初級翻訳・罪と罰 第165話

ドストエフスキー

今日すぐにでも! わたしは身よりのないやもめだもの、陛下ならきっと会ってくださる! 会ってもらえないとお前は思ってるの? おふざけじゃない、行ってみせる! 行ってみせるとも! これはなんだな、あの子がおとなしいからって、それを見込んで仕組んだんでしょう? お前はそれを当てにしたのね? ところがね、おまえさん、その代わりわたしの方がしぶといからね! 一泡ふかせてやるとも、お調べったら! お調べ、お調べ、さあお調べよう!」

カチェリーナは夢中になって、ルージンをソーニャの方へぐいぐいと引き寄せながら、こづき回しました。

「わたしは覚悟しております、責任を負いますとも……しかし、まあ気を静めてください、奥さん、気を静めて! あなたがきかない気性なことは、わかりすぎるほどわかりましたよ!……これは……これは……これはいったいどうしたもんでしょうな?」とルージンはまごまごして言いました。
「それは警察が立会いの上でなくちゃ……もっとも、今でも証人は多すぎるくらいですが……わたしはそのつもりでいますよ……しかし、いずれにしても男のわたしがやるのはやりにくいですよ……性の関係もありますし……もしアマリヤ・イヴァーノヴナにでも手を貸していただけば……もっとも、そんなやり方は普通しませんが……これはいったいどうしたものかな?」

「誰でもよござんす! 誰でもやりたい人は勝手に調べるがいい!」とカチェリーナは叫びました。
「ソーニャ、あいつらにポケットをひっくり返して見せておやり! ほら、ほら! 見るがいい、悪党! ほら、空じゃないか。ここにハンカチがあっただけで、ポケットは空だよ、わかったかい! 今度はもう一つの方だ、ほら、ほら! わかったかい! わかったかい!」

カチェリーナは裏返すどころの騒ぎではなく、両のポケットを一つ一つ外へ引っ張り出して見せました。
ところが、次の右側のポケットから、ふいに紙切れが一つ飛び出して、空中に放物線を描き、ルージンの足もとに落ちました。
一同はそれを見て、多くの人が「あっ!」と叫びました。
ルージンはかがみ込んで、二本指で紙切れを床からつまみ上げ、みんなに見えるように高く差し上げて、ひろげて見せました。
それは八つにたたんだ百ルーブリ紙幣でした。

「女泥棒め! さあ出て行け! 巡査、巡査を呼んで!」とアマリヤはわめき出しました。
「あいつらシベリアへ追っぱらってやらなくちゃ! 出てってちょうだい!」
叫ぶ声が四方八方から飛び始めました。
ラスコーリニコフはソーニャから目を離さず、時々ちらとルージンの方へ視線を転じながら、じっと押し黙っていました。
ソーニャは意識を失ったように、同じところに立ちつくしていました。
彼女はほとんど驚くのを通りこしていたのです。
と、ふいに紅がその顔にさっとみなぎりました。
彼女は一声叫び上げて、両手で顔をおおいました。

「いいえ、それはわたしじゃありません! わたしは、とった覚えはありません! わたしは知りません!」
彼女ははらわたのちぎれるような叫び声と共に、カチェリーナに身を投じました。
カチェリーナは彼女をひっ抱えて、我とわが胸でみんなから守ろうとするように、ひしとばかり抱きしめました。

「ソーニャ! ソーニャ! わたしはあなたが本当にしやしないってわかってるよ! ごらん、わたしはあなたがやってないって知ってるから!」
カチェリーナは(明らかな事実を無視して)、彼女を両手で子供のようにゆすぶっては、数かぎりなく接吻の雨を降らしながら、その手を探り求めて、食い入るようにむさぼり吸いながら、こう叫ぶのでした。

「お前がとるなんて! まあ、なんてばかな人たちだろう! ああ、なさけない! あなた方はばかだ、ばかです」と彼女は一同に向かって叫びました。
「そうです、あなた方はまだご存じないのだ――この娘がどんな娘か、どんな心を持っているか、ご存じないのだ! この子が盗みをする、この子が! それどころか、この子はね、もしあなた方が『いる』と言えば、かけがえのない着物を脱いで売り飛ばし、自分ははだしで歩いても、みんなあなた方に上げてしまいます。この娘はそんな子なんです! この子は黄色い鑑札(娼婦の証明書)だって受けました。」「あの子はね、自分の子供たちが飢え死にしそうだったから、わたしたちのために身を売ってくれたんですよ! ああ、天国にいるわたしの主人、ねえ、あなた! ああ、セミョーン、セミョーン! あなた、ごらんになって? ごらんになって? これがあなたの法事なんですよ! なんていうことだろう! この子を守ってやってください。一体あなた方は何をぼんやり立っているんです! ロジオン・ロマーヌイチ! あなたまでがなぜ肩を持ってくださらないんですの? あなたもやはり、あの子がやったと信じているんですか? お前さんたちはみんな、みんな、みんな、みんな、あの娘の小指一本の価値もありゃしない! 神さま! どうぞ守ってくださいまし!」

哀れな肺病やみで、みなしご同然のカチェリーナの嘆きは、その場にいる人々の胸を強く打ったようでした。
この苦痛にゆがんだ、骨と皮ばかりの肺病やみらしい顔、干からびて血の混じった唇、しゃがれた叫び声、子供の泣き声のようなすすり泣き、そして信頼の情に満ちた子供らしい、同時に絶望的な保護を願う哀願。それは誰が見ても、この不幸な女に同情せずにはいられないほど、いじらしく、切ないものでした。
少なくとも、ルージンはすぐに同情を見せました。

「奥さん! 奥さん!」と彼は諭すような調子で言いました。
「これは何もあなたに関係したことじゃありません! 誰もあなたに悪意があったとか、共謀していたなんて、そんなことをあえて思うような者はおりませんよ。まして、あなたが自分でポケットを裏返して、犯行が明らかになったのですからね。あなたが夢にも知らなかったことは明白です。もし仮に、貧困がソフィヤ・セミョーノヴナを駆り立てて、かかる行為をさせたものとすれば、わたしも同情を惜しむわけじゃありません。が、しかし、マドモアゼーユ、なぜあなたは自白しようとしなかったのです? 恥をかくのを恐れたんですか? 初犯だからですか? あるいは気が動転していたのかもしれませんね? それはもっともなことです、大きにもっともなことです……しかし、なんのためにこんな種類のことを断行したもんかなあ! 皆さん!」と彼は集まった人々に向かって言いました。

「皆さん! わたしはですね、いま個人的に侮辱まで受けたのではありますが、同情の意味でまあ許してあげてもかまいません。いいですか、マドモアゼーユ、今のこの恥を将来の教訓になさるがいい」と彼はソーニャに向かって言い添えました。「わたしもこれ以上追及しないことにして、水に流してしまいます。いよいよこれで打切り、もうたくさんだ!」

ルージンは横目でラスコーリニコフをちらと見ました。
二人の視線がぴたりと重なりました。
ラスコーリニコフの燃えるようなまなざしは、彼を焼き尽くさんばかりでした。
けれど一方、カチェリーナはもう、何も耳に入らない様子でした。彼女は狂ったようにソーニャを抱きしめて接吻していました。

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