初級翻訳・罪と罰 第203話

ドストエフスキー

贈り物なんて少しもいらないんです」と、誓うんですよ。
ねえ、あんなふうに髪を環のようにちぢらせた、十六歳そこそこの天使みたいな娘から、顔を処女らしい羞恥の赤に染め、目に感激の涙をためながら、こんな告白を聞かされると、どんな気持ちになるか、およそお察しがつくでしょう。まったく、魅惑的でしょう? たしかに魅惑的でしょう? それだけの値打ちはあるでしょう、え? ねえ? 値打ちがあると思いませんか? ねえ……ねえ、どうです……ひとつ、わたしの許嫁のところへ行ってみませんか……もっとも、今すぐじゃありませんがね!」

「手っとり早く言えば、その年齢と発達の恐ろしいほどのちがいが、あなたの情欲をそそっただけでしょう! いったいあなたは、本気でそんな結婚をするつもりなんですか?」

「なぜって? そりゃあ、是が非でもですよ。
人間というものは、自分のことをめいめい好きなようにするものだし、誰よりも一番うまく自分をだましおおせた者が、一番愉快に暮らしていけるというわけです。
はは! いったいあなたは、どうしてそんなに道徳の一本槍で突っかかってくるんです? お手柔らかに願いますよ。わたしは罪深い人間ですからね。
へ、へ、へ!」

「もっとも、あなたはカチェリーナ・イヴァーノヴナの子供たちの世話を引き受けた。
しかし……しかし、それにはまたそれだけの理由があったんだ……僕はいま、何もかも合点がいったよ」

「わたしはもともと子供が好きなんです。非常に好きなんですよ」とスヴィドリガイロフはからからと笑い出した。
「これについては、きわめて興味深い一つの挿話をお話しすることができます。
それは現在もまだ続いている話なんですよ。
こちらへ着くとその日のうちに、わたしは方々の魔窟を歩き回ってみました。
何しろ七年ぶりなので、いきなり飛び込んでみたというわけです。
あなたもおそらくお気づきでしょうが、わたしは自分の仲間や昔の友達に会うのを、別に急いではいないんです。
まあ、できる限りいつまでも、そうしていたいと思っています。
実はね、田舎でマルファのそばにいた時分、こうした秘密の場所に関する思い出が、死ぬほどわたしを苦しめたものですからね。
もっとも、こうした場所に入り込むと、少しでもその手の知識を持った人なら、ずいぶんいろんなことが発見できますよ。
大したもんですよ! 誰もかれも酔っ払っている。教養のあるはずの青年たちは、やることがないせいで、実現できそうもない夢や妄想の中に命を燃やして、さまざまな理論のせいで精神的に不具者になっていく。
またどこからかユダヤ人どもが押しかけてきて、金を取りこんで隠してしまう。
それ以外の連中は、ことごとく淫らなことばかりです。
こんなぐあいで、このペテルブルグという街は、はいって来た瞬間からわたしの顔に、馴染み深いにおいをむっと吹きつけた。
わたしはある舞踏夜会と称するものにぶつかったのです――恐ろしい下水溜のような場所でした(ところがわたしはこういう魔窟でも、少し薄ぎたない感じのする所が好きなんでね)。
もちろん、カンカン(卑猥な舞踏の一種)ですよ。
それも、ほかにはとうていないような、またわたしの若い頃にもなかったようなやつです。
さよう、これにも進歩が見えますよ。
ふと見ると、可愛らしく着飾った十三歳くらいの女の子が、斯道の名手と一緒に踊っている。
別の二人の一組が、その娘の前で踊っている。
そして、壁ぎわの椅子には、娘の母親が座っているんです。
ところで、それがどんなカンカンだか、とても想像がつくもんじゃありませんよ! 娘はきまり悪がって顔を赤くしていましたが、しまいには口惜しがって泣き出したのです。
名手は娘をかかえてきりきりっと回すと、娘の前でいろんな芸をして見せるんです。すると、まわりで見物していた連中がどっと笑い出しました。わたしはこういう時、ペテルブルグの野次馬たちが好きですよ。お下品な連中ではありますがね。
どっと笑って、わめき立てるところがいいんです。
『うまい、そうしなくちゃいけない! あんな子供をこんな場所に連れてくる親が間違ってるんだ!』なんて言っている。
ところが、わたしはそんなの知ったことじゃありません。
皆がどんなひどい遊びをしていようと、それが論理的だろうとそうでなかろうと、わたしの知ったことじゃない! やがて、わたしはすぐ自分の割り込むべき場所にねらいをつけて、母親の隣に腰をおろしました。
そして、自分も同じ旅の者だということから話を切り出し、ここにいる連中はみんな教養のない無知なやつらばかりで、真に価値あるものを認めることもできず、敬意を払うことすら知らないのだと語り、自分には金が山ほどあることをにおわせて、わたしの馬車で送ろうと申し出たのです。
こうして宿まで送り届けて、正式に知り合いになりました(親子はどこかの借家人から、小さな部屋を間借りしているんですよ。田舎から出てきたばかりなもので)。
そこで母親が言うには、わたしと知り合いになったことは、母親にとっても娘にとっても、これ以上ない名誉だと言うんです。
二人は完全に文無しで、どこかの役所に何かの願い事をするために出てきたとのことなので、わたしは力にもなるし金も貸そうと申し出たわけです。
聞いてみると、二人は本気でそこで舞踏を教える仕事があるものだと思って、うっかりあの夜会へ行ったんだそうです。
そこでわたしは自分の方から、その若い娘にフランス語と舞踏を教えてあげようと申し出たところ、それこそもう大喜びで、光栄の至りだといって受け入れてくれました。
それ以来、知り合いの間柄なんです……なんなら今度、一緒に行ってみますか? ただし、今すぐじゃありませんがね」

「よしてください、そんな下劣で汚らわしい話は聞きたくありません。
なんて堕落した、野卑な好色漢なんだ!」

「シラーよ、シラーよ、わがシラーよ! 『徳はいったいどこに隠れているのか?』。実はね、わたしはあなたのその熱い叫びを聞きたくて、わざとこんな話を持ち出すんですよ。実に愉快だ!」

「もちろんですよ。この瞬間、自分自身が滑稽だと思わないはずがないでしょう?」とラスコーリニコフは憎々しげにつぶやきました。
スヴィドリガイロフは喉を大きく鳴らして、からからと笑いました。
やがて彼は店員を呼んで勘定を済ませると、腰を上げました。

「ああ、だがわたしもすっかり酔っ払っちゃった。もうたくさんだ!」と彼は言いました。
「ああ、実に愉快だ」

「もちろん、あなたが愉快を感じないはずがないさ!」ラスコーリニコフも同じく立ち上がりながら、こう叫びました。
「すっかり手慣れた淫蕩漢にとって――しかも、その淫蕩漢が何かしら奇怪な野心を持っている場合――そういう野心を語るのが愉快でないはずがない。
おまけにこんな状況で、僕のような男を相手にしているんだから……好奇心が燃え上がるわけですよ」

「へえ、もしそうなら」と、少し驚いた様子でラスコーリニコフをじろじろ見ながら、スヴィドリガイロフは答えました。
「もしそうなら、あなた自身もかなりの無恥漢ですな。
少なくとも、大した素質をうちに秘めておいでだ。

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