初級翻訳・デンマルク国の話 第4話

デンマルク国の話

「大きな樅の木が、ある程度まで大きくなったらそれ以上成長しないのは……あの小さな樅の木を、いつまでも大いなる樅の木のそばに生やしっぱなしにしているからなんだ!」もしある時期がきたときに、あの小さな小樅の木をパカーンと切り払ってあげたなら、大きな樅の木は自分ひとりでその土地を大きく占領して、どんどん成長をつづけることができるんだ――と。

そして、若いダルガスが教えてくれたこの言葉のとおりに実際にやってみたところ、本当にそのとおりの結果になったのです!

小樅の木には、ある程度の高さまで大きな樅の木の成長を助けてあげるパワーがありました。
しかし、そのちょうどいい大きさに達したあとは、逆に大きな木の成長のジャマをしてしまうという、とっても不思議な植物のふしぎなルールが、このダルガス親子の手によって発見されたのでした。

しかも、この大発見は、デンマーク国をよみがえらせるためには、本当にものすごく大きな意味を持つ大発見でした。これによって、ユトランドの荒れ地を元通りにするというむずかしい問題が、ついにパズルを解くようにスッキリと解決されたのです。

このおかげで、あちこちにモリモリと生い茂る立派な樅の林が見られるようになりました。
一八六〇年のころには、ユトランドの山林はほんの十五万七千エーカーしかなかったのですが、そこから四十七年後の一九〇七年には、なんと四十七万六千エーカーというものすごい広さにまで増えたのです。
しかし、これでもまだユトランド州全体の面積のたったの七分二厘(約七パーセント)ほどにすぎません。
これからもダルガスのやり方に従って木を植えつづけていけば、何十年後かには、あの土地に何百万エーカーもの緑の林が広がるようになることでしょう。
それは本当に、ワクワクするような希望にあふれた未来だと言えますね。

でも、木を植えたことでよかったことは、ただ木材がたくさん採れるようになっただけではありませんでした。

まず一番はじめに、とってもいい影響をうけたのは、ユトランドの「お天気(気候)」でした。
木の生えていない土地というのは、太陽の光でカンカン照りになって熱くなりやすいかと思えば、夜になると一気に冷え込んでしまいます。
そのため、ダルガスが木を植える前までのユトランドの夏は、昼間はものすごく暑くて、夜になるとときどき霜(しも)が降りたりしていました。
一日じゅう、まるで熱帯のような暑さと、初冬みたいな寒さがやってくるのですから、植物たちも生きていくのが本当に大変だったのです。
当時のユトランドの農夫たちが、ちゃんと収穫できるかなって希望を持たせて植えることができた植物なんて、ジャガイモやライ麦など、ほんの少しの種類の野菜や穀物だけでした。

しかし、植林が大成功したあとのかの地の農業は、ガラリとすっかり変わりました!
夏の時期にしつこくやってきた霜は、パタリとまったく降らなくなったのです。
いまでは、小麦も、お砂糖がとれるテンサイ(砂糖大根)も、北欧でとれる色々な穀物や野菜も、どれもみんな立派に大きく育たないものはないというくらいになりました。
ユトランドは、大きな樅の林がモリモリと育ってくれたおかげで、すばらしい田畑に生まれ変わったのです。
立派な木材が手に入ったうえに、最高のお天気までプレゼントしてもらえるなんて、人間がやるべきことといえば、やっぱり木を植えることに尽きるのですね!

しかし、木を植えたことによる素晴らしいパワーは、これだけにとどまりませんでした。

木がたくさん生い茂ったおかげで、海の方からビュービュー吹きつけてくる砂ぼこりが、土地をダメにしてしまうのをピタッと止めることができたのです。
北海の海岸によくある砂丘(砂の山)は、海岸のすぐ近くのところでガッチリと食い止められました。樅の木たちは、地面のなかにしっかりと根をはって、おそいかかってくる砂ぼこりにむかってこう言っているかのようです。

「ここまでは来てもいいけれど……」
「だけど、ここから先は一歩も越えてはいけないよ!」

――と。(これは聖書のヨブ記の言葉のとおりですね)
北海の海に面した国にとって、敵の軍艦よりもずっと恐ろしい砂丘というモンスターは、カッコいい戦闘艦ではなく、なんと緑の樅の林によって、ここでみごとにやっつけられたのでした。

霜はきえ去り、やっかいな砂もどこかへいき、そのうえ第三のいいこととして、大雨による「洪水(こうずい)」のひどい被害もなくすことができたのです。
これは、世界中のどんな国であっても、木を植えたところにはすぐに現れてくる嬉しい結果なのです。
もちろん、一番高いところでも海抜六百尺(およそ百八十メートル)しかない平らなユトランドでは、日本のような山だらけの国みたいなすごい大洪水が起こることはもともとありませんでした。
それでも、ほんの少しの心配だった洪水の被害すら、このダルガスのお仕事によって完全にシャットアウトされたのです。

こうして、ユトランドの州全体がガラリとすっかり生まれ変わりました。
さびれて消えかけていた街や村は、ふたたび元気になって立ち上がりました。
新しい町や村がどんどん新しくつくられました。
土地の値段もものすごく跳ね上がり、場所によっては四十年前のなんと百五十倍もの値段になったところもありました。
道路も線路も、タテにヨコにどんどん敷かれました。
日本の四国ぜんぶの島に、さらに一千平方マイルの広さをプラスしたくらいのユトランドが、見事に復活したのです!
戦争によって敵に奪われてしまったシュレスウィヒとホルスタインという土地のぶんまで、いまや完全に埋め合わせておつりがくるくらいだと言われているほどです。

しかし、木材よりも、野菜よりも、穀物よりも、動物たちよりも、もっともっと大切で尊いものは、そこに暮らす「人々の心(国民の精神)」でした。
デンマークの人たちの心は、ダルガスの植林が大成功したという結果のおかげで、ここでパッと明るく生まれ変わったのです。
すっかり元気をなくしてがっかりしていた彼らは、ここで素晴らしい「希望」をとりもどしました。彼らは、戦争で自分の国の土地を小さく削られてしまった代わりに、それよりももっと新しくてすばらしい国を手に入れたのです。

しかも、それはよその国を戦争で奪い取ったわけではありません。
自分の手で、自分の国をすっかり新しくつくりかえたのです。
神様を信じる自由な心からわき出る熱い情熱とがまん強さに、あの大きな樅の木と小さな樅の木のふしぎなパワーをかけあわせて、彼らはボロボロになって荒れ果てた自分の国を見事に復活させたのでした。

ダルガスが成し遂げたほかのすごいお仕事についても、今ここでぜんぶお話ししている時間は残念ながらありません。
彼がどうやって砂だらけの土地をすばらしい田畑に変えたのか、どうやってジメジメした沼地の水をきれいに抜いたのか、どうやって植物も育たないようなカチカチの土地を切り拓いて美味しい果物がなる果樹園を作ったのか――これらはぜんぶ、木を植えたお話と同じくらい、とっても面白くてワクワクする物語なのです。

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