あのぶるぶると唸っている音は、何だろう……」そう思ってふと見ると、すぐ傍の壁に小さなガラス張りの窓がありました。龍介は体をすり寄せてその窓を覗き込みました。
「あっ!」覗いた龍介は驚きの声を上げました。
「こりゃ飛行機の中だぞ……」なるほど、窓から見ると、遥か遥か下の方に光る海が見えていたのです。
「ぶるるる」という音は、龍介を乗せた飛行機のプロペラの音でした。
「畜生、飛行機などに乗せやがって。一体僕をどこへ連れて行くつもりだ」
そう言いながらなおも窓から覗いていると、飛行機から何かが黒い塊として落とされました。
見ていると、その黒い塊は海に浮かんでいる軍艦の傍へ落ち、白い水しぶきを上げながら爆発しました。
「やっ! 爆弾だな!」叫ぶ間もなく、飛行機は次々と爆弾を投下し始めたのです。すると、海の上では軍艦がモクモクと黒煙を吐き出しながら動き出したかと思うと、砲塔からパッと火花がほとばしり、高射砲が火を噴きました。
「やれ! やれ! やれ!」
龍介は思わず歓声を上げながら、高射砲を撃っている軍艦に向かって心の中で万歳を叫びました。
その時です。飛行機はどこかに弾丸を受けたのか、ガクンと大きくあおられたかと思うやいなや、機首を下に向けて、まるで石つぶてのように真っ逆さまに落下し始めました。
「あっ、墜落だ!」
龍介は叫びながら、必死になって縄を切ろうともがき苦しみました。
横須賀の上空に突然現れて爆弾を落とした灰色の怪飛行艇は、駆逐艦の高射砲に撃ち抜かれ、ついに海中深くへと墜落していったのです。
骸骨島とは
自動車のうしろに飛びついて川崎の海岸近く、赤煉瓦造りの悪漢の巣窟へ乗り込み、惜しくも悪漢たちのとりこになってしまった壮太はどうなったのでしょうか。
頭を拳銃の柄で殴られて一時気絶していた壮太は、間もなく息を吹き返しました。
目を開けると、自分は真っ暗な倉庫の中に放り出されています。
「残念だ、やられちまったのか……」
そう言いながら、殴られてズキズキと痛む頭をさすりながら立ち上がりました。
そこは煉瓦造りのだだっ広い部屋で、鼻をつままれても分からないくらい真っ暗です。
出口はないかと手探りで探していると、どこからともなく話し声が聞こえてくるではありませんか。壮太は声のする方へ忍び寄り、耳を澄ませました。
「じゃあ、骸骨島へ引き上げるんでやすね?」
という低い声が聞こえます。
壮太が壁にぴったりと耳を寄せると、こう続きました。
「そうだ。C・C・D潜水艦もぶん取ったし、春田龍介という小僧も生け捕りにした。いよいよ骸骨島へ引き上げて、潜水艦は外国の海軍に売り渡し、龍介の小僧はヤンセンの仇を討つために、島の底へ生埋めにしてやるんだ!」
聞いている壮太は、驚きのあまり思わず叫び声を上げそうになりました。
奴らの話では、博士が発明した潜水艦は奪われ、龍介まで捕まってしまったようです。
「えへへへ、そいつぁ面白いでしょうね。ところで骸骨島ってやつは、一体どこにある島なんで?」
骸骨島! 悪漢たちがC・C・D潜水艦を盗み、龍介を生埋めにしようとしているその島はどこにあるのか? 壮太は息を殺して耳を澄ませました。
「うん、その骸骨島というのはな、それ、この地図のここに赤い線が引いてあるだろう。ここにあるんだ!」
「へえ――ですが、ここには何も書いてありませんぜ」
「そうさ、骸骨島というのは……」
言いかけたその時、壮太があまりに夢中になって体を押しつけていたので、扉が「ギイッ」と鳴りました。
「誰だ! 誰だ、そこにいるのは!」
叫ぶ声とともに、悪漢が立ち上がる気配がします。しまった、と思った壮太は、扉の陰に身を寄せました。
とたんに三人の荒くれ男が扉を押し開けて雪崩れ込んできました。
明るい部屋から急に真っ暗な場所へ来たため、彼らの目がくらんでいる隙を見て、壮太はヒラリと身を翻しました。隣の部屋へ飛び込むと、仕切りの扉をピタリと閉ざします。
見ると、机の上に一枚の地図が置いてありました。
「これだ! これさえあれば龍介さんを助けられるぞ!」
叫んでその地図を掴むや否や、廊下へ出る扉の方へ突進しました。
と、そこへ扉を開けて入ってきた悪漢が、後ろから壮太に飛びかかってきました。
「畜生め、今度は負けやしねえぞ!」
怒鳴りつけた壮太は、飛びかかってきた奴を腰車で放り投げると、傍らにあった椅子を掴んで電灯へ叩きつけました。
パッと消える電灯。
暗闇の中で「あっ!」という叫び声と、激しく物が壊れる音が響き渡ります。
それから間もなく、黒い人影が川崎の町の方へ向かって、ひた走りに走っていました。
文子、拐(かどわか)される
さて、文子はどうしていたでしょうか。
壮太が龍介と混血児のあとを追っていったきり帰らないので、心配しながら、今か今かと壮太からの知らせを待っていました。
父は横須賀へ潜水艦の試運転に出かけていて留守。屋敷には書生と女中と文子だけが残っていました。
「龍兄さんはどうしたのかしら。拳骨壮太はどうしたのかしら?」
考え事をしながら文子がお茶を飲んでいると、裏通りで鈴の音を高く鳴らしながら号外売りがやってきました。
「ああ、号外! 号外! 横須賀の上空に怪飛行艇現る! 爆弾を投下して潜水艦を沈めた! さあ大変だ、大変だ!」
横須賀――潜水艦――そう聞いて文子は思わず立ち上がりました。
そこへ書生が号外を買って飛び込んできました。
「お嬢様、大変です! 先生が……!」
「お父様がどうしたの!」
「これを読んでごらんなさい!」
差し出された号外には、こう書かれていました。
【怪飛行艇現る】
今日正午頃、横須賀沖において春田博士発明の潜水艦を試験中、不思議なことに潜水艦は海中にて行方不明となった。
折も折、一台の国籍不明の怪飛行艇が出現して爆弾を投下し、我が駆逐艦もこれに応戦して、ついに怪飛行艇を撃ち落とした。
これを機会に、いよいよ我が日本は、某敵国と戦火を交えることとなろう。「まあ! ではお父様までが……」
「とにかく警視庁へでも、電話をおかけいたしましょう、お嬢様!」
書生もパニック状態で、あわてながら電話室へ駆け込みました。
その時です。電話のベルが激しく鳴り響き、横須賀から電話がかかってきました。
文子が出ると、相手は鎮守府だと名乗り、今まさに潜水艦が発見され、博士は救助されたので、すぐに文子に自動車で駆けつけてほしいとのことでした。
「まあ、有難いわ!」
文子は思わず飛び上がって叫びました。
「お父様、助かったのよ。自動車を呼んでちょうだい、私これからすぐ横須賀へ行くから!」
書生は、何が何だかさっぱり分からないといった様子で、まごまごしながら自動車を呼びました。
「じゃあね、壮太が帰ってきたら横須賀へ来るように伝えておいて。いい?」
そう言い残すと、文子は迎えに来た自動車に乗り込み、横須賀へと向かいました。
――果たして、本当に博士は救助されたのでしょうか。
海狼(かいろう)の怪
飛行艇と共に海中深く墜落した龍介は、しばらくの間、無我夢中でした。
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