初級翻訳・孝太郎と悪太郎 第1話

孝太郎と悪太郎

あるところに、孝太郎(こうたろう)という人がいました。
家はものすごく貧乏でした。
ところが、そのお隣には悪太郎(わるたろう)という人が住んでいて、こちらは大金持ちでした。

孝太郎はそれはもう大変な親孝行者でした。家が貧しいうえに、お父さんは中風(ちゅうふう)という病気にかかり、お母さんは二、三年前からちょっと体の具合が悪いと言っていたのがすっかり重病になってしまい、もうどうしようもないほどでした。孝太郎はそんな両親を助けるため、朝は早くから起きてごはんを炊き、お茶を沸かし、山へしば(たきぎ)をとりに行ってはそれを売り、お母さんのお薬代にしていました。

かたや悪太郎はというと、とんでもない親不孝者でもう手がつけられないほどでした。おまけに勉強のほうはといえば、成績は「丙(へい)」や「丁(てい)」ばかり。テストの点はゼロ点、一点、二点、一番よくても三点というありさまで、これまでに三度も落第しているような人でした。

ある日のことです。孝太郎は「あぁ、今日はしばが一つも売れなかった。これじゃお母さんのお薬代にもひびいてしまう、困ったことだなぁ」と言いながら、とぼとぼと家へ帰るそのちょうどその時、向こうから辻占(つじうら=未来を占う紙くじ)を売り歩いてくる人がやって来ました。
孝太郎はふと思い立って、その辻占を買いました。
そのとき「ハッ」と気づきましたが、もう買ってしまったのでしかたがありません。
孝太郎は火をたいて、その紙をあぶってみました。
するとそこには「……事があります」と書いてありました。
孝太郎はその紙をきれいにたたんで、ていねいに胸のふところにしまい、「あれは『よい事があります』って書いてあったのかな、それとも『悪い事があります』ってことだったのかな」と、どきどきしながら家に帰りました。

あまりの疲れで、夜になるとうとうと眠ってしまいました。すると、ふと神さまの姿があらわれたのです。
そして神さまは、「お前のお母さんに言って、開かずの金庫の中を開けさせてみなさい。鍵をあげるよ」と言って、鍵を渡してくれました。
孝太郎はなにがなんだかさっぱりわからないままにお礼を言いましたが、ハッと顔を上げたときには、もう神さまの姿は消えていました。

孝太郎が目を覚まして、お母さんにその話をすると、お母さんは「パンっ」と手を打って、「孝太郎、ちょっと待っておいで」と言い、その鍵を受け取って押入れの中から一つの箱を取り出しました。
そのふたを開けると、中にはさらに鍵(かんぬき)がついていました。
それを開けると、今度は風呂敷包みが出てきました。
その結び目をほどくと、中にまた小さな箱がありました。
そこへ神さまにもらった鍵を差し込んで箱を開けると、中からキラキラ光る黄金の小判がいっぱい、ザロッと出てきたのです。

二人は大よろこびして、さっそくそのお金で立派な家や立派な蔵を建て、昔手放した田んぼや畑を買い戻して立派な生活を始めました。さらに、腕のいいお医者さんを呼んで、お父さんとお母さんの病気をすっかり治してもらいました。

これとは反対に、あの意地悪だった悪太郎の家はすっかり貧乏になってしまい、とうとう親子そろってどこかへ行ってしまったということです。人のうわさによると、悪太郎たちはついに物乞い(乞食)になってしまい、どこかでひもじさのあまり行き倒れて死んでしまったということです。

また、孝太郎はこんなにお金持ちになっても少しもいばったりせず、村の困った人を助ける慈善事業のために財産をなげうって尽くしました。そのため、みんなから大変尊敬され、ついにはその村の村長さんになり、立派に村を治めましたとさ。

めでたし、めでたし。
(一一・六・五)

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