初級翻訳・罪と罰 第17話

ドストエフスキー

しかし、いざ読み終えた時、その顔は蒼白に変わり、感情のたかぶりで顔の筋肉がひきつるほどだった。
そして唇には、重苦しく、いらいらした、意地悪な微笑みが蛇のようにうねっていた。
彼は古ぼけてぺしゃんこになった枕に顔を埋めて、じっと考えた。
長い間、考え続けた。
心臓は激しく波打ち、思いは千々に乱れ騒いだ。
とうとう彼は、戸棚か箱のようなこの黄色い小部屋が狭苦しくて、息が詰まりそうになってきた。
目も心も、広々とした場所を求めていた。
彼は帽子をつかむと、もう階段で誰かと顔を合わせる不安など気にも留めず、外へ飛び出した。
そんなことはすっかり忘れていたのだ。
彼はV通りを横切って、まるで急ぎの用事がある人のように、ワシーリエフスキイ島の方向へ足を向けた。
いつもの癖で、周りの景色など全く目に入らない様子で、何やらぶつぶつ独り言を言ったり、時には大声で叫んだりしながら歩いて行った。
その様子は、行き交う人々をひどく驚かせた。
多くの人は、彼を酔っ払いだと思った。

母の手紙は彼を苦しめた。
しかし、一番根本の重大な点に関しては、手紙を読んでいる最中から、一瞬たりとも疑惑や動揺を感じることはなかった。
事件の核心となる部分は、彼の頭の中で完全に決まっていた。
断固として、何の迷いもなく決まっていたのだ。
「おれが生きている限り、こんな結婚は絶対にさせない。ルージン氏なんてくそ食らえだ!」
「だって、事情は見え透いているじゃないか」と彼は薄笑いを漏らし、自分の決心の正しさに、今から意地悪く勝ち誇った気分でつぶやいた。
「だめですよ、お母さん、だめだ、ドゥーニャ。お前たちにこのおれが騙せると思っているのか!……そのくせ、おれの意見を聞かなかったことや、おれをのけ者にして勝手に決めてしまったことを、手紙で謝っているからなあ! そりゃそうだろうともさ! あの二人は、今さら取り返しがつかないと思っているようだが、本当にそうかどうか、見ものだな! なんと立派な言い訳だろう。『あの人は実務の人ですから――どうして、とても実際的な人ですから、駅の乗り継ぎ馬車の中か、あるいは運悪ければ汽車の中ででも結婚せねばならず、それよりほかに仕方がない』だとさ。いや、ドゥーネチカ、何もかも見え透いているぞ。お前がおれにたくさん話したいことがあるというのも、どういうことかおれにはよくわかっている。お前が夜通し部屋を歩き回って、何を一生懸命考えたか、お母さんの寝室にあるカザンの聖母のイコンの前で、一体何を祈ったか、おれは全部お見通しだ。そうさ、ゴルゴタへ上るのは苦しいことだろうよ。」ふむ……つまり、きっぱりと腹をくくったというわけだな……ええと、アヴドーチャ・ロマーノヴナ(ドゥーニャの本名)、実務家で思慮分別があり、自分の財産を持っている(「自分の財産を持っている」だなんて、こいつはなかなか重みがあって、ずいぶん人聞きがいい言い方だ)……二つのところに勤めていて、新しい世代の考え方にも理解がある(これはお母さんの言い草だ)……しかもドゥーニャ自身の観察によれば、善良らしい男のところへ嫁ぐんですね。
この「らしい」という言葉が、何よりも最高じゃないか! そしてあのドゥーネチカは、この「らしい」という男と結婚しようというのだ!……結構なことだ! 本当によくできた話だよ!
『……だが、なんだってお母さんは「新しい世代」のことなんか書いてよこしたんだろう? 単にその男の性格を描写するためか、あるいはもっとほかに目的があるのか? つまり、ルージン氏をよく見せかけて、おれを丸め込もうというのか? ああ、なんという策士たちなんだろう! それから、もう一つの事情も知っておきたいものだな――一体、母と娘の二人は、その日も、その晩も、それからずっと先まで、どの程度まで互いに腹を割って打ち明け合ったのだろう? 二人の間ではすべての言葉が、包み隠さず語られたのだろうか。それとも二人は、互いの心持ちや考えを察し合っていて、いちいち口に出してあれこれ言う必要がないどころか、言葉を漏らすのさえ無駄なくらいだったのか? 大方、そんなところだろう。
手紙を見れば一目瞭然だ。
お母さんは、あの男が少々とげとげしいように感じた。
ところが、お母さんは人がいいものだから、自分の観察を馬鹿正直にドゥーニャに話してしまった。
妹はもちろん腹を立てて、「いまいましそうに答えた」わけだ。
当たり前じゃないか! そんな馬鹿正直な問いかけをされなくても、相手の生地なんてわかり過ぎるほどわかっていて、今さら言うこともないというのに、誰だって癇癪を起こすだろうよ。
それからお母さんはなんてことを書いているんだ。
「ドゥーニャを可愛がっておくれ、ね、ロージャ。あの子はお前を自分自身よりもずっと愛しているのだから」だとさ。
息子のために娘を犠牲にすることを承知したから、自分でも内心ひそかに良心の呵責を感じているのだろうか。
「お前はわたしたちの希望です、わたしたちのすべてです!」だと、ああ、お母さん、なんてことを……!』憤怒の念が、ますます激しく彼の心の中で煮え立った。
もし今ここでルージン氏に出会ったら、彼はこの男を殺してしまったかもしれない! 『ふむ……もっとも、それだけは本当だ』旋風のように頭の中をぐるぐると駆け巡る考えを追いながら、彼はこう考え続けた。
『それだけは本当だ、「人間を知るには長い目で気をつけて見ねばなりません」……しかし、ルージン氏は見え透いている。
何よりも第一に、「事業家で、善良な人らしい」のだ――馬鹿にしてる、荷物を引き受けて、大きなトランクを自分の手で届けてくれるって! いやはや、全く善良でないとは言えないよな。
だが、あの二人、花嫁と母親は、百姓男を雇って、むしろを屋根にした荷馬車に乗って行くんだよ!(おれもそいつによく乗ったものだ!)なに、平気さ! たった九十キロだからな。
「そこから先はらくらく三等車で一気に飛んで行く」さ。
千キロの道中をな。
まあ、いい分別だ――何事も身分相応ということが肝心だからなあ。
だが、ルージン氏、あなたはどうしたもんですね? だってあれは君の花嫁じゃありませんか……それにまた、おふくろが年金を抵当に旅費を前借りしようとしているのを、ご存じないはずはないでしょう? もっとも、そいつはあなたがた共同の商取引きで、儲けも山分けなら、費用も半々というところですかな。
世間では、ご馳走は一緒でも煙草はめいめい持ちなんて言いますからね。
だが、ここでも実務家先生、二人を少々ごまかしているんだ――荷物の運賃は旅費よりも安くつくからな。
事によると、まるまるタダでいくのかもしれない。
どうして二人はそれがわからないんだろう。
あるいは、わざと気づかないふりをしているのかな? とにかく満足している、満足し切っているのだ! しかしこれはほんの序の口、本当の芝居はこれからなんだから、考えただけでもぞっとする! 実際この事件で肝心なのは――やつのしみったれでもなければ、欲張りでもない。
万事につけてそうした調子なんだ。だって、これが結婚した後のずっと先々までの様子なんだから、つまりこれは予言みたいなものだよ……。

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