸口のところに立っていました。
ポルフィーリイは、ラスコーリニコフがさっさと出て行くのを、じれったそうに待っていました。
「ところで、例の『思いがけない贈り物』は、結局見せてはくださらないんですか?」出し抜けにラスコーリニコフは、あざけるような調子で言いました。「とはおっしゃいますが、当の本人の口の中を見てごらんなさい、歯の根が合わずにガチガチと震えているじゃありませんか。へへっ! あなたもずいぶんと皮肉な方だ。ではまた、そのうち改めて」

「僕はもう、これで最後のお別れになると思いますがね!」

「何事も神さまの思召し、すべては神さまの思召しですよ!」ポルフィーリイは、どこかひねくれたような笑みを浮かべながらつぶやきました。

事務室を通り抜けるとき、ラスコーリニコフは、その場にいた大勢の人間が自分をじっと見つめているのに気づきました。
控室に集まった人混みの中に、あの夜中に警察へ行くようにと自分に言った、あの家の庭番二人の姿も見つけました。
彼らはそこに立って、何かを待っているようでした。

しかし、ラスコーリニコフが階段へ出た途端、背後からふいにポルフィーリイの声が聞こえてきました。
振り返ると、ポルフィーリイがはあはあと息を切らしながら追いかけてくるではありませんか。

「もう一言だけ、ロジオン・ロマーヌイチ。
ああいった出来事はすべて神さまの思召しですが、それでもやっぱり正式に、いろいろとお尋ねしなければならないことが出てくるでしょう……ですから、またお目にかかることになるはずですな。そうでしょう!」

こう言って、ポルフィーリイは笑みを浮かべながら、彼の前で立ち止まりました。
「そういうわけですな」と、彼はもう一度念を押しました。
もっと何かを言いたそうにしているようでしたが、どうにも切り出しにくそうな様子でした。

「いや、ポルフィーリイ・ペトローヴィッチ、先ほどのことはどうかお許しください……少し頭がのぼせていたもので」
ちょっと強がってみたいという気持ちを抑えきれないほど、すっかり元気を取り戻していたラスコーリニコフは、そんな風に切り出しました。

「とんでもない、とんでもない!」と、ポルフィーリイはほとんど嬉しそうな様子で言葉を返しました。
「わたしの方こそ……どうも皮肉な性分でして、恥ずかしい限りです、本当に恥ずかしい! またお目にかかりましょう。
神さまのお導きがあれば、必ず、必ずお目にかかれますよ!」

「その時は、お互いのことをすっかり理解し合えているでしょうか?」とラスコーリニコフが問い返しました。

「ええ、徹底的にお互いのことを理解し合いましょう」とポルフィーリイはオウム返しに言いました。
そして、目を細めながら、まじめな顔つきでラスコーリニコフをじろりと見つめました。
「これから命名日のお祝いに?」

「葬式です」

「ああ、そうでしたね、葬式でした! まあ、お体を大切に。お大事になさってください」

「どうも、僕の方からはなんと答えたらいいのやら、見当もつきません!」
すでに階段をおり始めていたラスコーリニコフはそう言い捨てましたが、ふいにくるりとポルフィーリイの方を振り返りました。
「まあ、今後のさらなるご活躍をお祈りする、とでも言っておきましょうか。しかし、なんですね、あなた方の仕事というのも実に滑稽なものですね!」

「なぜ滑稽なんです?」帰りかけていたポルフィーリイは、すぐに耳をそばだてました。

「だって、そうじゃありませんか。
ほら、あの可哀想なミコールカ(ニコライ)を、あなたはひどく責めさいなんだことでしょう。

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