初級翻訳・青い紐 第3話

田中 貢太郎

ここへ何をしに来たんだ」
哲郎は、女に連れられて階下の人に知られないようにこっそり来たことを思い出しました。彼はこうなれば、女に事情を説明してもらうほかに手立てはないと考えました。彼は起き上がってあたりを見回しましたが、女の姿はありませんでした。

「ここにいる女の方と一緒に来たのですが、どこへ行ったのでしょうか?」
「ここにいるって、ここには誰もいないよ。誰にも貸していないんだから」
「おかしいな。僕はそこの蕎麦屋の前で一緒になってここまで来て、棚にお酒があると言うから女が取ろうとしたけれど、棚が高くて届かないから僕が取ってあげようとしたんだ。そのとき、女が寄りかかってくる拍子に、天井から下がっていた青い紐が首にかかって、それっきり意識がなくなったのですが……」

哲郎は棚の方を見ました。紐などどこにもなく、古くて煤けた棚には何も見当たりませんでした。

「わかった、よし、いいから。まあ、下へおいで。あんたに話がある」
それは、頬から顎にかけて胡麻塩混じりの髭が生えた、労働者のような男でした。哲郎には状況が理解できませんでしたが、腑に落ちないことだらけだったので、とにかく詳しい話を聞こうと思い、そばにあるコートを持って、前を行く二人の男の後について階下へ降りました。

胡麻塩髭の男はこの家の主で、もう一人は隣家の男でした。主は火の消えた長火鉢のそばで、小さな声で言いました。

「五、六年前に、バーの女給をしていた女が、なんらかの男関係で、あそこで死んだそうですよ。私たちは一昨年引っ越してきたばかりで何も見ていませんが、ここは変なことがあると言われていて、貸しても貸しても、三ヶ月と住み続ける人がいないのですよ」

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