お前たちの言う『かまいたち』っていうのは、サイクルホールの小さいやつだよ」
「ほ、おら、かまいたちに足切られたぞ!」
嘉助が叫びました。
「何だって? 足を切られた? 本当かい。どれ、足を出してごらん」
又三郎は、ずいぶん嫌そうな顔をしてそう言いました。嘉助は真っ赤になりながら足を出しました。又三郎はしばらくそれをじっと見てから、
「ふうん」
と、医者のような口調で言いました。そして、
「ちょっと脈を見せなさい」
と言うのでした。嘉助は右手を出しましたが、その時の又三郎のあまりに真面目くさった顔ときたら、一郎はとうとうこらえきれずに吹き出してしまいました。
けれども又三郎は知らんぷりをして、黙ったまま嘉助の脈を測り、それから言いました。
「なるほどね。お前なら、ことによったら足を切られるかもしれない。この子はね、体の皮膚がとても薄いんだよ。そのうえ、むやみに心臓が強い。腕を少し吸っただけで血が滲むくらいなんだ。特にその時、足をすりむきでもしていたんだろう。かまいたちで切れるさ」
「何をして切れるんだ?」一郎が尋ねました。
「それはね、すりむいたところから、もう血がにじみ出るばかりになっていただろう。それを空気が押さえていたんだ。ところが、かまいたちの真ん中では、空気がそれほど押さないだろう。いきなりそんな足をかまいたちの真ん中に入れると、すぐ血が出るさ」
「切るんじゃないのか?」一郎が尋ねました。
「切るんじゃないさ、血が出るだけさ。痛くなかっただろう?」又三郎は嘉助に聞きました。
「痛くなかった」嘉助はまだ顔を赤くしながら笑いました。
「ふん、そうだろう。痛いはずはないんだ。切れたんじゃないからね。そんな小さなサイクルホールなら、僕たちたった一人でもできる。くるくる回って走ればいいからね。そうすれば木の葉や何かがマントに絡まって、ちょうどいい具合にかまいたちになるんだ。ところが、大きなサイクルホールはとても一人じゃできやしない。小さいのなら十人くらい。大きなやつなら、大人が入って千人だってあるんだよ。やる時はだいたい二通りあるよ。日がカンカンとどこか一箇所に照りつける時か、また僕たちが上と下で反対に風をかける時、ぶつかってしまうことがあるんだ。そんな時とまあ、二通りに決まっているねえ。あんまり大きいやつは、僕もよく知らないんだ。南の方の海から起きて、だんだんこっちにやってくる時、少し僕たちが入るだけなんだ。ふうと駆けて行って十遍ばかり回ったと思うと、もうずっと上の方へ登っていって、みんなゆっくり歩きながら笑っているんだ。そんな大きいやつへうまく入ると、九州からこっちの方までいっぺんに来ることもできるんだ。けれどもまあ、たいていは途中で高いところへ行っちまうね。だから大きいのなんか、あんまり面白くはないんだ。十人くらいでやる時は一番愉快だよ。甲州ではじめた時なんかね。はじめ僕が八ヶ岳の麓の野原で休んでいただろう。曇った日でねえ、すると向こうの低い野原だけ不思議に一日中日が照って、ちらちらとかげろうが立っていたんだ。それでも僕はまあ休んでいた。そして夕方になったんだ。するとあちこちから、『おい、サイクルホールをやろうじゃないか。どうもやらなきゃいけないようだぞ』ってみんなの言うのが聞こえたんだ。『やろう』僕は立ち上がって叫んだねえ。『やろう』『やろう』と声があっちこっちから聞こえたね。『いいかい、じゃ行くよ』僕はその平地をめがけてピーッと飛んで行った。するといつでもそうなんだが、真っすぐに平地には行かされないんだ。急げば急ぐほど右へ曲がるよ。もっとも、それでサイクルホールになるんだよ。さあ、みんなが続いたらしいんだ。僕はもうまるで、汽車よりも速くなっていた。下に富士川の白い帯を見て駆け抜けて行った。けれども間もなく、僕はずっと高いところに登って、静かに歩いていたねえ。サイクルホールはだんだん向こうへ移って行って、みんなもだんだん入っていって、ずいぶん大きな音を立てながら東京の方へ行ったんだ。きっと東京でもいろいろ面白いことをやったねえ。それから海へ行ったろう。海へ行って今度は竜巻をやったに違いないんだ。竜巻はねえ、ずいぶん凄いよ。海の中には僕も入ったことはないんだけれど、小さいのを沼でやったことがあるよ。ちょうどお前たちのところで言う『維新』の少し前ね、日詰の近くに源五沼という沼があったんだ。そのすぐ隣の草むらで、僕らは五人でサイクルホールをやった。ぐるぐるとひどく回っていたら、まるで木も折れるくらい激しくなってしまった。ちょうど雨も降りそうなところだった。一人の僕の友達がね、沼を通る時、とうとう勢いで水をすくい上げちゃったんだ。さあ、僕らはもう黒雲の中に突き入って回って駆けたねえ。水がちょうど漏斗の尻尾のようになってくるんだ。下から見たら本当に怖かったろう。『ああ竜だ、竜だ』みんなは叫んだよ。実際、下から見たらさっきの水はギラギラ白く光って黒雲の中に入って、竜の尻尾のように見えたかもしれない。その時、友達が回るのをやめたもんだから、水はざあっと一ぺんに日詰の町に落ちかかったんだ。その時は僕はもう回るのをやめて、少し下に降りて見ていたがね、さっきの水の中にいた鮒やナマズが、バラバラと往来や屋根に降っていたんだ。」みんなは外へ出てきて、恭しくぼくたちの方を拝んだり、空から降ってきた魚を頭に乗せたりしてありがたがっていたよ。
ぼくたちは竜じゃないんだけれど、拝まれるとやっぱりうれしいから、友達同士でにこにこ笑いながら、ゆっくりゆっくり北の方へ走っていったんだ。
まったく、サイクルホール(つむじ風)ってやつは面白いよ。
それから「逆サイクルホール」というのもあるんだ。これは高いところから、さっきとは逆に回って降りてくることなんだ。この時なら、そんなに急ぐこともない。冬になると、ぼくたちはたいていシベリアへ行ってそれをやったり、そこからこっちへ走ってきたりするんだ。ぼくたちがこれをやっている間は、空がよく晴れるんだよ。
冬だと、喉を痛めるような乾燥した風が吹くことがよくあるね。でも、それはぼくたちの知ったことじゃない。
それから五月か六月には、南の方では、たいてい中国の揚子江の平野で大きなサイクルホールが発生するんだ。その時ちょうど北のタスカロラ海溝の上では、別に大きな逆サイクルホールが起きている。両方がだんだんぶつかると、そこが「梅雨(つゆ)」になるんだよ。日本はちょうどその通り道にあたるから、もう仕方がないや。でも、お前たちの住んでいるところは、割合と北から西へ外れているから、梅雨らしいことはあんまりないだろうね。
あんまりサイクルホールの話をしたから、なんだか頭がぐるぐるしちゃった。もうさよなら。ぼくはどこへも行かないんだけれど、少し眠りたいんだ。さよなら。」
又三郎のマントがぎらっと光ったと思うと、もうその姿は消えて、みんなは初めてふうっと息をつきました。それから今の話をいろいろしながら、丘を下って、それぞれ別れて家へ帰っていったのです。
九月五日
「僕は上海だって何回も行ったことがあるよ。
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