また捕まったら、また若旦那に買い取ってもらうつもりですよ。浅はかで悪うございましたね。私はどうしても若旦那にもう一度会いたかったんだから仕方がないでしょう。この『仕方がない』というところが、惚れた弱みというものですよ。どうか私の心意気を買ってやってください」
浦島さんは苦笑して、「身勝手なやつだな」とつぶやきました。
亀はそれを聞き逃さず、
「なんですか、若旦那。自分で自分の矛盾を突いていますよ。さっき自分で『人のことを批評するのは嫌いだ』なんて言っていたくせに、自分では私のことを『浅はかだ』だの『無謀だ』だの、今度は『身勝手だ』だのと、さかんに批評しているじゃないですか。若旦那こそ身勝手ですよ。私には私なりの生き方があるんですから。少しはそれを認めてくださいよ」
と、見事に言い返しました。浦島さんは顔を真っ赤にして、
「私のは批評ではない。これは訓戒というものだ。諷諫(ふうかん)と言ってもいい。諷諫というのは、たとえ耳が痛くても、その人の行いを正しく導くためのものなんだ」
ともっともらしいことを言ってごまかしました。
「気取らなければいい人なんですけどね」と亀は小声で言うと、「いや、もう私は何も言いません。さあ、私のこの甲羅の上に腰かけてください」
浦島さんは呆れて、
「お前は、まあ何を言い出すんだ。私はそんな野蛮なことは嫌いだ。亀の甲羅に腰かけるなんて、それは狂った人のすることだよ。決して上品な振る舞いとは言えない」
「どうだっていいじゃないですか、そんなことは。こっちは先日のお礼として、これから竜宮城へご案内しようとしているだけですよ。さあ、早く私の甲羅に乗ってください」
「なんだ、竜宮?」と言って浦島さんは吹き出し、「ふざけてはいけない。お前はお酒でも飲んで酔っているんだろう。とんでもないことを言い出す。竜宮というのは昔から歌に詠まれ、神様のお話として伝わってはいるが、あれはこの世には存在しないものだ。ね、分かるだろう? あれは古来、私たち風流人の美しい夢であり、憧れと言ってもいいものなんだ」
浦島さんの口調は上品すぎて、少し気取った響きがありました。今度は亀のほうが吹き出して、
「たまらないな。風流の講釈はあとでゆっくり聞かせてもらうとして、まあ私の言うことを信じて、とにかく甲羅に乗ってくださいよ。あなたは冒険の味を知らないからいけないんだ」
「おや、お前もやっぱりうちの妹と同じような失礼なことを言うね。確かに私は、冒険なんていうものはあまり好きじゃない。例えばあれは、曲芸のようなものだ。派手なようでいて、結局は下品なんだよ。邪道と言ってもいいかもしれない。宿命を受け入れる諦めの心がない。伝統に対する教養がない。『盲滅法(めくらめっぽう)に突き進む』ようなもので、私たち正統な風流の士からすれば、ひどく眉をひそめたくなるものだ。軽蔑していると言ってもいい。私は先人たちが歩んだ穏やかな道を、まっすぐに歩いていきたいんだ」
「ぷっ!」と亀はまた吹き出し、「その先人の道こそ、冒険の道ではありませんか。いや、『冒険』なんて下手な言葉を使うから、なんだか血なまぐさくて不潔な、ごろつきのような感じがしてくるんでしょうね。それなら、『信じる力』と言い換えてみたらどうですか。あの谷の向こう側に確かに美しい花が咲いていると信じられた人だけが、何の迷いもなく藤のつるにすがって向こう側へ渡っていくんです。それを人は曲芸かと思って、喝采したり、『なんて目立ちたがり屋なんだ』と眉をひそめたりする。でも、それは絶対に綱渡り芸人の芸とは違うんです。藤のつるにすがって谷を渡っている人は、ただ向こう側の花を見たいだけなんです。自分が今冒険をしているなんていう、卑俗な見栄のようなものは持っていないんですよ。冒険なんてものが何の自慢になりますか。ばかばかしい。ただ信じているんです。花がそこにあると、信じ切っているんです。そんな姿を、まあ仮に『冒険』と呼んでいるだけのことですよ」「あなたに冒険心がないっていうのは、あなたに『信じる力』そのものが欠けているっていうことですよ。信じることって、そんなに下品ですか? それとも邪道ですか? どうもあなたたちのような紳士は、『何も信じないこと』を誇りにして生きているから、始末に負えませんね。それは頭がいいからじゃありませんよ。もっと卑しいものなんです。つまり、ケチなんですよ。損をしたくない、損をしたくないって、そればかり考えている証拠です。安心してください。誰もあなたに、何かをねだってやしませんから。あなたたちは、人の親切さえ素直に受け取ることができないんだから、困ったものです。『後でお返しをするのが大変だ』なんて思っているんでしょう? いやはや、風流人っていうのは、本当にケチなものですね」
「ひどいことを言うね。妹や弟にさんざん言われて、浜へ出たら、今度は助けてやった亀にまで同じような失礼な批判をされるとは。どうも、自分自身の伝統や誇りを自覚していない連中は、好き勝手なことを言うものだ。一種のやけっぱちと言っていいだろう。私には何でもよく分かっているんだ。私の口から言うべきことではないが、お前たちの宿命と私の宿命には、とてつもない階級の差がある。生まれた時から、もう違っているんだ。それは私のせいではない。天から与えられたものだからだ。しかし、お前たちにはそれがよほど悔しいらしい。何のかのと言って、私の宿命をお前たちのレベルまで引きずり下ろそうとしているが、天の定め、人の力の及ぶところではないよ。お前は私を竜宮へ連れて行くなどと大ぼらを吹いて、私と対等の付き合いをしようとたくらんでいるようだが、もういい。私には何もかもお見通しなんだから、あまり悪あがきしないでさっさと海の底の自分の住みかへ帰りなさい。なんだ、せっかく私が助けてやったのに、また子供たちに捕まったら何にもならないだろう。お前たちこそ、人の親切を素直に受け取る方法を知らないんだ」
「えへへ」と亀はふてぶてしく笑い、「『せっかく助けてやった』だなんて、恐れ入りますね。紳士っていうのは、これだから困る。自分が他人に親切にするのは大変な美徳だと思っていて、内心では少しばかりお返しを期待しているくせに、人からの親切にはひどく警戒して、『あいつと対等に付き合うなんてとんでもない』と考えるんだから、本当にがっかりしますよ。それなら私も言わせてもらいますが、あなたが私を助けてくれたのは、私が亀で、いじめている相手が子供だったからでしょう? 亀と子供の仲裁なら、後腐れがありませんからね。それに、子供たちにとって五文のお金だって大金ですから。でもまあ、五文とは値切ったものですね。私はもう少し出してくれるかと思っていましたよ。あなたのケチっぷりには呆れました。私の体の値段がたったの五文かと思ったら、情けなかったね。それにしてもあの時、相手が亀と子供だったから、あなたは五文でも出して仲裁したんだ。まあ、気まぐれだね。でも、もしあの時の相手が亀と子供じゃなくて、例えば荒くれ者の漁師が病気の乞食をいじめていたとしたら、あなたは五文はおろか、一文だって出さず、いや、ただ顔をしかめて急ぎ足で通り過ぎたに違いない。
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