」
じくさいさんは、そう いって おいて、
「しゅうけんさん、したから うえに さがるものは なあに……。」
と、いって、
「さあ、しゅうけんさん、ごちそうばかり ながめて いないで はやく こたえて ください。」
「ははあ、そんなこと わけも ありません。」」
一休さんは にこりと して、すらすらと、つぎの ような うたを よみました。
ふじだなの みずに うつりし ふじの はな
したより うえに さがるなりけり
「はい どうです、じくさいさん。
では、いただきますよ。
」
一休さんは うたいおわると さっそく ごちそうを ぱくつきました。
「えらい、えらい。
やっぱり わたしは しゅうけんさんに かないません。
さあ、たくさん、めしあがってください。
」
じくさいさんは 大よろこびで いいました。
こんなふうに まけても かっても こだわらないで よろこんで いるのが、ぜんしゅうと いう しゅうしの えらい ところです。
びょうぶの とら
そのころは、ぶっきょうの なかでも ぜんしゅうが とても さかんでした。
ぜんしゅうを しんこうする ひとたちは、もんどうが 大すきでした。
それで、一休さんの とんちは たちまち 大ひょうばんに なって、
「あんこくじの しゅうけん という 小ぼうずは 大へんに とんちが すぐれて いるそうだ。
」
と、いう うわさが、ぱっと 京の まちじゅうに ひろがりました。
そして、そのことが いつか しょうぐんけにも きこえました。
ときの しょうぐんは あしかが 三だいしょうぐんの よしみつ公です。
一休さんの はなしを きいた よしみつ公は、
「ほほう、それは おもしろい。
では 一つ その しゅうけんと いう 小ぞうを よんで、ごちそう して やろうでは ないか。
」
と、いって、つぎの日 さっそく あんこくじに つかいを よこして、
「あす 小ぞうの しゅうけんを つれて きんかくじに きなさい。
」
と、いいました。
よしみつ公は そのころ あたまを そって ぶつもんにはいり、天山と いいましたが、きんかくじを たて、そこに すんで いたのでした。
むかしは ぶしが としを とると、おてらを たてて ぼうずに なり、いんきょ することが はやったものです。
しょうぐんさまから まねかれる ことは 大へんな めいよですから、おしょうさまは さっそく しゅうけんを つれて きんかくじに いきました。
ふたりは すぐ りっぱな 大ひろまに とおされました。
上だんの まんなかに よしみつ公が すわっています。
その みぎと ひだりには、えらい さむらいたちが ずらりと ならんでいます。
おしょうさまは しずかに 手をついて、
「おめしにより、しゅうけんを つれ さんじょう いたしました。
」と、いいました。
「おお ごくろうじゃった。
」
よしみつ公は おしょうさまの うしろで あたまを さげている 一休さんを じろりと ながめ、
「くるしゅうない。
あたまを あげい。
」
「はい。
」
一休さんは あたまを あげて、あからがおの ずんぐり ふとった よしみつ公を じっと みあげました。
すると よしみつ公は とつぜん 一休さんに いいました。
「しゅうけん、おまえは なかなか とんちの よい 小ぞうじゃと きくが、どうじゃ、おまえの よこに ある その びょうぶに かいて ある トラは、まるで いきて いるようじゃろう。
」
「はい。
おおせの とおりで ございます。
」
「ところが、そのトラが まいばん そのびょうぶから ぬけだして、いたずらを するので ほとほと こまるのじゃ。
ついては そのほう ただちに そのトラを しばって わしの もとに つれてまいれ。
」
よしみつ公は なんもんを だしました。
おしょうさま はじめそこに いる人は、みんな あっけに とられて、一休さんが この なんもんに どう こたえるか じっと みつめていました。
ところが 一休さんは へいきのへいざで、にこにこ わらいながら、
「はい、しょうち いたしました。
」と、さらりと こたえました。
これには こんどは なんもんを だした よしみつ公のほうが、あっけに とられました。
「ただちに めしとるのじゃぞ。
」
「はい、わけが ありません。
」
一休さんは よしみつ公に かるく あたまを さげると、びょうぶの まえに たって いき、ころもの したから 手ぬぐいを だして きりきりと はちまきをし、いかにも トラを つかまえそうな かっこうをして、
「しょうぐんさま、おなわを おかしください。
」
「おお、たれか しうゅけんに なわを かしてやれ。
」
けらいは すぐ なわを もって きて、一休さんに わたしました。
どうするのだろう? 一休さんは ほんきで えに かいた トラを なわで しばる つもりでしょうか。
いならぶ 人たちも 手に あせを にぎり、じっと 一休さんの ようすを ながめています。が、一休さんは へいきで じっと びょうぶの なかのトラを にらんで いましたが、ふと よしみつ公の ほうを むいて、
「よういは できました。
すぐ しばりますから、どうぞ たれかに この トラを びょうぶの なかから おいださしてください。
」
と、いいました。
「う、う、うむ……なんと、その トラを おいだせと もうすか。
」
よしみつ公は おもわず うなりました。
「はい、おいだして くだされば しゅうけん ただちに しばります。
はやく ごけらいに いいつけて おいだしてください。
」
「う、う、うむ。
」
よしみつ公は 大きな 目だまを ぎろりと むきだして いつまでも うなっています。
これは はっきりと よしみつ公の まけです。
そう おもった よしみつ公は、すぐ、
「いや、あっぱれじゃ。
いかにも そちの とんち みあげた ものじゃ。
」
と、ひざを たたいて 一休さんの とんちに かんしんし、
「それ、ものども しゅうけんに ごちそうを だしてやれ。
」と、けらいに いいつけました。
おしょうさまと 一休さんの まえには 山もりどっさりの ごちそうが たくさん はこばれてきました。
一休さんは にこにこ 大よろこびで ごちそうに ぱくつきました。
さかなと にくと おさけと かたな
が、よしみつ公は も一つ 一休さんの とんちを ためして みようと おもって いたのでした。
ぜんしゅうでは さかな にく からいもの、おさけ などを たべたり のんだり することを きんじています。
そういう ものを てらの なかに もってくる ことさえ きんじていました。
ところが、いま 一休さんの 目の まえに はこばれた ごちそうには、さかなも にくも ありました。
おしょうさまは ごく したしいところでは さかなも にくも たべますが、いまは しょうぐんさまの まえなので たべようか たべまいか ためらっていましたが、一休さんと きたら そんなこと へいちゃらで、手あたりしだい むしゃむしゃ たべました。
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