女子 すんなりと越えられたかい?
少年 うん、うん、すんなり越えられたの。
僕を連れて来てくれたその人がね、僕の手を引いて門の前まで来たら、門が自然に両方へ開いて、二人が中に入るとまた閉まったんだ。
開く時と閉まる時、重くて暗い音がしてね。
その音を聞いた時、ぼくは心の中で思ったんだ。ああ、もう二度とこの門の外に出ることはできないんだって。
……ねえお姉様、あの門はいったい何の門なの? 両方に刃のついた長い剣が、門をしっかりと守っていたよ。
お姉様!
女子 お前さんを連れて来た影の人は、何かお前さんに言わなかったかい?
少年 うん、うん、むずかしいことを言ったのよ。
……「肉体を守る剣の門」だって。
女子 肉体を守る剣の門! その人の言う通りだわ。
……第二の門も、すんなり越えられたの?
少年 泉の水で守られた第二の門も、第一の門と同じように、影みたいな人に手を引いてもらって、らくらくと越えたんだよ。
お姉様、あの門は何なの?
女子 あの門はね、
「情けの泉」で守られた門よ。
少年 影みたいな人も、そう言っていたよ。
女子 ヨハナーンや! 第三の門は、火の門だったでしょうね。
少年 赤い火の門だったよ……。
女子 そして、とっても熱い!
少年 うん、うん、熱い火の門だった!
女子 それも、すんなり越えられたかい?
少年 自然に門が開いて、二人はらくらくと通り抜けられたんだ。
お姉様、あの門は何なの?
女子 影の人は、何て言っていたの?
少年 「熱い魂の門」ですって。
女子 その三つの門をくぐって、この青白いお部屋へやって来たんだね。
……かわいそうなヨハナーンや! ……何も知らないヨハナーンや!(少し間を置いて――涙とともに)ああ、ああ、かわいそうなヨハナーンや!
(二人は何も言わず、静まり返る。
――まるで小さなお墓のような静けさ。
ときどき、高い塔を吹き抜ける風の音と、水門に流れていく水の音が聞こえる。
……ヨハナーンは、またわっと震えながら泣き出す)
少年 (泣きながら)お姉様! ここがドキドキするよ、すごくドキドキするんだ、お母様やお姉様とお別れした日のように、胸がすごく躍るよ……。
……お姉様、お姉様! とっても激しく躍っているんだよ。
(自分の胸を押さえて、お姉様をじっと見つめ、おいおいと泣く)
女子 (もうどうすることもできないと分かっているかのように)ヨハナーン!(胸が締め付けられるような声で)ヨハナーン!
少年 お姉様! ぼくは、(あたりをきょろきょろ見回しながら)ぼくは……。
……(まわりを怖そうに見回す。
――お姉様もいっしょにあたりを見回す。
――青白い光が部屋いっぱいに広がる)
少年 お姉様、青い光がだんだん濃くなってきたよ。
……ぼくの体が、だんだん弱くなってきたみたい……。
(塔に吹きつける風の音)
お姉様! 今の音は何?
女子 風の音だよ、なんでもないただの風の音。
……ヨハナーンや! さあ、お姉様のところにおいで。さあ、昔みたいにぎゅっと抱っこしてあげるから。
さあ、おいで。
少年 (一歩うしろに下がりながら)いやだ、いやだ。
女子 怖いことなんて何もないんだよ……さあ。
(と、優しく手を差し出す)
少年 (その手をすり抜けて)お姉様!
女子 ヨハナーンよ! お姉様に会いたくて、恋しくてここまで来たんじゃないの……さあ、その会いたかったお姉様が、昔みたいにかわいがって抱っこしてあげるからね。
さあおいで……お前さんがよく眠れるようになる、大好きだった子守歌を歌ってあげるからね。
少年 (お姉様のそばにそっと歩いていき、その腕の中に抱きしめられる)お姉様!(そう言って、そっとキスをする)お姉様!
女子 (ヨハナーンの顔に何度もキスをしながら)昔みたいに、さあしっかりと抱っこされておいで。もっとぎゅっと、もっと強く、強く。
(ヨハナーンの顔をじっと見つめながら)お姉様の顔を、よーく、よーく見てごらん。
忘れないように、絶対に忘れないように。
……ねえ、いつまでも忘れないようにね。
少年 (お姉様の顔を見上げて)青い……!
女子 うん!
少年 青いよ!
女子 何が?
少年 青いの、お姉様のお顔が……それに、すごく冷たい! そして、ものすごく悲しそうなお目をしているよ。
お姉様! ……それにね、お姉様の手が、骨みたいにかちかちに硬いんだ。
骨みたいに……。
女子 ううん、そんなことないよ、ヨハナーンや! 私は昔みたいに、優しく抱っこしているんだよ。
……ねえ、優しいでしょう?
……ほら。
少年 ううん、骨みたいに硬いよ。
……それにぼくの、ぼくの、(自分の胸を押さえて)また胸がすごくドキドキしてきたよ……。
あの日のように――。
お姉様! ほら、ほら、ね、こんなに激しく動いているんだよ。
女子 (ヨハナーンの胸にそっと手を当てる)まあ……。
少年 お姉様! お姉様! お姉様!(と、体が痙攣するほど激しく泣く)
女子 うん、うん、もういいのよ……。
(と、窓から塔の外を透かして見て、すべてを諦めたような深い溜息をつく)
(ヨハナーンの泣き声だけが、悲しみを乗せて部屋中に響きわたる。
――その声は、だんだん、だんだん小さくなっていく。まるで、もうすぐ消えてしまいそうな笛の音のように……。
……少し長めの静寂が訪れる)
女子 (ハッと急に立ち上がり、上手の扉の方へ向かって耳を澄ませる)足音だ! 足音よ!(そう言って、ヨハナーンを床の上に立たせる。
ヨハナーンは急に泣き止み、おそろしいものに取りつかれたように、ブルブルと体を震わせた)(おとなのようにまじめなかおで)
女の子 ヨハナーン! あの音が聞こえますか。
あの音が? ああ、ああ!
少年 ううん、なにも聞こえないよ、お姉様、なにも聞こえないよ。
……あう、ううん! お姉様! 何の音なの? 風の音?
女の子 (じっと動かずに扉を見つめながら)ううん、足音! 大勢の足音よ!
少年 ううん、ちがうよ。
お姉様!
女の子 そうよ。
たしかにね。
(と、覚悟を決めたような落ち着いた顔つきで。
だけど、もうためらっている時間はないんだという態度で)ヨハナーン! さあ!(と言いながら、床の上に落ちていた七弦琴[しちげんきん]を拾い上げてヨハナーンに手渡し)さあ。
(塔の外を透かして見て。
また、扉の外へ耳をすませながら)さあ!
少年 (七弦琴を受け取りながら)お姉様!
女の子 (扉を見つめながら)歌ってあげましょう。
「その日のために」を。
……早く!
少年 お歌を! (と七弦琴をかまえる)
女の子 (絶えず扉の外の物音に気をくばりながら)このお歌はね。
……(と機織り機[はたおりき]の方へ近づき)いつもこのお部屋で、この機を織りながら歌っていた歌なのよ。
……ねえ、さあ……今日は機を織り終えるときに、……歌を歌い終えるときに。
……歌いながら織りましょう。
(少し間があく)ヨハナーンや?
少年 お姉様!
女の子 よーく、よーく歌の歌詞を覚えるのよ。
……(と機織り機の台に腰を下ろし、梭[ひだ/ひ]に手をかける。
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