鼠

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岡本 綺堂

初級翻訳・鼠 第6話

「気をつけてお行きよ」お此の声も湿っぽく曇っていました。その声を背中で聞きながら、お元は降ってきた小雨の中、庭先へと抜け出しました。横手の木戸を内側から開けると、彼女の姿は闇の中へと消えていきました。翌朝の近江屋は、お元の家出の騒ぎで大騒ぎ...
岡本 綺堂

初級翻訳・鼠 第5話

近江屋七兵衛といえば、この界隈では誰もが知る、四十二歳の分別盛りの男です。それなのに、わが子を恋しく思うあまりに目がくらんでいたとはいえ、十七、八の小娘にまんまと騙されたのかと思うと、七兵衛も我ながら腹が立つやら、ばかばかしいやらで、しばら...
岡本 綺堂

初級翻訳・鼠 第4話

有明行燈の火に照らされた蚊帳の中には、鼠らしい姿は見当たりません。念のために布団を振ってみましたが、いたずら者はどこにも隠れていませんでした。「行燈を消さずに置いてください」言い知れない恐怖に襲われたお此は、夜が明けるまで一睡もできませんで...
岡本 綺堂

初級翻訳・鼠 第3話

お元さんには、鼠(ねずみ)が取り憑いていると言うのです」「なんだと? なぜそんなことを言うんだ」「お国の話では、お元さんのそばには小さな鼠がいるそうです。いつも見えるわけではないけれど、時々その姿を見かけるのだと。お元さんが縁側などを歩いて...
岡本 綺堂

初級翻訳・鼠 第2話

二人は無言でしばらく顔を見合わせていたが、義助は茶屋の婆さんに向かって小声で尋ねた。「あの毛皮売りのじいさんは何という男だね」「あの奈良井の宿はずれに住んでいる男で、伊平(いへい)と申します」「あの娘の名は」「お糸といいます」それから詳しく...
岡本 綺堂

初級翻訳・鼠 第1話

一 大田蜀山人が書いた『壬戌紀行(じんじゅつきこう)』という旅日記には、木曽街道の「奈良井の宿」の様子がこう記されています。「奈良井の宿場を見渡せば、梅、桜、彼岸桜、すももの花が枝を交え合って咲き乱れ、まるで春の真っ只中にいるような気分にさ...
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