初級翻訳・騎士と姫 第1話

末吉 安持

春の三月の夜は、ほのかに空と地が低く重なり合っています。あたり一面に漂う情愛の香りは、おぼろげな花曇りの夜に溶け込んでいました。お寺の壁に描かれた地獄絵さえも、今は温かい霞に包まれているようです。

森の木立に差し込む月影を避け、深くかぶった黒鉄の兜。その下から覗く色白の顔は凛々しく、瑠璃色の瞳は清らかで、花草をかき分けながらひっそりと進む騎士が一人。

「黄昏時の戦いで、十人の敵を倒した。胸に差した二輪の赤い薔薇は、色濃く鮮やかなままで散ることもない。西の丘にある敵の陣地を指し示し、悠然と振り返る敵の城よ」

その時でした。矢が一本、空を鳴らしながら飛んできて、騎士の鎧の袖に触れて落ちました。赤い塗りの矢の根元には、誰のいたずらか、憎らしい手紙が結び付けられています。

『貪欲な者よ、この穢れた世を憐れみたまえ、将軍よ。少女の胸に宿る情愛に比べれば、国土も山河も取るに足らぬもの』

それだけを読むと、手元の小さな灯火がやけに眩しく感じられました。まだ経験したことのない、酔ったような心地。これは夢ではないかと思い立ち上がれば、壁に掛けてあった自分の盾に、思いがけず敵方の王の一人娘の姿が映り込んでいます。乱れた髪を直すその姿に、うつつを抜かすまいと盾を投げつければ、盾は音を立てて砕け散りました。

二枚目の盾を手に取って見ると、なんと不思議なことでしょう。そこにも、先ほどと同じ姫の姿が映っています。姫は浮足立って、まるで私の前に身を投げるかのように、よろよろとすがりついて泣いているのです。

「ああ、いいだろう。ならば天地も、情愛に満ちた春の夜の花曇りの中に溶け去って、すべてが一つに溶け合う海となれ。愛の御堂の中で、姫の手によって、今こそ楽しい罪を犯そう」

城の堀に続く切り立った崖も、夢見心地のまま通り過ぎてきました。目を凝らせば、木々の陰からさらさらと衣が擦れる音が聞こえます。姫はまるで荒磯の藻にすがるコオロギのように、私にすがりついてきました。花の木々の間では、ウグイスが夢のようなこの世を歌っています。

蜜のように柔らかく、甘美な二人の口づけ。ああ、敵同士であったはずの二人は、天の理と歴史の重みさえも無にしてしまったのです。

「歴史の書物に座す神々よ、もしおられるのなら、なぜこの戦いが始まる前に、憎しみ合う敵軍の中に、これほど不思議な力を持つ姫がいると教えてくれなかったのですか」

「許してください、父である王よ。あなたの大切な子供である私の魂の花が、こうして咲き誇る功徳のために。明日からの戦いでは、あなたの馬の蹄が、十の国の土を余すところなく踏みしめることでしょう」

「王よ、天の下すべてをあなたに与えましょう。あなたの野心が満たされるままに、血に飢えた矛先を、十の国の城、百の国の民の頭へと向け、優しく口づけをさせて、すべてを統治してください」

「たとえ国の王ではなくとも、このような雄々しい恋人こそが真の人。ああ、今は私も、真の人の妻なのです」

二人を巡るそよ風は、百千の花の香りを運んで吹き抜けていきました。

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