それがどんな風評で、いつ誰から出たか……そして、いかなる動機であなたの身にまで及んだかということも、やはりわたしはくだらない話だと思います。
わたし一個について言うと、これは偶然の結果として起こったことなんです。
全く最高に運命的な偶然で、起こることもあれば、起こらないこともありえた――では、いったいどんな偶然かというと、ふむ、これもやはり改めて言うまでもないでしょう。
つまり一切のことが、風評と偶然が、その時わたしの頭の中で符合して、ある一つの考えになったんですな。
どうせもう白状するくらいなら、何もかもきれいに話してしまいますが――あの時あなたに嫌疑をかけたのは、他ならぬわたしだったんですよ。
なに、たとえばあの質草に婆さんの覚え書きがあったとか、なんとかいう――あんなのは皆くだらないことです、あんな証拠なら百でも二百でも数え上げられますよ。
それから、またあの時たまたま、わたしは例の警察署の一件を詳しく聞いたんです。
しかも、通りすがりにちょっと聞いたなどというのじゃなくって、ある特別な、すばらしい話し手から聞いたんですからね。
その男は自分ではそれと気づかないまま、この一幕の真相を驚くほど正確に飲み込んでいたのですな。こうしたことが次から次へと、本当に次から次へと重なっていったんですよ、ロジオン・ロマーヌイチ! ねえ、そうなれば、どうしてあの方向へ疑いの目が向かないでいられるでしょうか? 百匹のウサギを集めたところで一頭の馬にはならないように、百の疑いも結局は一つの決定的な証拠にはなりません。それはもう、イギリスの有名なことわざが言っている通りです! しかし、それは落ち着いて冷静な判断ができる時の話であって、頭に血が上っている時にそんな理屈が通りますかな。何分、判事だって人間ですからね。
そこへもってきて、わたしはあなたの論文を思い出したんです。ほら、あなたが初めてお訪ねくださった時に、くわしくお話しした雑誌の論文ですよ。あの時、わたしはあなたをからかいましたね。しかし、あれはあなたをさらに先へ釣り出すためだったんです。くり返して言いますが、ロジオン・ロマーヌイチ、あなたはあまりにこらえ性がなく、あまりに病的なんですよ。あなたが大胆で、誇りが強く、まじめで、そして……感じていらっしゃる、それもあまりに感じすぎるくらい感じていらっしゃるということを、わたしはずっと前からよく知っておりました。
こうした様々な感情は、わたしにとっても馴染み深いものでしてね。あなたの論文にしても、どこか懐かしいような気持ちで読みました。あれは眠れない夜に、まるで気が狂ったような興奮状態で着想されたものでしょう。胸がどきどきと高鳴り、張り詰めた興奮の中で書かれたものだ。この「張り詰めた誇りに満ちた興奮」というやつは、若い人にとって実に危険なものです! わたしはあの時、あなたのことを愚弄しましたが、今はあえて言わせてもらいます。わたしは一人の人間として、また文章を愛する者として、あの若々しく熱烈な最初の試作を非常に愛しているのです。あれは煙であり、霧です。霧の中で奏でられる楽器の音色のようなものです。あなたの論文は、ばかばかしいほど空想的なものです。しかし、そこにはなんとも言えない真摯な気持ちがひらめいている。若々しい不屈の誇りがあり、自暴自棄の勇気がある。あれは陰鬱な論文ですが、それでもいいんです。わたしはあなたの論文を読むと、別にしまっておきました……その時、脇へ置いて考えたのです。『この男は、このままでは済まないだろう』とね。
さあ、そういうわけです。こうした前置きがあった後で、その次に起こった出来事に夢中にならずにいられましょうか、考えてもごらんなさい! ああ、とんでもない! わたしは何も断定しているわけではありませんよ! あの時、わたしはただちょっと気がついたのです。いったいこれはなんだろう、とわたしは考えました。なんにもありゃしない、全くなんにもない、それこそ本当になんにもありゃしない。それに、そんなことで夢中になるのは、予審判事として、全く不都合なくらいです。わたしの手にはミコールカという男がいて、しかも事実まで揃っているのですからね――いや、なんとおっしゃろうとも、事実に相違ありません! 彼もまた、彼なりの心理的な方法で動いている。この男も調べなきゃなりません。何しろ生死にかかわる問題ですからね。
ところで、今なんのためにこんなことを色々説明していると思いますか? ほかでもありません、あなたにその知性と感情で事態をよく理解していただき、あの時のわたしの毒々しいやり口に対して、わたしを責めないでいただきたい、その一心なんです。もっとも、決して毒々しいことなんかありませんでしたがね、へ、へ! あなたは、わたしがあの時あなたの住まいへ捜索に来なかったとお思いですか? 来ましたよ、来ましたとも、へ、へ! あなたがここで病床に伏せておられた時に、やって来たんですよ。正式な手続きとしてではなく、また公人としてでもなく、とにかく来たんです。そして、あなたの住まいにあるものは、まだ証拠が消えないうちにと、髪の毛ひと筋残さないように、一々調べ上げたんですよ。
しかし――徒労でした! わたしはこう思ったのです。今にこの男はやって来る、自分の方からやって来る、しかも遠からずやって来る。もし罪があるなら、それこそ必ずやって来るに違いない。ほかのものは来なくても、この男だけは必ず来る、とこう考えたのです。それから、ラズーミヒン君がいろんなことをしゃべり出したのを覚えていますか? あれはあなたを興奮させるために、われわれが仕組んだことなんです。あの男があなたにしゃべるように、わざと風説を流したんですよ。何しろラズーミヒン君はああいう風に、公憤を抑えきれない男ですからな。ザミョートフ君は、何よりもあなたの憤りと、あけっぴろげな大胆不敵さに目をつけたのですよ。ねえ、だって料理店なんかで、だしぬけに「おれは人を殺した!」なんて、あんなに大胆に、あんなに不敵に言い放てるものですか。
そこでわたしは、もし彼が本当に犯人だとしたら、実に恐るべき闘士だと思ったんです! 実際、その時はそう確信したんですよ。
それから待ちました。あなたの来るのを一生懸命に待ちました! ザミョートフはあの時、あなたに完全に圧倒されてしまった……つまり、あれこそが例のどっちにでも転ぶ心理というやつでしてね! そうして、わたしがあなたを待っていると、どうでしょう、神の恵みか、あなたが現れたじゃありませんか。わたしは本当に心臓がどきんとしましたよ。
ねえ、なぜあなたはあの時、わざわざ来る必要があったんでしょうか? それにあの笑い、覚えておいででしょう。あの時、入って来ながら漏らした笑い声。わたしはまるでガラス越しに見るように、あなたの本心をすっかり見抜いてしまった。
もしああいう特殊な事情の下であなたを待っていなかったら、何一つとして気がつかなかったでしょうが、そういう気持ちでいるというのは恐ろしいものですね。
それからあの時はラズーミヒン君が――あっ! そうだ、石です、石。
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