初級翻訳・海からきた卵 第2話

塚原 健二郎

中は生温かくて、確かに丸くてすべすべしたものが指先に触れます。
「やあ、あるある」
ジムは、爺さんの前に小さな青い色の卵を三つ取り出しました。
それを見るとミル爺さんは、
「おやおや、きれいな卵だね、ジム。それをわしにくれないか。そうしたら、この蟹はみんなお前にやってもいい」と言いました。
爺さんは、この珍しい小鳥の卵を、せめてものお土産にしようと考えたのです。
「ああ、いいとも。じゃあ、この蟹はわしがもらったぜ」
ろくにお腹の足しにもならない小さな卵と、蟹を交換することに不満があるはずがありません。
ジムは大喜びで、二つの蟹を平らげてしまいました。
「これで、やっとお土産ができたよ」
ミル爺さんは嬉しそうに言って、その卵を大切にハンカチに包むと、上着のポケットにしまい込みました。

三

ミル爺さんとジムは、次の朝、運よく沖を通るイギリスの大きな汽船に救われました。
そして二週間後、丸二ヶ月ぶりに故郷の港へ帰ってきました。
ミル爺さんは家へ帰ると、さっそくテーブルの周りに三人の家族を呼んで、初めて見た日本のこと、そして難破してイギリス船に助けられたことを、涙を浮かべながら語りました。
「つまんないな。じゃあ、お爺さんのお土産はみんな海の中へ沈んでしまったんだね」
セルゲイはつまらなそうに言いました。
「そうだ、日本で買ったお土産はね。だけど、セルゲイや、お爺さんのお土産はちゃんとあるよ」
爺さんは笑いながらポケットに手を突っ込みました。
セルゲイは目をくるくるとさせて、一体お爺さんのポケットからは何が出るのだろうと見つめています。
すると爺さんは、ハンカチに包んだ例の卵を取り出しました。
「これさ。これがお爺さんのお土産さ」
「なんだ、卵か。つまんないな」
セルゲイはがっかりしたように言って、ころころとテーブルの上で卵を転がしています。
「ああ、これを割ってビスケットに塗って食べると、そりゃあ美味しいよ。わたしは子どものとき、市長さんのところのお誕生日に食べさせてもらったことがあったっけ」
お婆さんは、そばからセルゲイの心を引くように言いました。
「そうだ、婆さんや。早くお茶を入れてビスケットに塗っておやり」「そうだな」
と、おじいさんは言いました。
しかしミルおじいさんは、せっかく遠い国から大切に持ってきたものなので、今すぐ割ってしまうのはもったいないような気がしました。
「おばあさん、今回の航海の記念に、せめてこの卵の殻だけでも残しておきたいから、中身を上手に取り出しておくれ」
と、おじいさんは言いました。
するとセルゲイが、
「ぼく、とってもいいことを思いついたよ!」
と言いながら立ち上がり、戸棚からお皿を持ってきて、その上に卵をのせると、針を使って両はしに小さな穴をあけました。
そして、上の穴に口をあてて、ほっぺたをふくらませて「プーッ、プーッ」と息を吹き込みました。
中身はとろりと、だんだんお皿の上に流れ出てきました。
その様子を見て、ミルおじいさんもおばあさんも、お腹をかかえて大笑いしました。
セルゲイは、三つの卵がすっかり空っぽになると、そこに糸を通して、窓辺につるしました。
それは、言葉では言い表せないほど美しい窓飾りになりました。
お日さまの光があたるたびに、青い殻がキラキラと透き通って、宝石よりもずっとずっときれいに輝くのです。
「これはいい思いつきだ! こんな素敵な窓飾り、市長さんの家にだってあるもんじゃないぞ」
おじいさんは、子どものように手を叩いて大喜びしました。

四

ミルおじいさんは、それきり船に乗ることをやめました。
そして、よく窓のそばに立って、ぼんやりとこの珍しい窓飾りを眺めていました。
そんなとき、おじいさんの顔は、晴れやかで、いかにも幸せそうに輝いていました。
ある日、おじいさんはセルゲイにこんなことを言いました。
「セルゲイや、わしはこの飾りを見ていると、海の上で見たお星さまを思い出すんだよ。いつも北の空で光っていた、北極星のことをね。そうだ、おまえが大人になってから、どんなに素晴らしい贈り物をわしにしてくれたとしても、きっと、これにはかなわないだろうよ」

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