坂口 安吾

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坂口 安吾

初級翻訳・風博士 第3話

諸君、開いた形跡のない戸口から、人間が絶対に出入りすることはできません。したがって偉大なる博士は、外へは出なかったに違いありません。かといって、偉大なる博士は屋敷の内部にもいなかったのです。僕は階段の途中で立ち尽くし、まだ響き残っている慌た...
坂口 安吾

初級翻訳・風博士 第2話

妻は僕の研究を助けてくれる、まさに「地の塩」のような存在でした。蛸博士は、そのことに目をつけたのです。ああ、千の考えにも一つのミスがあるとは、このことです。そうです、本当に痛恨のミスでした。僕はうっかり、蛸博士の頭がハゲているという事実を、...
坂口 安吾

初級翻訳・風博士 第1話

みなさん、東京のどこかにある「風博士」のお屋敷をご存じでしょうか? ……知らない。それはとても残念なことです。では、偉大な「風博士」という人物をご存じでしょうか? ……知らない。それもまた、とても残念なことです。では、その偉大な風博士が自殺...
坂口 安吾

初級翻訳・青い絨毯 第4話

「君は知らないだろうけど、あの家ときたら、下の座敷へ降りると、足音のないお婆さんがいつも立っていたり、歩いていたりするんだぜ」「背が馬鹿に高くて肩幅の広い、力士が痩せたようなお婆さんなんだ」「そのお婆さんが、一人かと思うと、確かに二人なんだ...
坂口 安吾

初級翻訳・青い絨毯 第3話

僕の窓の正面には火薬庫があり、崖の上を銃剣を下げてグルグルと回る番兵の姿が見えます。病気の中、僕の幻覚はこの火薬庫へ忍び寄り、銃剣で追い詰められて、とたんに火薬庫が爆発する……そんな妄想にはじかれて我に返れば、全身の苦痛で腹這いになり、エビ...
坂口 安吾

初級翻訳・青い絨毯 第2話

事実、本を一冊訳し上げるような脇目もふらぬ緊張のせいもあったのでしょうが、顔に表れるやつれ方は顕著で、目はくぼみ、顔全体が脂でギラギラして、皺だらけで黄色くなっていました。ウサギ屋のモナカを食べ、濃いコーヒーをよく飲みました。そうして朝はた...
坂口 安吾

初級翻訳・青い絨毯 第1話

僕らが『言葉』という翻訳雑誌、そして『青い馬』という同人誌を出すことになり、その編集作業に使っていた部屋は、芥川龍之介の書斎でした。なぜそこを使っていたかというと、同人の葛巻義敏(くずまき よしとし)が芥川の甥だったからです。彼は当時二十一...
坂口 安吾

初級翻訳・蟹の泡 第2話

悪人は――悪徳自体は常にくだらぬものではあるが、悪徳の性格の一つには孤独という必然の性格があり、他をたより得ず、あらゆる物に見すてられ見放され自分だけを見つめなければならないという崖があるのだ。善人なおも往生を遂ぐいわんや悪人をや、とはこの...
坂口 安吾

初級翻訳・蟹の泡 第1話

私は、中戸川とみゑさんの「ひとりごと」を読んだとき、もし自分が遺族だったなら、本人の遺言どおりに燃やしてしまえばよかったのに、と思った。私は「春日」というこの人の俳句集――日本文学の歴史的な大傑作の一つ――を読んでいたからこそ、「ひとりごと...
坂口 安吾

初級翻訳・神サマを生んだ人々 第6話

そんなことよりも、ほら、すぐそこに知った顔が見えませんか」そう言われて二人がその場所を見ると、そこに座って無念無想の境地で呪文を唱え、腕を振り回しているのは、なんと川野水太郎の奥さんでした。それを見た川野は少し暗い表情を浮かべましたが、すぐ...
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