初級翻訳・一休さん 第8話

一休さん

」
「では、ひとにつばやたんをはきかけられても、けんかをせぬか。」」
「はい、お拭いしてじっと黙り、怒らない修行をしたいと思います。」
「ほう、それでよい。それがおまえに、本当にできるか?」
「はい、できます。できるように修行いたします。」
「そうだ。こちらが正しいのに、つばやたんを吐きかけるようなやつは、いわば、ハエみたいなものじゃ。人間ではない。そんなやつを相手にけんかこうろんすれば、こちらがばかになる。」
「はい。」
「では、相手がぽかりと頭をなぐってきたら、どうする。」
「がまんします。」
「いや、ただがまんするだけではいけない。そんなやつには、いくらでもなぐらせてやるがいい。わけのわからないやつがなぐったときは、自分の頭を頭と思うな。石だと思え。」
「石だと思うのですか?」
一休さんは、にがい薬をのんだような顔をしました。
「そうじゃ。わしの頭は石じゃ。おまえの手はさぞいたかったろうと相手をながめ、相手をあわれんでやるのじゃ。」
「はい。」
こんどのさいごんじのおしょうさまは、こんなふうに徹底した心をもっており、そのころ学問も行いも、天下一だといわれていたえらいお坊さんでした。
おしょうさまは、
「おまえはなかなかできている。どうじゃ、わしのところでしんぼうできそうか。」
「いたします。」
「それでは今日からそうじゅんと名前をかえろ。」
一休さんはこうして、その日からさいごんじの小ぞうになりました。

米がない
「そうじゅん、さっそくだがでし入りときまったら、めしをたいてもらおう。」
でし入りがきまると、おしょうさまはさっそく仕事をいいつけました。
「はい。こめびつはどこにありますか?」
「だいどころにあるはずじゃ。」
だいどころにいってみると、こめびつはあるが、こめびつのなかにはおこめが一つぶもありません。
「おしょうさま、おこめがありません。」
「ないなら、どこからかさがしてこい。」
大変なことになったものです。
こんどのおしょうさまは学問や、学問を考える時間がほしくて、たくはつに出て、おこめをもらうのもわすれているのでした。
三日も、四日もごはんをたべないで、じっと学問をしていることがありました。
今日もあさからなんにもたべないで、みずばかりのんでいたのです。
そのときは一休さんがすぐきんじょの家に行って、おこめをもらって、おしょうさまにごはんをたべさせてあげましたが、そんなぐあいですから、学問では京のみやこでいちばんだといわれるさいごんじのおしょうさまもころもはぼろぼろ、道をあるくときはみぞのわきでひろった竹のぼうをつえについてあるくので、道であそんでいる子どもたちは、
「やーい、こじきぼうず。」と、はやしきたてるほどでした。
おてらのなかもぼろぼろ――それでも、おしょうさまのおへやには本が山のようにたまつていました。
つぎの日、おしょうさまは、一休さんをへやにつれていって、
「そうじゅん、これをよめ。」
と、かべにはってあるかみをゆびさしました。
そこにはむそうこくしというえらいお坊さんのかいた、お坊さんのわけかたがはってありました。
上とうのぼうず――もうれつに修行して、本当のお坊さんの道にたっしたお坊さん。
中とうのぼうず――修行がふつうで、ものわかりのいいお坊さん。
下とうのぼうず――おてらのしきたりだけをまもっているお坊さん。
この下とうのぼうずが二つにわかれていました。
一、本はたくさんよんでも、うたなどばかりつくってほとけのおしえをわすれたお坊さん。これはあたまをそったただの人。
二、ごちそうばかりほしがって、かってなことをしているお坊さん。
「せけんには下とうの二のお坊さんばかりおおいですね、おしょうさま。」
それをよんで一休さんがいいました。
「そうだよ。十にんのうちの八にんまでは下とうの二だ。」
「あんこくじのおしょうさまはどのくらいでしょう。」
あんこくじはまえのおてらです。
「そうだね。まず、中とうかね。」
「よしみつ公は下とうの二ですね。」
「まだ、下とうの二にもいかないよ。「おしょうさまは どのくらい ですか?」
「おれか。
おれは 上とうに はいりかけて いる ところだ。
おまえも ぼうずに なったからには、上とうの上に ならなくては いけないよ。
」
「はい!」

かたい けっしん

 一休さんは さいごんじで 四ねんかん。
みっちり しゅぎょう しました。
さすがの おしょうさまも、もう 一休さんに おしえることが なくなってしまいました。
「そうじゅんは いくつに なったな。
」
 ある日、おしょうさまが いいました。
「二十一さいに なりました。
」
「もう、ひとりだち しても いい ころだな。
わしは もうおまえに なにも おしえる ことが なくなったよ。
」
「おししょうさまの ごおんは けっして わすれません。
」
 ひとりだちして どこかの じゅうしょくに なれ、と すすめられましたが、一休さんは、
「いいえ、もっと がくもん します。
」
 と、いって、しばらく さいごんじに とどまっていました。
すると、そのとしの 十二がつに、おしょうさまが ぽっくり なくなりました。
みんなが、
「そうじゅんさん、おしょうさまの あとを ついで、さいごんじの じゅうしょくに なって ください。
」
 と、たのみました。
が、もっと もっと べんきょうしたい 一休さんは、
「わたしは まだまだ しゅぎょうが たりません。
とても あの がくもんの ふかい おしょうさまの あとを つぐことなどは できません。
」
 と、いって、さいごんじを でていきました。
わかれを つげて

 まだ お母さまが じょうぶで、京都の はずれに すんでいました。
さいごんじを でた 一休さんは、ひさしぶりに 母の もとを たずねていきました。
「お母さま、わたしは びわこの ほとりに しゅぎょうに いきます。
しばらく おわかれに まいりました。
」
「びわこの どこに いく つもりじゃ。
」
「かそうさまの おでしに して いただきたいと おもいます。
」
 かそう という ぼうさんは むらさき野の 大とくじ という りっぱな おてらの じゅうしょく でしたが、そのころの だらくした ぼうさんばかり いる 京都を ながれ、びわこの かただの ほとりに、みすぼらしい いおりを たてて、そこで ふかい しゅぎょうを している、よにも まれな とくの たかい ぼうさんでした。
「それは けっこうです。
でも おまえは どなたかの てがみを いただいて いますか?」
 お母さまは たずねました。
「いいえ。
」
「それでは むずかしいのじゃないか。
かそうさまは めったに でしを とらぬと もうします。
」
「でしに してくださらなければ、いおりの まえに ざぜんを くんで、しんでも うごかぬ かくごです。
」
「そうですか。
それほどの けっしんが あるなら、かそうさまも きっと でしに してくださるでしょう。
」
 それから 三日めの ことです。

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