「わたしは一言であなたをへこませて、あなたの疑いをすっかり吹き飛ばすことができますよ。たとえば、わたしが結婚しようとしていることをあなたはご存じですかね」
「それはもう前にもお話ししておられましたよ」
「お話しした? 忘れていましたよ。しかし、あの時はまだ確かな話はできなかったのです。何しろまだ相手の娘も見ていなかったんで、ただその意向を持っていただけなんですからね。ところが、今じゃもう相手が決まって、話がすっかりまとまってしまったんです。もしのっぴきならない用事さえなかったら、わたしはもちろんあなたをお連れして、さっそくその方へご案内するはずなんですが――なぜって、あなたのご意見が伺いたいんですからね。ええ、ちくしょう! もうあとたった十分しかない。ね、時計を見てごらんなさい。だが、やはりあなたにお話ししましょう。」実際、この話はわたしの結婚というやつで、ちょっと面白いんですよ。まあ、一風変わった面白さですけれどね――おや、どこへ行くんです? また帰ろうというのかい?」
「いや、今となっては、もう二度と帰りませんよ」
「二度と帰らないって? まあ、見ていてごらんなさい! わたしがあなたをそこへ案内してあげますよ、本当に。そして花嫁をお見せしましょう。……といっても今すぐじゃありませんよ。今はあなたも出かける時間でしょうしね。あなたは右へ、わたしは左へ行くとしましょう。
ところで、レスリッヒ夫人をご存じですか? ほら、今わたしが下宿しているあのレスリッヒという女のことですよ――え? お分かりですか? ねえ、あなたはどう思います? ほら、娘が冬の川の水に飛び込んでどうとかいう噂のある……分かりますか? 分かりますよね? 今回の話は、あの女がいっさいを取り仕切ってくれたんですよ。『あなたは退屈でたまらないのでしょう、少し気晴らしをなさるがいいわ』と言ってね。
実際、わたしという人間は陰気で、うっとうしい男なんですよ。あなたはわたしを快活な人間だと思いますか? とんでもない、陰気な人間なんです。別に悪いことをするわけじゃないが、いつも隅っこでくすぶっていて、ひどい時は三日も口をきかないくらいです。ところが、あのレスリッヒというのはなかなかのしたたか者でね、こんな計画を胸に持っているんですよ。つまり、わたしが飽きてきて女房を捨ててどこかへ行ってしまうと、その女房はあの女の手元に戻ってくるから、それをまた別口へ回そうというわけです――やはり我々と同じくらいの階級だが、もう少し上の身分のところへね。
あの女の話では、父親はある退職した役人なんですが、体がすっかり弱りきって、もう丸三年も安楽椅子に座ったきりで、自分の足では動いたことがないそうなんです。母親もいるが、こちらはしっかりとした分別のある女でね。息子はどこかの地方で働いているけれど家計を助けようとはせず、娘は嫁に行ってしまって見舞いにも来ない。しかも、自分の子供たちだけでは足りないのか、小さな甥を二人も引き取っているという有様です。
で、一番下の娘を学校の卒業も待たずに、女学校から引き上げてしまったんですよ。これがもうひと月すれば満十六歳になる。つまり、ひと月たてば嫁に出せるというわけで、その子をわたしに世話しようという寸法ですよ。
そこで、わたしたちは出かけました。向こうの家での様子は実に滑稽でしたよ。わたしは自分のことをこう触れ回りました――『わたしは地主で、男やもめで、由緒ある家柄の出で、これこれの親戚や知己がいて、財産も持っている』とね。……さあ、こうなると、わたしが五十歳でその娘がまだ十六にもならないなんてことが、何だというのでしょう? 誰がそんなことを気にしますか? ねえ、大いにそそられるでしょう? ええ? そそられるでしょう、はっはっは! わたしがそのお父さんやお母さんと話し込んでいるところを見せたかった! いや、あの時のわたしときたら、見物料を払ってでも一目見る価値がありましたよ。
娘が出てきて、ちょいと小腰をかがめて挨拶するんですが、まあどうでしょう、まだ裾の短い服を着ていて、綻び始めた蕾の花といった風情でね、赤くなって、朝焼けのようにぱっと燃え上がるんですよ(もちろん、あらかじめちゃんと言い聞かせてありますからね)。あなたは女の顔についてどうお考えか知りませんが、わたしに言わせると、この十六歳という年頃の、まだ子供っぽい目つきや、おずおずした様子、そして恥じらいの涙――わたしに言わせれば、これはもう美しさ以上のものですよ。
しかもおまけに、その娘はまるで絵に描いたような顔立ちなんです。細かくちぢれて小さな環を作っている薄色の髪、ふっくらした真っ赤な唇、小さな足――すてきですよ……。まあ、こうして顔見知りになったところで、家事の都合で急ぐからと言っておいたので、さっそく翌日、つまり一昨日には、われわれ二人はもう婚約させてもらったんですよ。
それからというもの、わたしは行くとすぐ膝の上に娘を乗せて、そのまま下ろそうとしない……すると、娘は朝焼けのように顔を赤らめる。わたしはひっきりなしにキスをしてやるんです。もちろんお母さんが、『これはお前の夫になる人だから、こうしなければならないのですよ』と言い聞かせてくれる。まあ、一口で言えば、極楽ですな! 今のこの許嫁という状態は、実際の夫婦の状態よりもいいのかもしれませんよ。これがいわゆる『自然と真実(La nature et la vérité!)』というやつですな! はっはっは! わたしは娘と二度ばかり話をしましたが――いや、どうしてどうして、なかなかの賢い子ですよ。
時々、こっそりわたしを見るんですが、まるで焼き尽くさんばかりの熱い目をしていながら、その顔はラファエルのマドンナみたいなんですよ。だって、シスチンのマドンナの顔は幻想的で、どこか悲しげな狂信者の顔をしているでしょう。あなた、それに気づきませんでしたか? まあ、あんな風の顔なんですよ。」両親の祝福を受けるとすぐ、その翌日、わたしは千五百ルーブリもの贈り物を持って行きましたよ。
ダイアモンドの装飾品をひとつ、真珠をひとつ、それに銀の婦人用化粧箱。これくらいの大きさで、中にはいろんなものがぎっしり詰まっているんです。
これを見た娘は……あのマドンナのような顔を、ぱっと赤く染めましたよ。
昨日もわたしはその子を膝の上に乗せたのですが、少しばかり無遠慮すぎたのかもしれません――娘はすっかり真っ赤になって、目から涙がぽろぽろとあふれ出しました。
それでも、その涙を見られまいと、体じゅうを火のように熱くしてこらえているんです。
そのうちに、ちょっとの間みんなが部屋を出て、わたしたち二人きりになると、急にわたしの首っ玉にかじりついて(あの子が自分からそんなことをしたのは初めてでした)、両手でわたしを抱きしめながら、接吻をしてこう言ったんです。「わたしはあなたのために、従順で、貞淑で、善良な妻になって、あなたを幸せにします。自分の一生を、生活の一分一秒まであなたに捧げて、どんなことでも犠牲にします。その代わり、ただあなたから尊敬だけをしていただければ……その上はもう、何も、何もいりません。
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