初級翻訳・シロ・クロ物語 第8話

シロ・クロ物語

あひては甲鉄の船で、武器もたくさんあり、速力もまさつてゐます。
けれどもターマンはおそれず、一生けんめい戦ひました。
幾人もたふれました。
しまひにターマンの船は、敵の船によこづけにされました。
ターマンは船のいちばん底の部屋に、部下といつしよにかくれました。
海賊たちはどつとのりこんできました。
その時です、用意しておいた火薬の樽と石油の樽に、火をつけました。
さいごの方法です。
ものすごい音がして、空も海もまつくろになるほどのばくはつがおこりました。
そして大火事です。
海賊どもはおほかた死にました。
味方もおほかた死にました。
ターマンの船はしづみました。
けれども、ターマンはふしぎにぶじでした。
生きのこつてる者といつしよに、もう海賊船にとびうつつてゐました。
その船をぶんどりました。
のこつてる海賊を降参させました。
その海賊船が、いま港の沖についてるあの水色の船です。
海賊のかしらはトム商会の主人だつたのです。
生きのこつてる海賊の案内で、ターマンはこのトム商会へやつてきました。
そして一同をあつめていひました。
「船の者たちはみなおれにしたがつてるから、こんどは君たちとの勝負だ。
だが、きりあひをしてもつまらない。
トランプで勝負をきめよう。
」
 トランプの札をとりだして、それをよくきつておいて、いきなり三枚ぬきだすと、それがクラブのしるしの3と4と5です。
次に三枚、ダイヤのしるしの3と4と5、次に三枚、ハートのしるしの3と4と5、次に三枚、スペードのしるしの3と4と5……まるで奇術です。
町の公園で、白髯の爺さんとシロとクロをごまかした腕前です。
海賊たちはびつくりしました。
その上、345といふ数は、海賊たちのなかまのしるしのメダルについてる数です。
そこで、345のメダルのなかまの海賊たちは、おどろきおそれて、みな、ターマンにしたがつてしまひました。
すつかり改心したのです。
そして今では、海の上の戦で、きずをうけた者も、お爺さんのきず薬で、たいていなほつてしまひました。
戦で死んだ者たちのためには、墓地に石碑をたてゝやつたところです。
海賊のかしらが、ひみつにしてゐた鉄の扉、誰にもあけることのできなかつたその扉も、猫とポン公とお爺さんとのおかげで、あくやうになりました。「そこで、」とターマンは言いました。「あの鉄の扉のなかに、何が入っているかしらべてみましょう。」
 ターマンは銀の鍵をとりだしました。
ポン公が三つの鉄の扉をあけました。
厚紙のまいてあるものが、いくつも入っています。
ひろげてみると、地図でした。
「おう……これは……。」とターマンはさけびました。
くわしい地図です。
南洋の島々のくわしい地図です。
ターマンは目を光らせ、顔をかがやかせました。
「すてきなものが手にはいった。
海賊がだいじにしまっている物だから、宝石だの金銀のかたまりだの、どうせそんなものだろうと思っていたら、これはたいしたものだ。
すてきだ。
これさえあれば……。」
 ターマンはとてもよろこんでいます。
その地図をたよりに、あの丈夫な海賊船でまた方々の島を探検に出かけるつもりです。
ターマンはりっぱな男です。
知恵もあり勇気もあります。
力もありそうです。
ポン公はこれまでのうらみもわすれて、ターマンを見あげました。
お爺さんもにこにこしています。
「僕も……探検についていきたいなあ……。」とポン公はつぶやきました。
ターマンはじっとポン公の顔を見ました。
そしてにっこり笑って、その手をにぎりしめました。
やがて相談がまとまりました。
ポン公はターマンについていくことになりました。
クロもつれていくことになりました。
白ひげのお爺さんが、シロといっしょに、トム商会をあずかることになりました。
二三人の男が、店員にのこることになりました。
もう明日にも出かけられます。
その晩、お爺さんとポン公をくわえて、ターマンの部下みんなで、さかんな宴会をひらきました。
そのあひだに、お爺さんとポン公は、シロとクロをだいて、二階の外廊下にでました。
月がでています。
きれいな月でした。
「シロとクロは、なんと言ってるの。」とポン公はお爺さんにたずねました。
「元気にいっておいえ、とシロが言ってるよ。」
「クロの方は。」
「たっしゃでるすをしておいで、と言ってるよ。」
「わかれるのをかなしがってやしないの。」
「かなしがるものかね。」
「そうかしら。
僕は……お爺さんとわかれるのが、なんだかさびしいなあ。」
 はははは、とお爺さんは笑いました。
それから言いました。
「よいことがある。
海にでると、星がたいへんきれいに見えるものだよ。
そこで、星の名をかきいれた大空の図をお前にあげよう。
面白いものだよ。
そして、星をみて、さびしくなったりかなしくなったりしたら、心に勇気がなくなりかけたしょうこだ。
星をみて、うれしいたのしい気持になったら、心に勇気がみちみちてるしょうこだ。
いかい、勇気をなくしちゃいけないよ。」
 ポン公はふかくうなづきました。

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