初級翻訳・大宇宙遠征隊 第4話

大宇宙遠征隊

ニワトリの卵くらいの大きさから、アヒルの卵くらいの大きさになり、そこからグングン膨らんで、ダチョウの卵ほどの大きさになり、さらにまだまだ膨らんで……ついに、飛行機の卵くらいの大きさにまでなっていきました。

飛行機の卵だって? そんなものがこの世にあるでしょうか?
ああ、間違えました! 飛行機のお腹の下にぶら下がっている、50キログラムの大きな爆弾と言おうとしたのです。

ともかく、三郎が膨らませた風船は、三郎の顔よりも大きくなり、見事な大玉のスイカくらいの大きさになりました。そこで三郎は、ゴム風船の結び目をしっかりとしばると、手の上でポーンと突いてみました。

まん丸くて立派な風船は、フワ〜ッと上へ飛び上がり、天井にポンと当たると、今度はゆっくり上から落ちてきました。

ポーン、ポーン、ポーン。

風間三郎は、すっかり夢中になって風船を突いて遊んでいました。いま自分が大宇宙を飛んでいる最中だということさえ、すっかり忘れてしまっているようでした。

するとそのとき、突然、おかしなことが起こりました。

ポーンと押し上げた風船が、スーッと天井に向かって昇っていったかと思うと、そのまま天井にピタッと吸い付いたようになってしまい、いくら待っても下に落ちてこないのです。

(あれれ……? これはおかしいぞ)

その瞬間、三郎の自分の身体が急にフワリと軽くなり、くらりと軽いめまいがしました。

その次の瞬間でした!

ジリリリリン! ジリリリリン! ジリリリリン!

激しい警報のベルが、船内に鳴り響き出しました。

「重力装置に故障発生! 修理には5分間かかる見込み!」

ベルの音が鳴り止むと、続いてスピーカーから当直の操縦士のあせった声が聞こえてくるのでした。重力装置の故障だ!

前にもちょっと説明したけれど、宇宙へ行けば行くほど、重力(地面へと引っ張る力)はなくなっていきます。
このロケット船の中にいる乗組員たちは、重力がなくなってしまうと、勝手が違ってとても仕事がしにくくなってしまいます。
それでは困ってしまうので、わざわざ特別な機械を動かして、船の中だけに人工的な重力を作り出しているのでした。
今回は、その重力装置が故障してしまったという知らせなのです。
道理で、さっきのゴム風船が天井にくっついたまま、下に落ちてこないわけです。

(だけど、これは大変なことになったぞ!)

三郎は、急に忙しくなりました。
重力装置が故障すると、部屋の中にあるいろんな物が、勝手にひとり歩きを始めてしまうからです。
そして、とんでもない場所へふわふわ飛んでいってしまうので、少しも油断ができません。
三郎はイスから飛び降りて、サッと身構えました。
身構えたとは言っても、まるで大きなプールやお風呂の中で立ち泳ぎをしている時のように、自分のお尻がふわりと浮き上がってしまう、変な感覚でした。
三郎は両手でひざをつかんで、お相撲さんがはっけよいと構えるようにしゃがもうとしましたが、なぜかひざが妙に重く感じられました。
こんな時には、できるだけ体全体の力を抜くのが一番いいと、前に聞いたことがありました。
変なところに力を入れてしまうと、体が思いがけない方向へとゆらゆら泳ぐように飛んでいってしまい、止めようとしても止められなくなってしまうからです。

(早く5分間が過ぎますように。そして重力装置が、一刻も早く直りますように!)

と、三郎が心の中で必死に祈っていると、ちょうど目の前にあるコーヒー沸かしから、なんだか妙なものがニュルニュルと這い出してきたではありませんか!

「あっ、なんだろう、あれは……!?」

茶色の水あめ棒みたいな形をしたものが、コーヒー沸かしの注ぎ口から、にゅーっと横に伸びてきます。
それはお箸くらいの長さになり、そこからさらに伸びて、学校の先生が使う長いムチくらいの大きさにまで伸びていきました。

「おやおや、大変なことになったぞ。一体全体、あれは何なんだろう?」

そのうちに、その茶色っぽい棒は、空中をフラフラと泳ぐように、部屋の中をダンスするように動き始めました。しかも、どんどん長くなっていくのです。
三郎はすっかり腰を抜かすほど驚きましたが、この時になってようやく、あの怪しい棒は、重力を失ったコーヒーが外へ飛び出してきたものだと気づきました。
つまり、コーヒー沸かしの中では強い蒸気圧ができていて、その押し出す力によって、コーヒーの液体が注ぎ口から外へ押し出されたのです。
その勢いがついてしまったため、コーヒーは途切れることなく、どこまでも一本の長い棒のようになって吹き出し続けていたのでした。

「さっき鳥原さんから、重力がなくなった時の味噌汁の不思議な話を聞いていなかったら、ぼくは絶対に『コーヒーのお化けが出た!』と思ったに違いないぞ」

と、三郎はホッとため息をつきました。彼の額には、ねっとりと冷や汗がにじみ出ていました。

【艇長の安否】

重力装置が故障している間の5分間は、気の遠くなるほど長く感じられました。
三郎は、空中をのたうつようにウネウネ動き回るコーヒーの棒に触るまいと、部屋の中を必死で逃げ回っていました。
あのアツアツのコーヒーの棒に触れてしまったら、たちまち大ヤケドをしてしまいます!
コーヒーの棒は、周りに白い湯気をモクモクとまとわせながら、まるで見えない悪魔がいじわるをしているかのように、三郎を追い回してくるのでした。

「ああーっ、早く重力装置が直らないかなあ!」

三郎は、糸で吊るされたあやつり人形のように、身軽にフワリフワリと体をかわしました。
ですが、逃げようとしてうっかり力が入ってしまい、壁に顔面を思いっきり激突させてしまった時には、目から火花が出るほどの激痛を感じました。

すると突然、彼の耳におかしな音が飛び込んできました。

「ん? いまの音は何だろう?」と首をかしげるまでもありませんでした。
それは、扉をへだてた奥の部屋のベッドで眠っている、辻艇長の例の名物いびきだったからです。

「ああ、艇長はまだ、ぐっすり眠っておられるんだ!」

いつもなら、そばで聞いていると耳障りでかなりうるさいいびきでしたが、今日ばかりは、その力強いいびきが三郎の心を大いに元気づけてくれたのでした。

「あ、でも艇長は大丈夫なのかな?」

三郎は急に艇長の体のことが心配になったので、仕切りの扉のところまで泳ぐように進むと、ドアをバシバシと力いっぱい叩きました。

「艇長! 大丈夫ですか!? 何か異常はありませんか! 辻艇長ーっ!」

三郎は大声で叫びました。
しかし、扉の向こうから聞こえてくるのは、相変わらずほら貝をブォーッと吹き鳴らしているかのような、艇長の豪快ないびき声だけでした。

「艇長、艇長! 今、重力装置が止まっているんです! そっちの部屋に異常はありませんか!?」

ドンドンドン!
三郎はやけくそになって、夢中で扉を叩き続けました。

すると――

「あっ、う〜ん……」

艇長が、ウーンと大きく伸びをする声が聞こえてきました。

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