するとお父さんは、足元にいるエイミーの髪を優しくなでながら言いました。
「エイミーは、食事のときにいつもと違って、自分が一番好きな場所ではなくて鳥の足の肉を選んだね。それにお昼からはお使いに行ってくれたし、我慢強くみんなのお世話をしてくれた。おしゃればかりすることもなくなり、指にはめているきれいな指輪のことも自慢しなかったね。これだけでお父さんにはよく分かるよ。エイミーが自分のことばかりではなく、周りのみんなのことを第一に考えられるようになったんだね。本当に嬉しいよ」
お父さんのお話が終わると、ジョーがベスに向かって尋ねました。
「ベス、あなたは何を考えているの?」
「私ね、今日『天路(てんろ)歴程』の本の中で、クリスチャンとホープフルという旅人が、たくさんの苦しい冒険を乗り越えたあとに、一年中ユリの花が咲き乱れる美しい緑の野原にたどり着くところを読んだの。そこで二人は、ちょうど今の私たちみたいに、次の目的地に向けて出発する前に、楽しくひと休みするのよ」ベスはそう言って、お父さんのそばを離れてピアノの前へと歩いていきました。
「お歌の時間にしましょう。お父さんが大好きだった、巡礼が耳にした『羊飼いの少年の歌』よ。私、これに曲をつけたの」
そう言って、ベスは静かにピアノを弾き始めました。もう二度と聴けないかもしれないとみんなが心配していたあの美しい歌声で、ベスにぴったりの、どこか懐かしい讃美歌(さんびか)を歌い上げたのです。
へりくだる心を持つ者は 何も恐れることはない
低い立場にある者は おごり高ぶることもない
貧しくとも心が澄んだ者は
いつでも神様に導かれ 愛されるでしょう
私は今持っているもので 十分に満ち足りています
それが多くても 少なくても
『これで十分、ありがとう』と満足する心こそ
神様が一番喜んでくださるものです
たとえ背負う荷物が 肩に重くのしかかろうとも
私たちは巡礼の旅を 一歩ずつ続けていきましょう
この世界での幸せが たとえ少なく見えたとしても
最後にはきっと 天からの素晴らしい祝福に満たされるのですから次の日、お母さんと娘たちは、まるで働きバチが女王バチを囲むように、お父さんのまわりに集まりました。お父さんはベスの隣にある大きな椅子にゆったりと座り、みんなから至れり尽くせりのお世話を受けていました。
ただ一人、メグだけはなんだか様子が変でした。そわそわして落ち着きがなかったり、かと思えば、急に気が抜けたようにぼんやりしたりしていたのです。
午後のこと、窓辺にいるメグを見つけたローリーが、雪の上に片ひざをつきました。そして、大げさに胸を叩いたり、髪をかきむしったりしながら、まるでお祈りでもするように両手を合わせて、必死にお願いをするポーズをとってみせました。
メグが「そんなバカなまねはやめて!」と言うと、ローリーはハンカチでうそ泣きをするふりをして去っていきました。
「あのおバカさん、いったい何のつもりかしら?」とメグがあきれると、ジョーがクスクス笑いながら言いました。
「あなたのジョンさんが、あんなふうになるっていう実演をしてくれたのよ。かわいそうでしょ?」
メグは顔をしかめて、「私を困らせないで。今まで通り、みんなで仲良く遊んでいればいいじゃない」と言いました。するとジョーはこう返しました。
「そうはいかないわよ。お母さんも私も気づいているけれど、お姉さんはもう、前のお姉さんじゃないみたい。なんだか遠いところへ行ってしまったみたいなんだもの。私はお姉さんみたいにハッキリしないのは嫌い。だから、その気があるならさっさときめちゃうことね」
「私のほうから言い出せるわけないでしょ。それに、お父さんがあの方に『メグはまだ若すぎる』っておっしゃったんだから、あの方だって言い出せないはずだわ」
ジョーは、メグが押しに弱いことを心配して言いました。
「あの人に告白されたら、お姉さんはなんて言えばいいか分からなくなって、泣き出したり顔を真っ赤にしたりして、結局『ノー』と言えずに、あの人の思い通りになっちゃうのよ」
するとメグは、「あなたの思っているほど、私はバカでも弱虫でもないわ。私にだって、言うべきことはちゃんと言えるんだから!」と言い返しました。
それから、恋のお話をいろいろしたあと、メグはもし告白されたらこう言うつもりだと話しました。
「私はすっかり落ち着いて、こう言うわ。『ありがとうございます、ブルックさん。でも、私はまだ若すぎますので、今のところ婚約なんてできません。父も同じ考えです。ですから、どうかこれ以上は何もおっしゃらず、今まで通りお友達としてお付き合いくださいませ』ってね」
「ふーん、本当にそんなこと言えるかしら? あの人の気持ちを傷つけるのが怖くなって、きっと負けちゃうわよ」
「いいえ、負けたりしないわ! つんとすました顔で部屋を出ていってやるんだから」
そのとき、誰かがドアを叩きました。開けてみると、そこに立っていたのはジョンでした。
「こんにちは。忘れ物の傘を取りに来ました。それから、その、お父さんの具合は今日はいかがかなと思いまして……」
ジョンは、メグとジョーの意味深な顔を見て、少しあわてた様子で言いました。
「お父さんはとっても元気ですよ! 今、傘立てにいますから連れてきますね。あ、それから、あなたがいらしたこともお父さんに知らせてきます!」
ジョーは、傘とお父さんをごちゃ混ぜにしたおかしな返事をしながら、メグにさっきのセリフを言わせて、つんと部屋を出ていかせるチャンスを作ろうと、自分だけさっさと部屋を出ていきました。
ジョーの姿が見えなくなると、メグはすぐに言いました。
「お母さんがお会いしたがっていますわ。どうぞお座りください。すぐに呼んできますから」
するとジョンはメグに向かって、「そんなに逃げなくてもいいじゃないですか。僕のことが怖いのですか?」と言いました。ジョンがひどく傷ついたような顔をしたので、メグはびっくりして答えました。
「お父さんにあんなに親切にしてくださったのに、怖がるわけないわ。どうやってお礼をしたらいいか、ずっと考えているくらいですもの」
「どうすればお礼になるか、教えてあげましょうか?」
ジョンはメグの手をぎゅっと握りしめ、あふれるほどの愛情を込めて見つめました。メグは「いいえ、いいえ、どうか言わないで!」と、やっぱり怖くなって手を引っ込めようとしました。
「困らせるつもりはありません。ただ、少しでも僕のことを好きになってくれる可能性があるか知りたいだけなんです。僕は心からあなたを愛しています」
さあ、今こそ落ち着いて、あの練習したセリフを言うときです! ところが、メグは全部忘れてしまいました。ただうつむいて、「分かりませんわ……」と答えるのが精一杯。その声があまりに小さかったので、ジョンは聞き取ろうとして、メグのほうへ身をかがめなければなりませんでした。
するとジョンは、少しぐらい困らせてもいいと思ったのか、満足そうに言いました。
「僕のこの想いが、いつか報われるのかどうかを知りたいのです。
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