桑の木物語

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山本 周五郎

初級翻訳・桑の木物語 第17話

「これからは、時々ここに顔を出すといい」「それでは、私どもが営む舟仙(ふなせん)へも、いつかお越し下さるときがまいりましょうか」悠二郎もまた次の木へと移りながら尋ねる。どうやらお互いに、今の感動で涙に濡れた顔を見られたくないらしい。繁りあう...
山本 周五郎

初級翻訳・桑の木物語 第16話

薄情な主人だと恨んだだろうな。――あんなに約束したのに、いざという時になってその約束を破り、いないものかのように扱った。恨むのが当然だ。もし俺がお前の立場だったとしても、きっと腹を立てずにはいなかったと思う」「正直に申し上げます。お言葉のと...
山本 周五郎

初級翻訳・桑の木物語 第15話

「――悠ちゃんの苦労するのを見て、あたしが平気でいられると思って、……あたしがどんなに心配しているか、あんたわかっちゃあ呉れないの」 悠二郎はそこへ寝ころんだまま、長いこと黙っておみつの泣くのを聞いていた。それからやがて眼をつむったまま、低...
山本 周五郎

初級翻訳・桑の木物語 第14話

ねえ……教えてよ、何か心配事でもできたの? 悠ちゃん」「うるせえって言ってるだろ! いいから黙ってほうっておいてくれ!」四日目になって、家から家扶(かふ―お世話係)の渡辺のおじいさんがやってきた。お父さんもお母さんも心配しているから一度家に...
山本 周五郎

初級翻訳・桑の木物語 第13話

「いやあねえ悠ちゃんたら、まるで取って付けたみたいじゃないの、ふだんすばしっこいくせにそんなことは気が利かないのね」「黙ってろ、うるせえ、こっちあお祖父さんから云いつかってるんだ、さあ坐んなよ、母ちゃん」「勿体ない、よして下さいよ、肩が曲る...
山本 周五郎

初級翻訳・桑の木物語 第12話

「こんなものを、どうせ、始末におえません、見るたびにどうも、なんとも」庭師の老人はしきりにこぼしていた、「――どうしたってお庭につくもんじゃございません、いまに爺いが叱られるに定っています」正篤はなにも云わず微笑していた。まだ下屋敷にいると...
山本 周五郎

初級翻訳・桑の木物語 第11話

決して、殿をひとりで旅立たせたりはいたしません。――人間はいつか必ず死ぬものです。遅かれ早かれ、いずれはみんなこの世を去っていくのです。……殿、どうか死ぬことばかりを考えないでください。大切なのは、今こうして生きているその時間です!できるだ...
山本 周五郎

初級翻訳・桑の木物語 第10話

そして参勤出府(さんきんしゅふ)の式――国元での特産品である献上物を持って将軍に謁見(えっけん)すること――が済むとすぐ、正篤は軽い風邪をひいて床に伏せた。旅の疲れも出たのだろう、長くて四、五日もすれば治ると思われたが、そのまま五十日ほども...
山本 周五郎

初級翻訳・桑の木物語 第9話

母ちゃん、舟を借りるぜ!」正篤(まさあつ)を促して河岸(かし)へとびだすと、おみつが追いかけてきてまた世話を焼きはじめた。「その舟はだめよ、悠ちゃん! だめなのよ、こっちの舟にしなさいよ!」「黙ってろ、うるさいな! 素人じゃねえんだ!」「偉...
山本 周五郎

初級翻訳・桑の木物語 第8話

庭師はそんなものはお屋敷の庭へ植えるものではないと云い、なかなか承知しなかったが、若君がどうしてもきかないので、それでは内証ですからと云って、日月亭の裏のところへ二本植えた。「こっちは若、こっちはおまえのにしよう」若君は悠二郎にこう囁いた。...
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