泉 鏡太郎

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泉 鏡太郎

初級翻訳・魔法罎 第5話

寒いから」「ありゃ」と威勢よく頭を突き出して屈み、鼻息をふっと吹くと、一目散に黒い影となって、がたがたと月夜を駆け出していきました。……まるで猪(いのしし)が飛び出したかのようにまた驚いて、彼は広い辻に一人立ち、店々の電灯の数よりも多い、大...
泉 鏡太郎

初級翻訳・魔法罎 第4話

結綿(ゆいわた)の娘は、ふっくらとしている。二人とも鬘(かつら)を被ったかと思う。年齢は少ない、十三、四か、それとも五、六、七、八か。目尻に紅を入れたらしいまで極彩色に化粧したが、激しく疲れたと見えて、恍惚として頬に青みが差し、透き通るほど...
泉 鏡太郎

初級翻訳・魔法罎 第3話

揺れながら轟音を響かせ、汽車は天窓から鈍い錐(きり)となって、山の底へ潜り込むかのような、ただならぬ気迫に、少なからず圧倒されたのです。「これは難所だ」美人に見惚れていたせいか、あろうことか、ぐったりと鏡台にもたれかかっていたという、なんと...
泉 鏡太郎

初級翻訳・魔法罎 第2話

「月見堂(つきみどう)というのは、どこにあるのですか?」「あそこがそうです」と、少年の駅夫が指さしました。錦のように色づいた紅葉の淵に、霧をまとい、ススキが縁取り、まるで赤い毛氈(もうせん)を敷いた島のような山端に、ひときわ珍しく緑の木々が...
泉 鏡太郎

初級翻訳・魔法罎 第1話

一 山々の頂は、まるで木の葉で作られた虹のよう。谷間は、錦(にしき)を広げたような深い淵。……信濃の秋、山深い場所で見る、霜が降りて冴えわたった夕月の美しさといったら、もう、なんと表現すればよいのでしょう。……流れる川は、銀色の鱗を持つ龍の...
人魚の祠

初級翻訳・人魚の祠 第4話

「沈んだ船だ――」と、私は思わず声を張り上げてしまいました。ためらう間もなく、陰気な水音が、ドブンと響き渡りました…… しかし、彼女は見事に泳いでいくのです。美しい肉体の背筋を上手に使って、左右へと水をかき分けて進むその姿は、まるで軽い薄絹...
人魚の祠

初級翻訳・人魚の祠 第3話

現に、私が通りがかりに沼のほとりの小さな祠(ほこら)を指して、『あれはどなたの神様でしょう。』と尋ねたときに、『道の神様だよ。』と言って教えてくれたのです。いまその祠は、沼に向かって草に休む背後の、なだらかな道端の小高くなった小さな森の前に...
人魚の祠

初級翻訳・人魚の祠 第2話

…… 小さな沼では、河骨(こうほね)の黄色の花が点々と咲く中を、子どもがいたずらに猫を乗せた盥(たらい)をこいでいる。大きな沼では、岸辺の葦(あし)を積んだ船が、竿をさして波を分けて進んでいく。千葉、埼玉、あの大きな川の流域をたどる旅人は、...
人魚の祠

初級翻訳・人魚の祠 第1話

一「いまの、あの女の人が抱いていた赤ちゃんですが、鯉か、すっぽんなんじゃないかと気になってしかたないんですよ。」「…………」 私は、だまって工学士の顔を見た。「まさかとは思いますがね。」 赤坂の見附(みつけ)に近い、ぽつんと一件だけある喫茶...
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