次郎物語

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下村 湖人

初級翻訳・次郎物語 第10話

次郎はそれがいくぶん気がかりでしたが、「それなら僕、行くよ」と、先ほどからの自由な気分を失わないまま答えました。そして、自分の一言で明日の計画が決まったとき、彼は久しぶりに、お浜の家にいた頃のような穏やかな気分を味わいました。間もなく俊亮は...
下村 湖人

初級翻訳・次郎物語 第9話

それなら、その声に応じてすぐに出ていけばいいはずなのに、そうもいきませんでした。母の言葉は、彼が素直に出ていくには少し強すぎたのです。母の声を聞くと、次郎はすぐさま座敷の方に背を向け、立木によりかかってしまいました。「次郎ちゃん、父ちゃんが...
下村 湖人

初級翻訳・次郎物語 第8話

次郎はびっくりして手を引きましたが、その五本の指には、ご飯が一握りつかまれていました。彼はあわててそれを口に押し込みながら、座敷の方へ逃げ出そうとしました。しかし、もう遅すぎました。座敷の敷居をまたぐかまたがないかのところで、彼は襟首をお民...
下村 湖人

初級翻訳・次郎物語 第7話

彼はしかし、まだ目がさめないふりをして、そのまま動かずにいました。しばらく沈黙がつづきました。「まあ、あきれた子だね」お民は平手で、三つ四つ彼の臀を叩きました。それでも彼は、小豚の死骸のように転がったままでいました。そのうちに燈火がぱっと灯...
下村 湖人

初級翻訳・次郎物語 第6話

次郎は闇の中に目を凝らしながら、道の端っこにしゃがみ込みました。「次郎、次郎や、どこにいるの?」次郎は息を殺しました。そして、逃げ出すなら今だと思いました。しかし、彼は立ち上がりませんでした。それは、お民がすぐそばに立っているからというだけ...
下村 湖人

初級翻訳・次郎物語 第5話

ちょいと門を出るのさえ、この頃ではおずおずしていらっしゃるようで、本当におかわいそうですわ」「でも、私から直接言い聞かせれば、納得しないわけはないと思うのだがね」「そうだと結構でございますが……」「親身の母親が言って聞かせても、ダメだと言う...
下村 湖人

初級翻訳・次郎物語 第4話

次郎はここ二十日あまり、おねしょをすることもなく、お浜のそばで穏やかに過ごしていました。そして、実家での記憶もようやく薄れかけていたところでした。それなのに、今日は突然、お浜と一緒にいる時でさえ嫌がっていた方角へ、さほど親しくもない直吉に連...
下村 湖人

初級翻訳・次郎物語 第3話

お前さんこそ、子供が可愛くないんだろう!」「毎日毎日ぶらぶらして、一銭だって稼いでこないじゃないか」勘作はそっぽを向いて、黙り込んでしまいました。それまで、間の抜けた泣き声を出しながらも、二人の言い争いに耳をそばだてていた次郎は、どうやらお...
下村 湖人

初級翻訳・次郎物語 第2話

結局、お民の方が根負けして、自分からお浜の家へ出かけることになったのです。今度は、もちろんお猿の話なんて、どちらからも出ませんでした。それどころか、お民はこんなことを言って、お浜の機嫌をとったのです。「この子は八月十五夜の、ちょうど月の出の...
下村 湖人

初級翻訳・次郎物語 第1話

一 お猿さん「腹が立って、しょうがないよ」乳母のお浜は、台所の高い框(かまち)に腰を下ろしながら言いました。「本当にねえ。いくら気が強い方だとはいえ、奥様もあんまりだよ。まるで人の心なんてもの、踏みにじっているようなものだもの」竈(かまど)...
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