初級翻訳・Buying Mittens 第2話

Buying Mittens

「おかあちゃん、今夜はとっても寒いから、森の中で子ぎつねが寒さで泣いているんじゃないかなあ?」
しばらくして、おかあさんが答えました。
「あの子も、おかあさんぎつねの歌を聞きながら、穴の中で眠るころだよ。さあ、あなたも寝る時間ですよ。どっちが先に夢の中へいけるかな? あの子かな、それともあなたかな? いい子だから、もうお寝休み」

その言葉を聞いて、子ぎつねは大好きな「おかあちゃんの愛」を思い出しました。そして、急いで、おかあさんのもとへ走って帰りました。
震えながら、すごく心配して戻ってくるのを待っていたおかあさんは、子どもの姿を見るなり、うれしさのあまりぎゅっと強く抱きしめました。

二ひきのきつねは、おうちへ帰る道を歩いていきました。
のぼってきたお月さまが、ビロードのような毛並みを照らし、足跡を青く光らせました。

「おかあちゃん、人間ってこわくなかったよ」
と、子ぎつねは言いました。
「どうして?」
とおかあさんが聞き返しました。
「ぼく、まちがえちゃってほんもののお手てを出したんだけど、中の人はぼくをつかまえたりしなかったよ。この通り、こんなにあたたかい手袋をくれたんだよ!」
子ぎつねは、手袋をはめた前足をポンポンと合わせてみせました。

「まあ、まあ!」
とおかあさんはため息をつきました。
そして、ひとりでつぶやいたのです。
「人間って、本当にいいものかしら。人間が本当にいいものなら……」

(1943年9月10日 初出)森の、とても寒い冬の朝のことでした。
 おかあさんとふたりだけで暮らしている小さな子ぎつねが、おうちの穴から外へ飛び出しました。
「痛っ!」
 子ぎつねは目を手でおさえて、おかあさんのところへころがり戻ってきました。
「おかあちゃん、目になにか入ったよ! とってよ、おねがい!」
 おかあさんはとても心配して、そっと子ぎつねの手をどけてみましたが、目にはなにも入っていませんでした。そして、外へ出てみると、地面が雪ですっかりまっ白になっていたのです。空には朝の太陽が輝いていて、原っぱはまぶしいほどでした。おかあさんは、子ぎつねが今まで見たこともなかった雪のまぶしさに、目をくらませてしまったのだと気づきました。

 子ぎつねは、すぐに雪の中で遊び始めました。
 走り回るたびに、まるで絹の綿みたいな雪の粉が空へ舞い上がり、おひさまの光を浴びていろんな色にきらめきました。
 そのとき、ふいに――ポスン!――と、頭の上に粉雪のかたまりが落ちてきました。
 子ぎつねはびっくりして急いで逃げ出しましたが、立ち止まって振り返ってみても、だれもいません。じつは、もみの木の枝から雪がすべり落ちてきたのです。子ぎつねは、雪のひとすじが、まだ糸のようにスルスルとすべり落ちていくのを見つめました。

 しばらくして、子ぎつねはおうちに帰りました。
「おかあちゃん、手が冷たくてジンジンするよ!」
 子ぎつねは、濡れて痛む手を差し出しました。
 おかあさんは、あたたかい息をふきかけて、やさしく自分の前足で包み込んでくれました。
「すぐに良くなるよ。雪なんてこわくないからね」
 おかあさんは言いました。でも、子ぎつねの手がしもやけで腫れてしまうのではないかと心配になり、その日の夕方、町の帽子屋さんで、子どものサイズの手袋を買ってこようと決めました。

 森や原っぱにとっぷりと夜が訪れましたが、夜の間も雪はまっ白なままでした。
 それから、二ひきのきつねはおうちを出発しました。
 子ぎつねは、おかあさんのすぐ下を歩きながら、目をきょろきょろとまわしてあたりをキョロキョロ見回しました。

 しばらく行くと、前の方にぽつんと一つの光が見えました。
「見て、おかあちゃん!」
 子ぎつねが言いました。
「あんな低いところに、星が落ちてきたよ?」
「あれは星じゃないよ」
 おかあさんは足をブルブルと震わせながら答えました。
「あの光は、町からきているんだよ」
 それを見ると、おかあさんは昔、友だちといっしょに町でひどい目にあったことを思い出しました。そのときは、人間の農夫が、うっかりアヒルを盗もうとした友だちを見つけて追いかけてきたので、命からがら逃げ出さなければならなかったのです。

「さあ、おかあちゃん、行こうよ!」
 子ぎつねはおかあさんの下を歩きながら叫びました。
 でも、おかあさんの足はもうこれ以上歩けなくなってしまいました。だから、しかたなく、子どもひとりで町へ行かせることにしたのです。

「ねえ、おててを出してごらん」
 おかあさんが言いました。そして、愛おしそうにその手をぎゅっと握ると、子ぎつねの前足が、なんと小さな人間の手に変身しました。
 子ぎつねは、手を開いたり閉じたり、何度も何度もつねってみました。しばらくの間、くんくんとにおいをかいだりもしました。
「おもしろいなあ! これ、なに?」
 子ぎつねは、月の光の下で自分の手を見つめながら尋ねました。

「これは人間の手だよ」
 とおかあさんは言いました。
「いいかい、よく聞きなさい。町へ行きなさい。たくさん家が見えるからね。シルクハット(山高帽)の看板を探すんだよ。そして、そのおうちのドアをノックして、『すみませんが』って言うの。中の人がドアを少しだけ開けてくれるから、この手、人間の手をすき間に入れて、『ぼくにぴったりの手袋をください』って言うんだよ。わかったかい? それから、絶対にもう片方の手を出してはダメだよ!」
「どうして?」
 子ぎつねが聞き返しました。
「だって、そうしたら人間が手袋を売ってくれないでしょ。かわりに、おりに入れられてしまうんだから。人間は本当にこわいんだよ!」
「えっ、本当なの?」
「動物の手をドアの中に入れちゃダメだよ。人間の手を使って、手袋を買うんだよ」
 おかあさんは言い聞かせて、子ぎつねの人間の指に、銀貨を二枚ポンとのせました。

 子ぎつねは、明るい町へ向けてひとりで歩き出しました。
 雪の原っぱをトコトコと歩いていくと、たった一つの光が、二つ、三つ、そしてたくさんの光になりました。その光を見ていると、まるで星のように、赤や黄色や青といったいろんな色でできているように思えました。
 ついに町に到着したとき、どのお店も閉まっていて、高い窓からあたたかい光だけが通りにこぼれていました。

 小さな街頭のランプが、たくさんの看板を照らし出していました。
 子ぎつねはその看板を一つひとつ見ていきました。自転車や、メガネ、いろいろありました。新しく塗り替えられたものもあれば、すり減っているものもありましたが、町に来たのはこれが初めてだったので、どれもこれも新しくて不思議なものばかりでした。

 ついに、おかあさんが言っていた通りの家を見つけました。
 青い光の下で、シルクハットの看板がピカピカ光っています。
 子ぎつねはドアをトントンとノックして叫びました。
「すみませんが!」

 中でガタゴトと音がしたあと、ドアがゆっくりと、ほんの少しだけ開きました。
 すき間から一筋の光が、雪の積もった道路へとこぼれ出しました。

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