初級翻訳・罪と罰 第43話

ドストエフスキー

だから、もしコッホが余計な真似をしなければ――自分ひとりで庭番を呼びに行ったりしなければ、きっとその場で犯人を捕まえられたに違いない。つまり、奴はそのわずかな隙をついて、うまく階段を降り、皆のそばをすり抜けたんだよ。コッホのやつ、両手で十字を切って『もし私がそこに残っていたら、奴はいきなり飛び出してきて、きっと斧で殺されていたに違いありません』なんて言っている。ロシア式の感謝の祈祷でもやりかねない勢いだぜ……ははは」

「ですが、誰も犯人の姿を見た者はいないんでしょう?」

「どうして見られるものですかね? あの家はまるで『ノアの方舟』のような雑多な場所ですからな」
自席から耳を傾けていた事務官が、会話に割り込みました。

「事件は明瞭だ、すこぶる明瞭だ!」
ニコジーム・フォミッチは熱心に繰り返しました。

「いや、きわめて不明瞭ですよ」
副署長が冷たく釘を刺しました。

ラスコーリニコフは帽子を手に取り、出口の方へ歩き出しました。
しかし、ドアまでたどり着くことはできませんでした。

気がつくと、彼は椅子に腰を下ろしており、右側から誰かに支えられていました。左側には別の男が立っていて、黄色い液体が入ったコップを差し出していました。
ニコジーム・フォミッチが目の前に立ち、じっと彼を見つめています。
彼はふらふらと椅子から立ち上がりました。

「これはどうしたことです、病気なんですかね?」
ニコジーム・フォミッチが、かなり厳しい口調で尋ねました。

「この人は署名をする時にも、やっとの思いでペンを動かしていたくらいですからね」
事務官は自分の席に戻り、また書類作業を続けながら言いました。

「前から具合が悪かったのか?」
副署長も同じように書類をめくりながら、自分の席から怒鳴るように言いました。
もちろん副署長も、ラスコーリニコフが気絶している間は患者として観察していましたが、彼が意識を取り戻すと、すぐに関心を失ったようでした。

「昨日から……」
ラスコーリニコフは、かき消えるような声でそう答えました。「きのう外出しましたか?」
「しました」
「病気なのに?」
「病気なのに」
「何時ごろ?」
「晩の七時すぎです」
「そしてどこへ、失礼ながら?」
「通りへ」
「簡単明瞭だね」

ラスコーリニコフは布のように真っ青な顔をして、その黒く燃えるような瞳を副署長の視線からそらさず、途切れ途切れの声で鋭く言い返しました。

「この人は立っているのさえやっとの状態なんだ、それを君は……」とニコジーム・フォミッチが口を挟みます。
「いや、べーつーに」と副署長は、何かこう特別な響きを含ませた調子で言いました。

ニコジーム・フォミッチはまだ何か言い足そうとしましたが、穴が開くほどじっとラスコーリニコフを見つめている事務官の顔を見て、口をつぐんでしまいました。
その場の全員が、急に黙りこくりました。何やら変な空気が流れています。

「いや、よろしい」と副署長が締めくくりました。「もうお引止めはしませんよ」

ラスコーリニコフは外へ出ました。
後ろで急に、がやがやと勢い込んだ会話が始まったのを、彼は耳にしました。中でも、ニコジーム・フォミッチの問いかけるような声が一番よく響いています……。

通りに出ると、彼はすっかり我に返りました。
『捜索、捜索、すぐ家宅捜索だ!』
彼は帰りを急ぎながら、心の中で何度も繰り返しました。
『あの強盗めら! 疑ってやがるぞ』
先ほどの恐怖がまたしても彼の全身を、足の先から頭のてっぺんまでわしづかみにしました。

『だが、もしもう家宅捜索をやられてしまっていたら? ちょうど家に帰ってみて、やつらが待ち構えていたら?』

しかし、もう自分の部屋の前に着きました。
何事もありません。誰もいません。誰一人のぞいていった形跡もありません。ナスターシャさえも手をつけていないようです。
それにしても、まあ、なんということでしょう? どうして先ほど、あの品々をそっくりこの穴に放りっぱなしにして出てこられたのでしょうか。

彼は片隅へ飛んでいくと、片手を壁紙の下へ差し込み、例の品々を引っ張り出して、ポケットへねじ込み始めました。
全部で八品ありました。耳輪か何かが入った小箱が二つ――彼はろくすっぽ中身も見ませんでした――それから小さなキッド皮の袋が四つ、ただ新聞紙にくるんだだけの鎖が一本、ほかにまだ何やら新聞紙に包まれたものがありました。どうやら勲章らしい……。

彼はこれをすっかり方々のポケットへ入れました。外套のポケットと、残ったズボンの右ポケットへ、なるべく目立たないようにと気を使いながら詰め込みました。財布も一緒に取り出しました。
それから部屋を出ましたが、今度は鍵もかけず、あけっぴろげにしておきました。

彼は速く、しっかりした足取りで歩きました。全身が打ちひしがれたようになっているのを感じましたが、意識ははっきりしていました。
彼は追跡を恐れていました。三十分後、いや、十五分後にでも、自分に対する尾行命令が出はしないかと怖かったのです。
したがって、どんなことがあろうとも、それまでに証拠を消し去らなければなりません。まだいくらかでも気力と判断力の残っているうちに、うまく処理しなければ――だが、どこへ行けばいいのでしょうか?

それはずっと前から決めていたことでした。
『何もかも川の中へ投げ込んで、証拠を隠滅するんだ。そうすれば万事片がつく』
彼は昨晩、熱にうかされながら、いく度も起き上がって出かけようともがいた瞬間に(彼はその記憶がありました)そう決めていたのです。
『早く、少しでも早くみんな捨ててしまうんだ』

けれど、いざ捨てようとすると、それが意外にも難しいことだと分かりました。
彼はエカチェリーナ運河の河岸通りを三十分、あるいはそれ以上もぶらぶらして、何度か水際へ降りる場所を見つけては下をのぞいてみました。
ところが、計画を実行するのは考えも及ばないことでした。ある所では、いかだが降り口のすぐそばにあって、その上で洗濯女たちが服を洗っていたり、ある所ではボートがもやっていたりして、どこもかしこも人がうようよしていたのです。
それに、河岸通りからでも、どこからでも丸見えなので、男がわざわざ水際へ降りていって、そこにしばらく立ち止まり、何やら水の中へ放り込むのを見られたら、変に思われるに違いありません。
その上、もし袋が沈まないで流れていったらどうするのでしょう? そうなってしまう可能性だってあります。そうなれば、誰の目にも止まってしまいます。
それだけでなく、道行く人はみんな、すれ違いざまに彼をじろじろ見たり、振り返ったりするではありませんか。まるで、彼一人だけに用事があるかのような具合です。

『なぜこうなんだろう? それとも、おれにそんな気がするだけなのかしら』と彼は考えました。
とうとう最後には、いっそネヴァ川へ行った方がよくないかという考えが頭に浮かびました。あそこなら人通りも少ないし、ここほど目立たないから、いずれにしても好都合です。それに何より、ここからだいぶ離れているのが一番の利点でした。すると、彼は急に自分でも驚きました。

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