初級翻訳・セロ弾きのゴーシュ 第5話

セロ弾きのゴーシュ

ゴーシュはどんどん弾きました。猫が苦しがって火花を散らした場面も、扉に体を何度もぶつけた激しい場面も、すべて通り過ぎました。
曲が終わると、ゴーシュは観客の顔など見ようともせず、ちょうどあの猫のように素早くチェロを抱えて楽屋へ逃げ込みました。
すると楽屋では、楽長をはじめ仲間たちが、まるで火事のあとのような、静まり返った顔で座り込んでいました。
ゴーシュは「もうどうにでもなれ」という気持ちでみんなの間をすたすたと歩いていくと、向こうの長椅子にどっかりと腰を下ろして足を組みました。
するとみんなが一斉にこちらを向いてゴーシュを見ましたが、やはりみんな真剣な表情で、別に笑っているわけでもありませんでした。
「今夜は変な晩だなあ」
ゴーシュはそう思いました。
すると楽長が立ち上がって言いました。
「ゴーシュ君、よかったぞ。あんな曲だったけれども、ここではみんな、かなり本気になって聞いていたぞ」「この一週間か十日のあいだに、ずいぶん立派に仕上げたじゃないか。十日前の君と比べたら、まるで赤ん坊と兵隊くらいの違いがあるぞ。やろうと思えば、いつでもやれたんじゃないか、君」

仲間たちもみんな立ち上がってやってきて、「よかったぜ!」とゴーシュに声をかけました。

「いやあ、体が丈夫だからこんな無理もできるのさ。普通の人なら、死んでしまっているところだよ」

楽長が向こうのほうでそう言っているのが聞こえました。その晩、遅くなってからゴーシュは自分の家に帰ってきました。そしてまた、水をがぶがぶと飲みました。それから窓を開けて、いつかカッコウが飛んで行ったあの遠い空を眺めながら、こうつぶやきました。

「ああ、カッコウ。あのときは本当にすまなかったな。おれは、お前を怒っていたわけじゃなかったんだ」

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