子供たちも同じように小さな手で、四方からソーニャにとりすがっていました。ポーレチカはまだよくわからないながら、涙におぼれつくした様子で泣きじゃくり、涙で腫れあがった可愛い顔をソーニャの肩に埋めていました。
「なんという卑劣なことだ!」
この時、ふいに戸口のところで、大きな声が響きわたりました。
ルージンはすばやく振り返りました。
「なんという卑劣なことだ!」
じっと彼の目を見つめながら、レベジャートニコフがもう一度繰り返しました。
ルージンはびくりと身震いしたようでした。一同はそれに気がつきました(あとで人々はこのことを思い出したのです)。
レベジャートニコフは一歩、部屋の中へ入ってきました。
「あなたはよくもずうずうしく、わたしを証人に立てるなんて言いましたね!」
ルージンの傍へ歩み寄りながら、彼はそう言いました。
「一体それはどういう意味ですか、アンドレイ・セミョーヌイチ! 君はいったい、なんのことを言っているんです?」
ルージンはへどもどしながらつぶやきました。
「ほかでもない、あなたが……『濡れ衣』を着せたということです、これがわたしの言いたいことです!」
レベジャートニコフはしょぼしょぼした小さな目で、相手をきっと見すえながら、熱くなって言いました。彼は激しく憤慨していました。
ラスコーリニコフは、その一言一言を受け止めて、秤にでもかけて調べるように、穴のあくほどその顔に見入っていました。
またもや沈黙が室内を包みました。ルージンはほとんど狼狽したような様子でした。
「もし君が僕にそんな……」と彼はどもりながら言い出しました。「いったい君はどうしたんです? 気でも狂ったんじゃないですか!」
「僕はちゃんと正気だが、あなたこそかえって……悪党だ! ああ、なんという卑劣なことだろう! 僕は何もかも聞いていたんだ。」「僕はすべてをじっくり理解しようとして、わざと今まで待っていたんです。というのも、白状すると、今でもまだ頭が整理しきれていないくらいですから……一体あなたは何のためにこんなことをしたんですか……わけがわかりません」
「僕が何をしたっていうんだ! 君はそんなくだらないなぞなぞみたいな話を、いいかげんにやめる気はないのか! それとも、何かお酒でも飲んで酔っ払っているんじゃないのか?」
「それはあなたみたいに心の汚い人間なら、酔っ払うこともあるでしょうが、僕はそんなこと絶対にしやしません! 僕はウォッカなんか一度も口にしたことがない。つまり、自分の信念に反するからです。皆さん、よく聞いてください。あの男は、あの男は自分の手で、この百ルーブリ札をソフィヤ・セミョーノヴナに押し付けたんです――僕が見ていたんです。僕が証人です、宣誓したっていい! やったのはこの男です、この男なんです!」レベジャートニコフは一人一人に向かって、何度もそう繰り返しました。
「本当に君は気が狂ったのか? なんだ、この青二才め」とルージンはかん高い声でわめきました。
「その当人が君の前に、ちゃんと目の前にいるじゃないか――その女が今ここで、皆の前で白状しただろう――十ルーブリ以外、僕からは何も受け取っていないとな。してみれば、どうして僕がそんな大金を渡せたというんだ?」
「僕が見たんだ、僕が見たんだ!」とレベジャートニコフは叫び続けました。
「こんなことは僕の主義に反するけれど、僕は今すぐにでも裁判所へ行って、どんな宣誓だって立てる。だって、あなたがそっと紙幣を押し込むのを、僕はちゃんと見たんですからね! その時は僕もぼんやりしていて、あなたが慈善のためにそっと手渡したんだと思ったんです! 戸口であのひとと別れる時です。あのひとが振り返り、あなたが片方の手でその手を握った時、あなたはもう一方の手――左手で、あのひとのポケットへそっと紙幣を押し込んだのです。僕は見ました! 僕は見ましたよ!」
ルージンは顔を青ざめさせました。
「何をでたらめばかり言っているんだ!」と彼は図太く怒鳴りつけました。
「君は……窓のそばに立っていたのに、どうしてそれが紙幣だと見分けられたんだ? それは君の目の錯覚だろう――そのしょぼしょぼした目のな。君はうわ言を言っているんだ!」
「いいえ、目の錯覚なんかじゃありません! 僕は離れて立っていましたが、何もかもすっかり見ていました。もっとも窓のそばからでは、実際に紙幣を見分けるのはむずかしい――それはおっしゃる通りです――けれども、僕は特別な事情があって、それが百ルーブリ札に違いないことを確かに知っているんです。なぜなら、あなたがソフィヤ・セミョーノヴナに十ルーブリ札を渡そうとなさった時――僕はちゃんと見ていましたが――その時あなたがテーブルの上から、百ルーブリ札を手に取ったからです(僕はその時そばにいたので、しっかり見定めました。それに、その時頭にある考えが浮かんだので、あなたの手に紙幣があることを忘れなかったのです)。あなたはそれをたたんで、手に握りしめたまま、ずっと持っていました。それから、僕はほとんどそのことを忘れていたんですが、あなたが立ち上がりながら、それを右から左の手へ持ち替えて、危うく落としそうになった。僕はそこでまた思い出したんです。なぜって、僕の頭にはまた先と同じ考え――つまり、あなたは僕に隠れて、そっとあのひとに慈善をしてやるつもりだな、という考えが浮かんだからです。それがしかもどうでしょう。僕は特に気をつけて見ていたところ、あなたが首尾よくあのひとのポケットへ押し込むのを見届けました。僕は見ました、ちゃんと見ました。宣誓してもいいくらいです!」
レベジャートニコフは息も絶え絶えでした。
四方からいろいろな叫び声――何よりも驚愕をあらわす声が上がりました。しかし、威嚇するような調子の声も聞こえてきました。一同はルージンの方へ詰め寄りました。カチェリーナはレベジャートニコフに飛びかかりました。
「アンドレイ・セミョーヌイチ! わたしはあなたを誤解していました! どうぞあの娘の味方をしてやってください! あの娘の味方はあなたしかいないんです! あれはみなしごなんですよ! 神様があなたを遣わしてくださったのね! アンドレイ・セミョーヌイチ、あなたは命の恩人です、なんて親切な方!」
そう言いながらカチェリーナは、自分が何をしているのかもわからない様子で、いきなり彼の前に膝をつきました。
「世迷い言だ!」気が狂ったように猛り立ったルージンは、夢中でわめき立てました。
「君は世迷い言ばかり言っているんだ……『忘れた、思い出した、思い出した、忘れた』――一体何のことだ! してみると、僕がわざと紙幣を入れたとでも言うのか。」「いったい全体、何のためなんだ? どういう目的で? そもそも僕とこの女の間に、何の接点があるっていうんだ……」
「何のためか? つまり、それが僕にもわからないんです。ですが、僕が正真正銘の事実を話しているのは、もう確かなことなんです! だからこそ、あの時すぐにあなたに感謝して、手を握りながらも、この疑問が頭に浮かんだことを今でもはっきり覚えている。間違えるはずがないじゃありませんか。
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