初級翻訳・一休さん 第3話

一休さん

それが悲しくて、わたしは死んでおわびしようと思って、こんなにたくさんおしょうさまのくすりをいただきましたが、ちっとも死ねません」
そう言うと、一休さんは両手で顔を覆って、前よりも激しくわんわん泣き出しました。
「なに、茶わんを割ったと……」
「そうです。おしょうさまのお留守のあいだにお部屋をお掃除しておこうと思って、お茶わんを割りました。おしょうさま、ああ、わたしは死にたい、死にたい!」
一休さんはそう言いながら、またこぼれた水あめをぺろぺろとなめました。
おしょうさまはあきれかえって、一休さんを見つめていました。
そんなことが本当であるはずがありません。
「嘘じゃ」
と、おしょうさまはしかりました。
「ちがいます。嘘ではありません」
「そうか」
じっと考え込んだおしょうさまは、突然「あっはっはっは……」と笑い出してしまいました。
そして、言いました。
「周建、わしが悪かった。これはわしがまえたちをだました、仏さまの罰(ばち)というものじゃ」
それを聞くと、今度は一休さんがおしょうさまの前に両手をついて、
「おしょうさま、わたしが悪うございました。わたしは嘘をつきました」
と、あやまりました。
「いいや、周建。はじめに嘘をついたのはわしじゃ。悪いのはこのわしじゃ」
「いいえ、わたしが悪うございました」
「いや、悪いのはわしじゃ」
一休さんとおしょうさまは、今度は互いに自分が悪いと言い合います。
「わかった、わかった」
おしょうさまが、とうとう負けてしまいました。
そして、一休さんに、
「周建、おまえのトンチには驚いた。これからは悪いことをするなよ。悪いと気づいてさっそくあやまったのは、いい心がけだ」と、やさしく言い聞かせました。かたわれの月

 なにしろ子どもですから、一休さんは食べものとなると、夢中になってしまうことがあります。
その年の年の暮れのことでした。
暮れのことなので、おしょうさまは今日は小僧たちをみんな連れて、托鉢(たくはつ)に出かけました。
「周建(しゅうけん)、今日は おまえが留守番だ。
気をつけて お留守をするんだよ。」
 おしょうさまは 一休さんに留守番を言い付けました。
すると、おしょうさましたちが出かけて だいぶたってからのことです。
「ごめんください。
ごめんください。」
 と、おしょうさまのお部屋の方で 人の声がしました。
「おや、さっそくお客さまだな。」
 たったひとり、あとに残されてぼんやりしていた一休さんは、さっそく飛び出していきました。
「今日は、おしょうさんは留守かな。」
 裏口に立っているのは、安国寺(あんこくじ)の檀家(だんか)の本兵衛(もとべえ)さんでした。
お芋の問屋の本兵衛さんは、数多い檀家の中でもいちばん このお寺によくしてくれる檀家です。
今日もたくさんのお餅をついて、丁稚(でっち)の長松(ちょうまつ)に背負わせてきたのでした。
まるいまるい満月のようにまるい鏡餅です。
「これはこれは、本兵衛さんですか。
あいにく、おしょうさまは托鉢に出かけて留守です。」
 一休さんがていねいに言うと、本兵衛さんは、
「それはかまいません。
今日は年の暮れで、お餅をついたので、持ってきました。
どうぞ、おしょうさまがお帰りになりましたら、仏さまにあげてください と言ってください。」
 と、言って、丁稚の長松に背負わせてきたたくさんのお餅を置いていきました。
「うまそうだなア。」
 包みをほどいて、一休さんがちょっとさわってみると、お餅はまだほっかりとあたたかくて、まるでゴムまりのようにぷかぷかしていました。
一休さんはごくんと、つばをのみこみました。
夢中で、ひとつのお餅にかじりつきました。
「うまいなア。」
 一休さんがおもわずっこりしたときです。
がたがたと表に人の足音がして、おしょうさましたちが帰ってきました。
「あっ、大変だ。」
 一休さんはあわててお餅をのみくだそうとします。
が、あんまりたくさん、いっぺんにお餅を口のなかに入れたので、なかなかのみくだすことができません。
一休さんが目を白黒させていると、先に来たあにでしが、
「しゅうけん、またいたずらをしたな。
おしょうさまに見つかると大目玉だぞ。」
 と、一休さんのせなかをたたいてやりました。
「うわあ、苦しい。」
 一休さんがやっとお餅をのみくだしたときでした。
あとから入ってきたおしょうさまは このようすを見てくすくす笑いながら、一休さんのまえに、かけた鏡餅を出して、
「しゅうけん、しゅうけん、十五夜の月はまんまるなのに これはどうしたことだ。」
 と、なぞをかけました。
すると一休さんは、にこりとして、
「雲にかくれて ここに半分。」
 と、答えながらじぶんのお腹を指さしました。
これはひとつの歌になります。
十五夜の月はまんまるなるものを
  くもがくれして ここにはんぶん

 おしょうさまのは上の句、一休さんのは、下の句です。
おしょうさんは、この一休さんのトンチにすっかり感心してしまって、
「しゅうけん、でかしたでかした。」
 と、手をたたいて一休さんをほめ、
「さあ、お餅をたくさんあげるから、みんなで食べなさい。」
 と、たくさんのお餅をくれました。
「しゅうけん、うまくやったな。
またたのむぞ。」
 あにでしたちも大喜びで、お餅にぱくつきました。

皮問答

 安国寺のお坊さんになって二三年たったときでした。
機屋次九さい(はたやじくさい)というひとが、毎晩のように遊びに来て、おしょうさまとおそくまで話し合ったり、ごや(※碁や)しょうぎをしていきました。
このひとは長崎で生まれたのですが、お父さんはオランダ人でした。
いまでいえばアイノコです。
そのお父さんが、オランダにかえるとき、錦を織るほうほうを教えていきました。
じくさいは京都に来て機屋をひらいて、大へんはんじょうしました。これが、いまでも名高い西陣織(にしじんおり)のもとです。
「あれ、次九さい(じくさい)のやつ、また来たよ。」
 ある夜、あにでしの哲梅(てつばい)が玄関の方を見ながら、そう言いました。
「ほんとだ。今夜もまたおそくまでいるんだろうな。あいつが来ると、わしらがいつまでも寝られなくて弱るよ。」
 小僧たちは和尚さまがいるうちは寝るわけにいかないので、次九さいが来ると、みんな嫌がるのでした。
「なんとかしてあの次九さいめが、来ないようにするくふうはないものかなあ。」
 小僧たちはみんなでこんなそうだんを始めました。
一休さんもこれは同じ気持ち(どうかん)です。
すっとみんなの前に進み出ると、
「ぼくが次九さいさんのこなくなるおまじないをしましょう。」
と言い出しました。
「ほんとにそんなことができるかい。へんなことをすると、またおしょうさまから大目玉だよ。」
 あにでしたちは心配そうです。
「だいじょうぶです。もししくじったら、みんなぼくが罪をかぶります。」
 一休さんはとても自信がありそうです。
「それじゃ、たのむよ。うまくやってくれよ。」
 翌日の夕方のことです。

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