初級翻訳・デンマルク国の話 第2話

デンマルク国の話

宗教とか信仰といったものは、国がめちゃくちゃ元気で栄えているときには、実はなんの役にも立ちません。
しかし、国に真っ暗な暗闇がやってきたときこそ、心の光が必要になるのです。
国が栄えるのか、それとも滅びてしまうのかは、まさにこのピンチのときに決まります。

どんな国にも、ときには暗黒の時代がやってきます。
そのとき、その暗闇に打ち勝つことができる人たちだけが、ずっと先まで栄え続けることができるのです。
それはまるで、病気がやってきたときにその人の本当の健康がわかるのと同じです。
ふだん元気なときには、体が弱い人も強い人もあまり変わりません。
でも、いざ病気にかかってみると、弱い人は倒れてしまい、強い人だけが生き残ります。
それと同じように、本当につよい国は、国の大きなピンチに出会っても滅びたりはしないのです。
兵隊たちは負け、お金や財産はすっかりなくなってしまっても、そのときなお「もういちど立ち上がるぞ」というエネルギーを心の中にため込んでいるものなのです。

これは本当に、国民にとっての「テスト(試練)のとき」です。
このときに滅びないで踏ん張った人たちは、この先どんな運命がやってこようとも、絶対に滅びることはありません。
大昔の中国の王様・越王勾践(こうせん)が、ライバルの呉ををやっつけて国に帰ってきたことがありましたが、デンマークの人たちはそれとは反対に、戦いに負けてすごすごと家に帰ってきたのです。
故郷に帰ってみると、国は荒れ果て、お金もすっかり底をつき、見聞きするものすべてが「悲しみ」と「がっかり」の種ばかりでした。

「今のデンマークは、最悪の最悪の、とんでもない日を迎えてしまった……」
人びとは顔を合わせるたびに、お互いにそうつぶやきました。
このあいさつに対して、「ううん、そんなことないよ!」と否定できる人は、国じゅうのどこを探しても一人もいませんでした。

しかし、そんな絶望のなかに、一人の若い「工兵士官(こうへいしかん=軍の土木や建設の専門家)」がいました。
彼の名前はエンリコ・ミユリウス・ダルガス(Enrico Mylius Dalgas)。もともとはフランスからやってきた血を引く、デンマーク人でした。
彼の先祖は、歴史の教科書にも出てくる有名な「ユグノー」という人たちの一人でした。彼らは1685年に「自分の信じたい宗教を自由に信じたい」という理由だけで、生まれ故郷のフランスから追い出され、イギリスやオランダ、プロイセン、そしてデンマークへと逃れてきた人たちだったのです。
ユグノーの人たちは、逃げた先々の国で、自由と熱い心、そしてコツコツと働くまじめさを発揮しました。
イギリスでは、エリザベス女王のもとで、今や世界ナンバーワンと言われるほどのすごい製造業をスタートさせました。
そのほかにも、オランダやドイツで、たくさんの儲かる素晴らしい事業を次々と起こしていったのです。
古い宗教のルールを無理やり守ろうとした結果、フランスという国が失ってしまったたくさんの宝物のなかでも、あの国にとって「一番の大きな損害」と言えるのは、このユグノーの人たちが外国へ逃げていってしまったことでした。

そして19世紀の終わりになっても、彼らは自分たちの先祖が持っていた熱い精神を、少しも忘れてはいなかったのです。
ダルガスは、このとき36歳でした。工兵のリーダーとして戦争に行き、川に橋を架けたり、道路を作ったり、溝を掘ったりするなかで、彼は自分の国の地面や土の質について、ものすごく細かく研究していました。
しかも、戦争がまだ終わる前にもかかわらず、彼の頭の中にはすでに「国をもういちど復活させるための作戦」がしっかりと用意されていたのです。
それは、デンマークがヨーロッパ大陸につながっている部分であり、国の広さの大部分を占めている「ユトランド」という広大な荒れ野を、作物がよく育つ豊かな土地に変えてしまおうという、ものすごい大計画でした。

だからこそ、戦争に負けてまわりの仲間たちがすっかり元気をなくし、絶望に押しつぶされながら故郷に帰ってきたとき、ダルガスだけは顔にニッコリと微笑みをたたえ、頭の上には「希望の春」を咲かせているかのように生き生きとしていました。

「今のデンマークは、本当に最悪のひどい日を迎えてしまったな……」
がっかりした仲間たちが、彼にそう言いました。
「まったくその通りだね」と、ダルガスは答えました。
「だけど、ぼいたちは、戦いの外で失ってしまったものなら、今度はこの国の内側でしっかりと取り返すことができるんだ。きみとぼくが生きているうちに、このユトランドの広大な荒野を、美しい薔薇の花がいっぱいに咲くような素晴らしい場所に変えてみせようじゃないか!」
彼は続けてそう言いました。

この工兵士官の胸の中には、昔の預言者イザヤのような熱いスピリットが流れていました。
彼の血管を流れているユグノーたちの血が、こんなピンチのときにこそ、彼を「平和の天使」に変身させたのです。
まわりの人たちがみんなあきらめているときでも、彼は決してあきらめませんでした。
ほかの人たちが剣や刀で負けちゃったのなら、自分たちは「すき(農具)」を持って、それを取り返そうとしたのです。
これからは敵の国に復讐するための戦争を計画するのではなく、すきやくわを手に持って、国に残された広大な荒れ野と戦おう。そして、そこを美しい田園地帯に変えることで、敵に奪われてしまった土地の分までしっかり補おう――そう決意したのです。

それは、本当に本当の「本物のクリスチャン」らしい、素晴らしい計画だとは思いませんか?
本当の平和を愛する人というのは、ただ口で言うだけでなく、こういう素晴らしい計画を実行する人のことを言うのです。

しかし、ダルガスはただの「預言者」ではありませんでした。
彼は単なる夢見るおじさんでもなかったのです。
工兵のリーダーである彼は、土木の専門家であると同時に、地面のことも植物のこともめちゃくちゃ物知りな科学者でした。
彼はただの詩人ではなく、同時に「実際にそれをやり遂げる力」を持った行動の人だったのです。
彼は、自分の描いた理想の夢を、どうやったら現実のかたちにできるのか、そのやり方をちゃーんと知っていました。
こういうすごい軍人さんの姿を、私たちはヨーロッパやアメリカの歴史のなかにときどき見つけることができます。
「軍人さんといえば、人をやっつける戦い方のことしか頭にない人たちだ」という思い込みは、外国ではけっして当たり前ではないのです。

ユトランドの広さは、デンマーク全体の半分以上を占めるほど、ものすごく広い土地でした。しかしてその三分の一以上が、草も木も育たないような不毛の土地だったのです。
面積がおよそ一万五千平方マイルしかない小さな国デンマークにとって、三千平方マイルもの広大な荒野は、あまりにも大きすぎる「ムダなスペース」であり、大きな重荷でした。
「この荒れ地をすっかり耕して、作物がよく育つ素晴らしい田畑に変えてみせるぞ。

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