一休さんは、かそうさんの いおりを たずね、でしに してください、と たのみましたが、でしの 一人に、あっさりと ことわられ、かそうさんには あうことも できませんでした。
その夜の ことです。
月あかりの したで ひとりの としよりの りょうしが、びわこで あみを かけていますと、なにか とても おもいものが あみに かかりました。
あみを ひきあげて みると、おもいのも そのはず、わかい ぼうさんの したいでした。
かそうおしょうに もんぜんばらいを くった 一休さんが、かなしみの あまり、びわこに みを なげたのでした。
まだ しんぞうの こどうが ありました。
しんせつな りょうしは 一休さんを いえに つれてきて かいほうして くれたので、一休さんは いきかえりました。
「どうして みなげなど したのです。
」
じいさんと ばあさんが ききました。
一休さんが わけを はなしますと、じいさんと ばあさんは、
「それでは しばらく わたしの いえに とまっていて、ねっしんに たのみなさい。
」と、いってくれました。
「ああ、わたしは かそうさまの ゆるしを うけるまでは、いおりの まえで しぬまで ざぜんを くむ つもりだったのに、こんな ことでは とても だめだ。
」
一休さんは そう おもいかえして、それからも なんども なんども かそうさんの いおりを たずねましたが、そのたびに おいかえされました。
雪の あさ
としも あけて 一月七日の あさでした。
よるから ふりだした ゆきは、あたり いちめん まっしろに しています。
一休さんは あさから びわこの ほとりに でて、
「どうぞ かそうさまが でしに してくださるように。と ねがいながら ざぜんを くんで いました。
すると、ひょっと きが つくと、目の まえに、まゆの ながい としおいた おしょうさんが たっていて、じっと うつくしい みずうみの けしきを ながめて いました。
「あッ! かそうさまだ。
」
一休さんは、おもわず そう さけんで、おしょうさまの まえに 手をつき、
「どうぞ わたしを でしに してください。
」
と、たのみました。
「おまえは そうじゅんと いったな。
」
かそうさんは いいました。
そうじゅんが いのちがけで でしに してくれと たのんで いることを しって いました。
「びわこに みを なげた そうじゃな。
」そんな ことまで ちゃんと しって いました。
「はい。
」
「京で しゅぎょう したと いうが、だれの もとで まなんだ。
」
「さいごんじの おしょうさまに 四ねんかん まなびました。
」
「そうか。
さいごんじの おしょうに ついたか。
さいごんじの おしょうも おしいことを したな。
」
「はい。
」
「さいごんじの おしょうも がんこ だったが、わしは もっと がんこじゃ。
おまえは うわさに きいておろう。
」
「はい、ぞんじて おります。
」
「しんぼう できるか?」
「どんな しんぼうでも いたします。
」
「そうか。
ゆきの なかは さむい。
それでは、いおりの なかに はいろう。
」
「はッ! ありがとう ございます。
」
こうして、一休さんは やっと かそうさんの でしに して もらうことが できました。
からすの こえ
一休さんは 五ねんあまり、この かそうさんの もとで しゅぎょうして いました。
そのあいだに こんな ことが ありました。
いつか、一休さんを たすけてくれた あの としよりの りょうしは そのあとも 一休さんの めんどうを みていて くれましたが、ある 月あかりの うつくしい 夜の ことでした。
一休さんが、その りょうしの 舟に のせてもらって びわこの うえで ざぜんを くんで いますと、そらの どこかで からすの なきごえが しました。
「あッ!」
ざぜんを くんで いる 一休の しずかな こころの そこに、その からすの こえが しみわたって きました。
「ああ、わしは なんと いけない こころを もって いたのだろう。
」
一休さんは、きゅうに こころの 目が あいたように さとりを ひらきました。
どんな さとりを ひらいたのでしょうか。
一休さんは、これまで うつくしい ころもを きて、ごちそうを たべ、ほとけの みちに はずれた おこないをしている ぼうさんたちを、おこったり けいべつ したりしていました。
すみとおった びわこの うえで、なんの こだわりもない からすの なきごえを きいた ひょうしに、一休さんは「ああ、それは いけない ことだ。
」と、おもいあたったのです。
ひとの わるい ところを みて、ぶつぶつ いったり、けいべつしたり することは、いけない ことだ。
そんな ことに きを かけず、じぶんさえ ほんとうの みちを あるいて おれば よい。
そして、じぶんが ほんとうの みちを あるくことで、ほかの ひとが かんしんして、ひとりでに ほんとうの みちを あるくように なってくれるのが、ほんとうの ほとけの みちだ。
一休さんは そう さとったのでした。
これは、ほとけの みち だけではなく、にんげん みんなの ほんとうの みちでしょう。
一休と いう なまえ
また ある日の ことでした。
一休さんが やはり あの としよりの りょうしの 舟に のせてもらって、うつくしく すんだ びわこの うえで、がくもんの ことを かんがえて いました。
すると、どこからとも なく、うつくしい かなしい うたごえが ながれて きました。
ふと みると、みずうみの ほとりで、ひとりの こじきが びわを ひいて、うたを うたって いるのでした。
うたの きょくは、うつくしい しなの まいこが、王さまに しりぞけられたのを かなしんで、あまさんに なる、と いう、あわれな うたでした。
一休さんは その きょくを きいて、ひとの うんめいの かなしさに うたれ、しみじみと かんげき しました。
一休さんは ふねから あがると、さっそく そのことを おしょうさまの かそうさんに はなしました。
すると、おしょうさまは だまって へやに ひっこむと、一休 と かいた 大きな 字を、一休さんに わたしてくれました。
それまで そうじゅん と いっていた 一休さんは それから 名を 一休 と あらため、それを いっしょう かえなかったと いわれます。たびに でる
こうして、一休さんは かそうさんの もとで、いろいろだいじな べんきょうを しましたが、五ねん目の あるよの ことです。
あんなに きびしい おしょうさまが、その夜は にこにこして、
「一休、おまえは わしの もとにきて 五ねん あまりになるな。
」
と、はなしかけました。
「はい、ゆめの ように すぎました。
」
「わしは おまえに わしの がくもんの すべてを おしえた。
また おまえの こころは どんなに わるい ぼうずと まじわっても、もはや けっして けがれる ことの ない、ふかい ところに たっした。
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