桜の実の熟する時

スポンサーリンク
島崎 藤村

初級翻訳・桜の実の熟する時 第10話

自分は書生の身分なのだから、自分もそこへ出席させてほしいとなかなかおじさんにお願いできずにいました。ある日、捨吉は主人が一人で庭を歩いているのを見かけました。そのそばへ思い切って歩み寄り、こんなふうに切り出してみたのです。「おじさん、僕にお...
島崎 藤村

初級翻訳・桜の実の熟する時 第9話

どうしてこんなに足の甲が高くなっちゃったのかねえ」「どうだ、俺の足なんてこれだぜ」主人はセルの単衣(ひとえ)の着物をまくり上げ、太い腰のわりにキュッと小さく引き締まった足を、捨吉のほうに見せびらかすように突き出した。「お父さんの足ったら、本...
島崎 藤村

初級翻訳・桜の実の熟する時 第8話

まだ捨吉は上り框に腰掛けたまま素足のままでいて、自分の本箱から取り出したお気に入りの本を膝の上に載せ、夢中になって読書にふけっていたのだ。ふと気づくと、細君が自分のすぐ背後に立っていたので、捨吉はなんだかきまりが悪そうに本をパタンと閉じ、少...
島崎 藤村

初級翻訳・桜の実の熟する時 第7話

「一時は、もうお前さんのことを(書生として置くのを)お断りしようかと思うくらいだったんだよ……」その言葉の調子は優しかったのですが、心の急所にスッと突き刺さるような、細い針のように鋭い響きがありました。捨吉は思わず顔を真っ赤にしたり、あるい...
島崎 藤村

初級翻訳・桜の実の熟する時 第6話

大勝というのは、捨吉にとって恩人の田辺や兄の民助の「主人(雇い主)」にあたる家であり、樽屋の人たちもしょっちゅう田辺の家を行き来していました。あの樽屋のおかみさんが、自慢の娘のまだあどけない「鬘下地(かつらしたじ)」という子ども用の髪型を結...
島崎 藤村

初級翻訳・桜の実の熟する時 第5話

彼はクラスの中でも一番若いほうの一人でしたが、学校に入ってからの二年間ほどは、ずっとクラスで一番の成績をキープしていました。一時期は、たくさんの先生たちからものすごく可愛がられていたのです。特に、アメリカから新しくやってきたばかりの若い先生...
島崎 藤村

初級翻訳・桜の実の熟する時 第4話

神様が特別な恵みをその身に授けてくださったのです」長いヒゲの男は、手に持っていた古い革表紙ですり切れた聖書をパタパタと振って言った。その時、捨吉はこの人たちの話を聞いて、これから洗礼を受けようとしている一人のまだクリスチャンではない娘がいる...
島崎 藤村

初級翻訳・桜の実の熟する時 第3話

一時期、得意になって身につけていたお洒落な洋服の数々も、今自分で思い返してみるだけで耐えられないほど気恥ずかしく、嫌味なものに思えてきた。良家の子女のファッション真似ていただけの自分は、まるで孔雀の羽をつけた烏(からす)のようだと笑われてい...
島崎 藤村

初級翻訳・桜の実の熟する時 第2話

その帰りに玉子と一緒に二人乗りの人力車に乗せられたことを思い出した。その人力車の上で、この御殿山の小道を夢心地で揺られながら進んでいったことを思い出した。玉子は間もなく学校を辞めて神戸の方へ帰ってしまったので、この女性との親しい付き合いは半...
島崎 藤村

初級翻訳・桜の実の熟する時 第1話

ふと、彼は拾い上げた桜の実の匂いをかいで、まるで大きなおとぎ話の世界に入り込んだような、うっとりとした気分を味わった。それを、若かりし日々のまばゆい幸せのしるしであるかのように、心の中で思い描いてみたのだ。これは、自分が書いたこの物語の中で...
スポンサーリンク