初級翻訳・罪と罰 第205話

ドストエフスキー

「わかりました(もっとも、あまり無理をなさらない方がいいですよ。もしなんなら、口数をお聞きにならなくても結構ですから)。わたしには、今あなたが悩んでいる問題がわかります。道徳的な問題でしょう? 市民として、人間としての問題でしょう? なに、そんなものは唾でもひっかけておやりなさい。そんなものが、今のあなたに何の役に立つんです? へっへっへ! 結局のところ、あなたはまだ自分を立派な市民や人間だと思いたいからですか? それなら、最初から余計なことをしなければよかったんですよ。頼まれもしないことに手を出さなければよかったんです。……まあ、ピストルで自殺でもしますか。どうです、それもお嫌ですかね?」

「あなたは僕を追い払いたいばかりに、わざと僕をからかっているようですね……」

「どうもあなたは変人だな。……おっと、もう着きましたよ。どうぞ階段をお上がりください。ごらんなさい。あれがソフィヤ・セミョーノヴナの部屋の入り口です。ほらね、誰もいないでしょう! 本当になさらないんですか? じゃあ、カペルナウモフさんにでも聞いてごらんなさい。彼女はあの家にいつも鍵を預けているんですから。ああ、ちょうどあれがマダム・ド・カペルナウモフです。え? なんですって? (あの女は少し耳が遠いのでね)……出かけたんですって? どこへ? さあ、今こそ自分の耳で聞いたでしょう? 彼女は留守なんですよ。それどころか、夜遅くまで帰らないかもしれませんぜ。

じゃあ、今度はわたしの部屋へ行きましょうか。だって、わたしのところへも寄るとおっしゃったじゃありませんか? さあ、これがわたしの部屋です。レスリッヒ夫人は今、留守ですよ。あの女は年じゅう忙しそうにしていましてね。しかし、いい人ですよ、実際……。あなたにもう少し分別があれば、いい相談相手になったかもしれないんだがなあ。

さあ、そこでごらんください。わたしは事務机から五分利付きの債券を一枚出しますよ(こいつがまだこんなに残っているんですよ)。ところで、この一枚を今日、両替屋で現金にするんです。さあ、見ましたか? だが、もうこれ以上時間をつぶしている暇はない。事務机に鍵をかけて、部屋に鍵をかけて……と、我々はもう一度階段へ出たわけです。

ところで、なんなら辻馬車を雇いましょうよ。わたしは島へ行くんですよ。少しばかりドライブはいかがですかな? そこで、わたしはこの馬車を雇って、エラーギン島へ行きますが……え、なんですって? お嫌ですか? とうとう意地が張り切れなかったんですね? 少しばかりドライブしましょうよ、なんでもありませんよ。どうやら雨が降ってきそうですが、構いませんよ。幌をおろしますからな……」

スヴィドリガイロフは、すでに幌馬車の中に腰を下ろしていた。

ラスコーリニコフは、少なくともこの瞬間、自分の疑いが間違っていたと考えざるを得なかった。彼は一言も答えず、くるりと背を向けると、もと来た乾草広場の方へ向けて歩き出した。もし彼がこの時、途中でほんの一度でも振り返っていたら、スヴィドリガイロフが百歩も行かぬうちに御者に勘定を払って、歩道の上へ降りたのを見ることができたはずである。

だが、彼はもう何も見ることなく、街角を曲がってしまった。深い深い嫌悪の感情が、彼をスヴィドリガイロフからぐんぐんと引き離していったのである。

『ああ、どうして俺はあの野卑な悪党から、あの淫蕩な道楽者の卑劣漢から、たとえ一瞬たりとも何かを期待することができたのだろう?』と彼は心の中で叫んだ。

実際、ラスコーリニコフはあまりに性急に、あまりに軽率に判決を下したのである。スヴィドリガイロフを取り巻くすべての状況には、神秘とまでは言わなくても、少なくとも一種の風変わりな雰囲気を与える「何か」が存在していたのだから。とはいえ、こうしたさまざまな出来事の中でも、妹のことに関しては、ラスコーリニコフは「スヴィドリガイロフが彼女をそのまま放っておくはずがない」と、どうしても信じ切っていた。
しかし、こうして何度も何度も同じことを考えていると、もうあまりに苦しくて、耐えられなくなってくる!
いつもの癖で、一人になると、彼はものの二十歩も歩かないうちに、深い考え事の中に沈み込んでしまった。
橋の上へ上がると、彼は欄干のそばで立ち止まり、流れる水を眺め始めた。
その間に、妹のアヴドーチャ・ロマーノヴナが彼の後ろへやってきて立っていた。
彼は橋のたもとで妹とすれ違ったにもかかわらず、ろくに顔も見ようとせず、そのまま通り過ぎてしまったのである。
ドゥーネチカは、これまで一度もこんなふうに街中を歩いている兄を見たことがなかったので、びっくりして呆然としてしまった。
彼女は足を止めたが、声をかけるべきかどうか迷っていた。
その時、ふいに彼女は、乾草広場の方から急ぎ足で近づいてくるスヴィドリガイロフの姿に気づいた。
ただ、彼は様子をうかがいながら、そっと近寄ってくるようだった。
彼は橋には上がらず、ラスコーリニコフに見つからないよう必死に気を配りながら、少し離れた歩道の上に立ち止まった。
しかし、ドゥーニャにはずっと前から気づいていたようで、手で合図を始めた。
その合図は、「兄さんには声をかけないで、こちらへ来てほしい」と言っているように見えた。
ドゥーニャはその通りにした。
彼女は兄の背後をそっと回り込み、スヴィドリガイロフに近づいた。

「さあ、早く行きましょう」と、スヴィドリガイロフが彼女にささやいた。
「わたしはね、ロジオン・ロマーヌイチにこの会見を知られたくないんです。前もってお断りしておきますが、わたし達はついさっき、あそこの料理屋で一緒にいたんですよ。兄さんが自分でわたしを捜し出されたので、わたしはやっとのことで、今まいてきたところなんです。兄さんはどうしたわけか、わたしがあなたに差し上げた手紙のことをご存じで、何やら変に疑っておられるんです。もちろん、あなたが打ち明けたわけではないでしょう。でも、あなたでないとすると、いったい誰でしょう?」

「さあ、わたしたちはもう角を曲がりましたから」と、ドゥーニャは話を遮った。
「もう兄には見られません。ちゃんと申し上げておきますが、もうこれ以上はご一緒しません。ここですべておっしゃってください。そんなことは往来でだって言えるはずですもの」

「第一に、この話はとても往来でできるような内容ではありません。第二に、あなたはソフィヤ・セミョーノヴナの話も聞く必要があります。また第三には、いくつか書類をお見せしたいものがあるんです……それに、なんです、もしあなたがわたしの所へ来るのを嫌だと言われるなら、わたしも一切の説明をお断りして、すぐこのまま失礼することにしますよ。その際、お願いしておきますが、あなたにとって大切なお兄さんの、ごくごく重大な秘密が完全にわたしの手の内にあるということを、お忘れにならないように」

ドゥーニャは動揺して立ちすくみ、刺すような目でスヴィドリガイロフを見つめた。

「あなたは何を恐れているんです!」と、男は落ち着き払って注意を促した。「都会は田舎とは違いますよ。

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