妹
中野鈴子
妹は出かけて行った。
一か月に一回の面会を、三か月も先からのばしにして、やっと出かけて行った。
タンスの底のほうで、ちょっとしめっぽくなっている着物をひっぱり出し、
左右ちぐはぐな、かたちの違う足袋をはいて――。
妹は、モチ米を一斗もかかえて出かけて行った。
そのお米を別のものに代えて、電車の切符代をつくるためだった。
駅のホーム、汽車の中、歩いていく道にも、ヤミ米をとりしまる警察官が立っている。
妹は、
一斗のお米を二つの包みにわけ、軽い風呂敷包みに見せかけて、上品なおくさん風を装って駅から降り立った。
ちょうど今降りたばかりの乗客に、群がるように警察官が飛びかかっていた。
警察官は妹にも飛びついた。警察官につれられて、
書類に親指のハンコを押し、妹はモチ米一斗をぜんぶとりあげられてしまった。
彼女はめまいがするような思いで、フラフラと建物の外へ出た。
電車をのりかえ、
妹は、
刑務所の重い門をくぐり抜けた。
面会室では、夫がほほえみながら立っていた。
彼女はふるえる唇をぐっとおさえ、顔を上げて夫を見た。
百日ぶりに見る夫の顔は、むくんで青白く、目もうつろにかすんでいるように見えた。
それなのに、
その青白くむくんだ顔で、夫は笑っている。
夫は言った。
「電車の切符代はできたのか?」
「お米はたくさんとれたか?」
彼女はなんとか笑おうとした。
夫は笑っている。青白い顔で。
青白くむくんだ顔で、まるで風船玉をふくらませたように、
高い壁の中にたった一人でいる。
つかまってから三度目の冬をむかえようとしている。
張りめぐらされた、鉄のとりでの中に、
夫は笑っている。
どんよりとした目を、まるで輝かせるかのように――。
稲を刈り、稲を敷き、
もみをすり、
百日ものあいだ同じ服を着たまま眠り、
あかぎれやヒビで、指の爪は割れ、
わずかしか実らなかったモチ米を、売るために育て、
それを売って電車の切符代をつくろうとし、
百日という日を待ちわびながら働き続け、
お正月のモチ米を減らしてでも、
それで子どものシャツや靴下や、
アメ玉の一つでも買ってやろうと、
夏の頃からずっと、
百日目を待ちながら働き続けてきたのに――。
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