早く行ってごらん」
玄関に行ってみると、富子さんがお友達を二人連れて遊びに来ていた。
お姉さんはいるかと尋ねられたので、
「姉はお留守ですからお会いできませんよ。
富子さんなら、どうあってもお留守なんです。
お断りします!
先生とお話し中でとっても忙しいんですから、仕方がないんです」
ときっぱり断ってやった。
富子さんは「それなら結構です」とも言わず、お友達の手を引っ張って帰っていってしまった。
するとお歌さんは発狂したみたいになって、ぼくの耳をひっぱった。
富子さんは町中で評判のおしゃべりだから、明日学校へ行ってどんな言いふらし方をするかわからないんだそうだ。
先生はお歌さんのご機嫌が急に斜めになったのを見て、慌てて早々においとました。
また帽子がどこかへなくなって困っていたっけなあ。
ぼくの南京ネズミは、巣が広くなって大喜びしている。
あの家庭教師の先生は、よっぽど運の悪い男だ。
ぼくの家に来てからというもの、ひどい目に遭い続けている。
気絶させられたり、杖を折られたり、帽子を忠公に持ち去られたり、どう考えても散々なことばかりだ。
それでも懲りずにまたノコノコやってくる。
まったく無神経な男だよ。
だからまた帽子を取られちゃうんだよなあ。
だからこうもり傘をボロボロに破られても気づかないんだよなあ。
この間から、百合子さんとそのお母さんがぼくの家に泊まりに来ている。
ぼくがまた何かイタズラをやでしないかとお母さんもお歌さんもピリピリしているけれど、ぼくは百合子さんと仲良しだから、絶対に悪いことはしない。
百合子さんはぼくより二つ年上の お姉さんだ。
お歌さんもきれいだけど、百合子さんはまだ子供っぽさが残っていてとっても可愛らしい。
ぼくはお手伝いのお島にこう言った。
「どうしたんだろうね、お島。百合子さんが僕の部屋に入ってくると、僕は胸がドキドキするくらい嬉しいんだよ。
でも、部屋を出て行った後はなんだか急に寂しくなっちゃうんだ」
するとお島はくすくすとうかがうように笑い出した。
「何がおかしいんだよ」
と聞いても、なおもヘラヘラと笑っている。
笑ってるとぶっ叩くぞと言っても、まだ笑い続けている。
本当に馬鹿なやつだ。
そして、あざ笑いながらこう言った。
「それは坊ちゃんが、百合子さんのことを恋しているからですよ」
「そうなのか知らん?」
「そうでございますとも!
恋しているからこそ、百合子さんが来ると胸がドキドキするんですわ」
と、またニヤニヤしやがった。
ぼくは、もしかすると本当にそうなのかなあと思った。
するとお島は、どこまでいっても意地の悪いやつだ。
「坊ちゃん、あなたお花を買ってきて、百合子さんに差し上げてご覧なさい。
百合子さんがそれをを受け取って顔を赤らめたら、向こうもあなたのことを恋しているって証拠ですよ」
「もし顔を赤くしなかったらどうなるんだい?」
「それなら坊ちゃん、お先真っ暗、失恋ってことですね」
ぼくは、どうせ自分はたいてい失恋に終わるだろうと思った。
けれども、お島があまりにしきりに勧めるもんだから、ものは試しだと思って、花を贈ってみる気になった。
そしてお島には、絶対にこのことは秘密にしておく約束をさせた。
もし誰かにペラペラ喋ったりしたら、この間あの斜視の男にお金をあげた一件をばらしちゃうからな。
ぼくはさっそく奮発して五十銭の花を買ってきて、百合子さんにプレゼントした。
「ありがとう」と言ったきりで、百合子さんはいたって平気な顔をしている。
それ見たことか。ぼくはついに失恋してしまった。
もうこんな薄情なやつとは二度と遊ばないからいいんだ。
お島のせいで、五十銭も無駄骨に振ってしまったぞ。
今日は煙突の中に火薬を詰めて、ドカーンと爆発させてやった。
そのせいで座敷の家具や道具がけっこう壊れてしまった。
お父さんもお母さんもぼくをめちゃくちゃ叱るけれど、実際にぼくが悪いのかどうか、少しは道理の分かる人にちゃんと判断してほしいものだ。
六公の家へ遊びに行ったら、六公がすごく立派な絵葉書帳を見せてくれた。
どこで買ったのかと聞いたら、去年のクリスマスにもらったんだそうだ。
しかもサンタクロースにもらったっていうから、めずらしいよな。
去年のクリスマスに、ぼくはお父さんからもお母さんからもいろんなプレゼントをもらった。
でも、サンタクロースはぼくには何もくれなかった。
サンタのじいさんは、ぼくの家へ寄るのを忘れちまったんだろうか?
あいつの家とぼくの家は、せいぜい三町(約三百メートル)しか離れていないんだぞ。
それだけじゃない、忠公はたしかにサンタクロースを見たって言っていたんだ。
もっとも、あいつはおとなしくしていなかったから、結局何ももらえなかったらしいけどさ。
サンタクロースがぼくの家にも来たにちがいない。
来たには来たけれど、煙突が狭すぎて中に入れなかったにきまっている。
あれじゃあ、子どもだってとうてい入れやしないよ。
だから、クリスマスにはまだ半年も先だけど、今からしっかり準備をしておいたほうがいいと思って、ぼくは煙突をぶっ壊してやったんだ。
もしこれが悪いと言うなら、クリスマスの準備をするなんてこと自体がみんな悪いってことになっちゃうぞ。
そんな筋道も分からないで、ただ頭ごなしに叱ればいいと思っているんだから。
それよりも、さっさと左官屋さんを呼んできて、一間四方くらいの大きな煙突を新しく作ってもらえばいいんだよ。
手を火傷したり叱られたりして、本当に馬鹿馬鹿しいことこの上ない。
朝から頭痛がして喉が苦しくて、もう最悪だった。
だから今日は学校を休むことにした。
もしかするとジフテリアかもしれないってお母さんがお薬をくれた。
少し様子を見て、もし悪化するようなら森川さんを呼ぶつもりだったんだ。
だけど九時頃にはすっかり治っちゃったから、ぼくは元気に遊びに出かけた。
忠公を誘いに行ったら、お母さんが出てきて、怖い顔をしながら「忠坊は頭痛がして喉が苦しくて寝ているんだ」って言ったんだ。
まるでぼくのせいにされているみたいじゃないか。
それにしても忠公ってやつは、どうしようもない野郎だ。
もう九時を過ぎているっていうのにさ。
約束を守らないと、信用されなくなっちゃうぞ。
だから仕方がないから、ぼくはお春さんの家へ行った。
遊びにおいでよなんて気軽に声をかけてくれたって罰は当たらないのに、お春さんも森川さんも本当によくよく冷たい人たちだ。
おそらく天地がひっくり返っても、そんな優しい言葉は言わないつもりなんだろう。
だけど、思っていたよりはお春さんは歓迎してくれた。
お菓子でも何でもドシドシ出してごちそうしてくれるんだ。
でも、なんだか様子がおかしくて、お姉さんは森川さんとあまり口をきかない。
変だなと思って、あとで間宮くんに尋ねてみると、今朝先生と奥さんが大ゲンカしたんだそうだ。
「着物のことで奥さんが怒ったんですって」
「そうだろうよ、きっとそうだと思ったぜ」
「きっとそうだって、太郎さんはよく知ってますね」
「あの子は着物が気に入らないとすぐに怒るんだ。
初級翻訳・いたずら小僧日記 第24話
いたずら小僧日記
コメント